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k02-33 輝きのウェディングドレス

 アザレアを担いだ兵士が、床に這いつくばったままの私の前を通り過ぎて行く。



 だめだ、どうしても体に力が入らない……


 アイネにあれだけ「任務任務」って言っておきながら、いざってときに何て様なの……!



「は、放して!」


 腕の中で精一杯暴れるアザレア。


 男の頭に向け力いっぱい拳を打ち付け続けるけれども、一際屈強な男はびくともせず歩き去っていく。



 何とか――何とかしないと!


 床を這ってどうにかその後を追いかける。



 そんな私の前に、他の兵士が前に立ちふさがり行く手を遮る。


 そいつに向け魔兵器を構える!



 けれど、トリガーを引くよりも先に腕を蹴り飛ばされる――


 手から零れ落ち床を滑っていく魔兵器。



 そのまま、兵士に背中を踏みつけられる。


「――っぐ!」


 胸が圧迫され思わず声が漏れる。



「スプルース様。――この少女はいかがしますか?」



 異世界の戦士……スプルースと呼ばれたその男が、こっちを振り返り静かに答える。


「……何度も忠告はしたぞ。――殺せ」



 頭の上で、刃物が鞘から抜き去られる音がする。


 うつ伏せに踏みつけられているのでその様子は見えない。




「――シェンナ!! 辞めて! 辞めてください!! 私、何でもしますからぁぁ!!」


 アザレアの絶叫が聞こえる。



 首筋に、冷たい金属があてがわれる感覚が伝わる。



 ごめんなさい、アザレア……


 ごめん、アイネ。


 私、何も出来なかった……



 目を瞑って体を強張らせる。






 ――――ドサッ




 何かが倒れる音が聞こえる。


 同時に、踏みつけられていた背中が軽くなる。



 ――?




 恐る恐る目を開けると、すぐ横に私を押さえつけていた筈の兵士が倒れている。



 周りを見渡すと、アザレアを抱きかかえていたガタイの良い兵士も床に横たわって居る。


 その隣で唖然としているアザレア。





「――どうしてお前がここにいる?」


 異世界の戦士……スプルースが驚いた様子で声を上げる。




 その目線の先には――



 アイネの姿が。






「アイネ!!」


 思わず声を上げる。



「アイネ! 無事だったんですね!」


 涙を流して喜ぶアザレア。




 アイネは黙ったまま、優しい笑顔を私たちに向ける。




 ――?


 その様子に違和感を覚える。



 白金色の髪と瞳。


 その様子からファントムの力を使っている事が分かる。


 けれども、耳も尻尾も一切無い。



 それに……その服装。


 さっきまで着てたはず制服ではなく、真っ白なワンピースを着ている。


 ……あの服!


 前に行ったブティックで見たワンピースに間違いない。




 黒装束の兵士達が一斉に整列し、武器を構える。


 その背後からスプルースが号令を出す。


「……魔兵器の使用を許可する。ただし、周辺の設備に被害が出ないよう威力は調整するように。――撃ち殺せ」


 号令を受け兵士たちが一斉に魔兵器を撃つ!


 数えきれない程の燃える弾丸がアイネに降り注ぐ。



 その弾丸の雨を、ユラユラとした動きで躱すアイネ……。



 何なの?

 ファントムの動きとは全く違う――。


 私の目でも見て取れる程のゆっくりした動き。


 それでも、数え切れない数の弾丸を完璧に避け切る。



 息一つ切らさずに、その場でゆらゆらと体を揺らして立つアイネ。



 弾切れだろうか。

 兵士達が一斉に腰の剣を抜く。



 連携の取れた動きで、ジリジリと間合いを詰めてくる。


 そのうち、1人が走り出したのを合図に、一斉にアイネに切りかかる!




 ――けれども、アイネから数メートル手前で、膝から崩れ落ち床に倒れ込む。


 他の兵士達も次々と倒れ、全員が動かなくなった。




「――ほぉ。また不可解な物を……」


 スプルースが怪訝な表情を浮かべる。




 アイネの両肩には、いつの間にか白く半透明な羽衣のような長い織物がかけられていた。


 風も無い室内なのに、それはまるで水中に居るかのようにユラユラと揺れている。


 そして、頭からもヴェールのような半透明な髪飾りを被っている。


 それらが揺れるたび、キラキラと輝く淡い光の粒を放つ。



 その美しく幻想的な姿は、さながらウェディングドレスみたいだ……





 スプルースが、おもむろに片手を上げ、アイネに掌を向ける。


 魔法発動の閃光が走り、拳大の石の塊が複数浮かび上がる。



「――キヴィ・ロッカ」


 石の雨が一斉にアイネに襲い掛かる!


 ――魔法!?




 けれど、アイネはゆらりゆらりとその全てを躱す。



「……視線も動かさず、予備動作も無しに避けるとは。自動回避……とでもいったところか。橋の上で見せて貰ったのが攻撃特化とすると、今度は回避に特化した能力という訳か」


 アイネは何も答えず、薄っすらと笑みを浮かべたまま、ただその場でゆらゆらと揺れている。



「大した能力だ。だが……逃げてばかりでは勝てないぞ!」


 そう言うと、剣を抜きアイネに切りかかる。



 素早く駆け寄り、間合いに入る――その直前!!



「――!?」


 甲高い金属音が鳴り響き、大きく後方に飛び退くスプルース。



「成程……先ほど兵たちをやったのはこれか」



 目を凝らして見ると、アイネとスプルースの間に光の帯のようなものが見える。


 ――羽衣だ。




 間合いを取り直し、再び切りかかるスプルース!


 羽衣が素早くたなびき、その斬撃をいなす。


 それだけではなく、時折隙を見てこちらから斬りかかる!



「――! 自動回避だけでなく迎撃までも自動で行うのか。まったく、エバージェリーでも聞いた事がないぞ」


 薄っすらと笑いをこぼすスプルース。



「実に面白い。異世界の未知の能力と、私の剣技、どちらが上か試させて貰おう!」


 そう言うと一気にスプルースの斬撃が激しさを増す!



 目にも止まらない連続攻撃――!



 踊るように立ち位置を変えながら、羽衣でその剣劇を受け流すアイネ。



 激しい斬撃の全てを見事にいなす。



 けれど……何重にも迫りくる斬撃を受け続けるうちに、アイネの羽織っている羽衣が、少しずつ削られていくのが分かる。


 どんどんボロボロになり飛び散っていく羽衣……


 それでも、表情を変えずゆらりゆらりと避け続けるアイネ。




 さすがのスプルースにも疲れの色が見えてきたようだ。


「成程……私の体力切れが狙いという事かね。確かに、過去にこれ程の時間を人と切り結んだ事は無かったかもしれんな。良い経験をさせて貰った。……しかし、これで仕舞だ!!」



 そう言うと、拳を前に突き出す。


「――アロウ・フューリ!」


 その拳に周囲の空気が一斉に集まり圧縮される。




 その拳を激しく床に叩きつける。


 床のパネルが弾け飛ぶと同時に、炸裂した空気が周囲に乱気流を起こす!



 その突風に煽られ足を取られるアイネ。


 その一瞬の隙を突き、瞬速の突撃を放つスプルース!


 その一撃はアイネの重心のど真ん中を貫き避ける事を許さなかった。



 剣で腹部を貫かれ、串刺しになるアイネ。



「アイネ!!」

「――キャーー!!」



 私とアザレアの悲鳴が部屋に響き渡る……


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