k02-34 ミラージュ
「……なんだと?」
スプルースが怪訝な表情を浮かべる。
彼の持つ剣は、深々とアイネの腹部を貫いたまま。
けれども、アイネは微笑を浮かべたまま微動だにしない。
「どうなっている?」
スプルースがそう呟いた瞬間――
アイネの姿が虹色に揺らぎ、ガラスを割ったかのような透き通った音を立て粉々に砕け散る!
その場に居た全員が呆気に取られる。
「2人とも、びっくりさせてごめんね」
突然、自分のすぐ横からアイネの声が聞こえた気がして、驚いてそっちを見る。
さっきまで何も無かったはずの空間が陽炎のように揺らぐ。
そして、パキパキと音を立て輝く破片が崩れ落ちていく。
そこには――さっき目の前で剣に貫かれたはずのアイネの姿が!
貫かれたはずの腹部に傷は無い。
それどころか戦いでボロボロになっていたはずの羽衣も元通りだ。
唖然としているスプルースに向けアイネが話し出す。
「あなたの言うように、確かにこの姿は回避特化の能力です。けれど、それは基礎能力のの1つ。本当の力は"水と光のマナで自分の分身を作り出す“ことです。あなたがさっきから戦っていたのは私の分身です」
「……恐れ入った。今まで数え切れない程の敵と戦ってきたが、こんな力は見たことがない」
分身が消え、何も無い空間を突き刺したままになっていた剣を構え直すスプルース。
「だが……そんな重要な事を敵の眼前で易々と話すなど、油断が過ぎるのではないか?」
剣先をアイネに向けなおして構える。
「……いえ、もう勝負はついています」
そう言って静かに微笑むアイネ。
「……どういう事だ?」
「気づきませんでしたか? あなたの攻撃を受けるたびに私の分身が少しずつ砕けていた事。その破片は細かい粒子になって、今この部屋中に漂っています」
そう言って辺りを見渡すアイネ。
いつの間にか、虹色に輝くキラキラとした光の粒が部屋中に漂っていた
「この破片たちは、宙を漂いあなたの皮膚にも大量に付着しています。それに、呼吸によって体内にも大量に取り込まれているはずです」
「……それがどうした? こんなマナの破片で何か出来るとでも?」
「知っていますか? クラゲって……本体が死んだ後もその触手にある毒のトゲは数日間機能し続けるんですよ」
「――まさか!!」
「えぇ、終わりです!!」
アイネが祈るように胸元で両手を組む。
目を瞑り祈るように囁く。
「揺蕩って――ミラージュ!!」
周囲を漂っていた光の粒が、透き通った音を立て一斉に虹色の採光を放ち砕け散る!
戦闘の行く末を見守っていた兵士達が次々に倒れていく。
「お……おの、れ!!」
そう言い残すと、スプルースもゆっくりと膝から崩れ落ち、床に倒れ込んだ。
―――
「シェンナ、アザレア、大丈夫!?」
アイネが駆け寄ってくる。
「わ、私は大丈夫です! シェンナは!?」
「私も……どうにか」
どうにか脇腹の痛みも引いてきた。
「あいつ……死んだの?」
倒れて動かないスプルースを見る。
「ううん。これだけの広範囲で、しかもこの人数を一斉にってなるとそこまでの威力は無いよ。全身麻痺で痺れてるだけ。あ、シェンナ達もあの破片いっぱい吸い込んでるはずだけど、安心してね。少し経てば自然と消えるから!」
そう言っていつもの優しい笑顔を見せるアイネ。
その顔を見た瞬間、ホッとして涙が溢れる。
アザレアも同じみたいで、2人してアイネに抱きつく。
「わ、わ!? どうしたの2人とも!? そんなに怖い思いしたの? もう大丈夫だよー!」
そう言って両手で私達の頭を撫でるアイネ。
「バ、バカ! 違うわよ! ホント、どんだけ心配したと思ってんのよ!」
「そうですよ! 橋から外海に落ちたって聞かされて!」
「う、うん。危なかったんだけどね。この子が助けてくれたの」
そう言って、身に着けたワンピースを優しく撫でるアイネ。
すると、ワンピースが光の粒となり風に流されるように消え去り、元の制服姿に戻る。
「い、今の、何なの? あのブティックで見たワンピースよね?」
「うん。あのワンピースは……昔この辺りに住んでたマモノの魂の残火というか……説明しようとすると時間がかかるんだけど――それより!」
そう言って端末を指さすアイネ。
「そ、そうね! 今はまずやるべきことをしましょう!」
「はい!」
涙を拭いて、アザレアと一緒に端末に向かう。






