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k02-17 バカンスは突如終わりを告げる

 ハイドレンジアに来てから5日目。


 今日は重役会議があるとかでグラードさん、マスター、ヴィントさんは朝から会社へ出かけていった。



 お屋敷には私達3人だけということで……朝からお菓子作りに勤しんでいる!



「あ、シェンナ! 砂糖はちゃんとレシピ通りの量入れないとダメだって!」


「だって、凄い量よ!? こんなに砂糖食べたら絶対太るって!」


「シェンナ、気持ちは分かりますけど変に分量を変えると美味しくないですよ」



 あーだこーだ言いながら、1時間程で美味しそうなシフォンケーキが焼きあがった。


 ちなみに、お菓子作りなんて子供の頃にやったきりだった私は途中からお荷物扱いで、殆どアイネとアザレアが仕上げたんだけど……。



 焼き立てのケーキと紅茶を持ってお庭のテーブルを囲む。



 綺麗な花々が咲くお庭を見ながら、午前のティータイム。



 あぁ……優雅ね。


 世界随一の観光地で、ショッピングにレジャーにグルメと。


 かなり充実したサマーバケーションを過ごさせてもらってる訳だけど、ホントにこれが実地演習で良いのかしら。



 昨晩、難民キャンプの支援へ行っているエーリエから届いたメールを見てみたら……


 現地では携帯端末の電波も届かなくて、外部と連絡を取れたのが4日ぶり。


 お風呂どころか、シャワーも2日に1回。

 濡れたタオルで身体を拭くだけって日もあるし、ホント早く帰りたい!!

 ……って悲痛な内容だったわ。



 こっちの状況も聞かれたけど、さすがに申し訳なくて返答に困った。

 ……正直、もう2週間くらいは居たい気分ね。





 ところが……


 そんなそんな華やかな日常は、唐突に終わりを告げる――――






 何の前触れもなく、何処か遠くから爆発音が聞こえた気がした。



「え、今の……爆発?」


 アイネが椅子から立ち上がる。


 どうやら私の気のせいではないみたい。



「事故……でしょうか。私ニュース見てきます」


 そう言って小走りで屋敷の中に戻るアザレア。



 その間に、屋敷の外まで出て道路から街の方を見渡してみる。


 小高い丘の上にある屋敷からは街を一望出来るけど……さっと見渡しただけで一瞬にして異常に気付く。



 街の向こう、海の上……。

 数か所で黒煙が上がっている!



「シェンナ、あそこって……」


 隣で同じく街を見渡していたアイネも異変に気付く。


「えぇ。――カットアップ・ホワイトライン」



 これだけ離れた位置からでも噴煙が見える規模の爆発。


 単なる乗用車同士の事故というレベルでは無い事は明らか。


 しかもそれが何か所も同時にって……。



 何だか嫌な予感がする。




「アイネ、シェンナ! 大変です! これ見てください!!」


 アザレアの慌てた声が聞こえる。


 一瞬アイネと顔を見合わせ、急いでアザレアの元に向かう。




 アザレアはリビングに居た。



「これ……」


 そう言って壁掛けの大きな魔鉱ヴィジョンを指さす。



 そこには臨時ニュースが映し出されていた。



『ホワイトラインの複数個所で原因不明の爆発。当局が事故と事件の両面から緊急調査中。当面の間通行は不可能』



「爆発って……。ねぇ、アザレア。こんな事今までに?」


「いえ、事故があったとしてもせいぜい乗用車同士の軽い接触事故くらいです。爆発なんて……」



 とりあえず今はニュースの続報を待つしかないわね……。



「アイネ、念のため装備の確認を」


 アザレアを不安にさせないよう小声でアイネに伝える。


「分かった」


 そう言って頷くと、アイネは小走りで2階の客間へ向かう。




 丁度その時、門の前に黒塗りの大きな車が停まった。


「あら……? あれはお父様の会社の車ですね。何かあったのかしら」


 そう言って足早に玄関へ向かうアザレア。



 時を同じくして、今度は私の携帯端末が着信を知らせる。


 相手はマスターだった。


 慌てて通信を受ける。



「おい! お前ら無事か!? 今何処だ!?」


 珍しく慌てた様子だ。



「え、あ、うん。今お屋敷だけど。事故の件?」


「事故じゃない! あれはテロだ!」


「え、え? なに? 何の話よ!?」


 マスターの口から唐突に告げられた物騒な話しに驚いて頭がついていかない。


「詳しい話は後だ! 良いか良く聞け。俺の部屋にスーツケースがある。それを持って屋敷を離れろ。アザレアを連れてどこか人目のつかない所に隠れるんだ!」


「ちょっと待ってよ、いきなりそんな事言われても……! とりあえず、今C.S.C社の人が来たみたいだから、事情を話して一端保護して貰うから」


「――!! ダメだ! テロの首謀者はC.S.C社だ! アザレアが狙われてる!」


「え!? ウソ!? 今アザレアが表まで出迎えに……」


「マズい!! 急いで止めろ!!」


「わ、分かった!!」


 そう言って通信を切り、半信半疑ながらも玄関へ走る。



 ―――



 玄関から外を伺うと、車から黒服の男が数人降りてくる所だった。



「こ、こんにちは。お父の会社の方ですよね……。確か、警護担当のサイノスさん?」


「はい。覚えて頂いていましたか。光栄です。お久ぶりですね」


 そう言いながら、身分証明書らしき者を見せる。


「お父上からのご依頼でお迎えに参りました。島内でちょっとした事故がありまして。お嬢様の安全のため我が社へ一時避難して頂きます」


「避難って……そんな危険な状況なのですか?」


「いえいえ、念のためです。ご心配なく。詳しくは車内でお話ししますので、さぁこちらへ」


 そう言って腰に手を回し、やや強引にアザレアを車へ誘導しようとする


「ち、ちょっと待ってください。色々準備が。それに、そう言う事でしたら私の友人も一緒に……」


「ご友人……」


 それを聞いて、黒服の男が立ち止まる。





「アザレア!!」


 玄関から飛び出し、慌てて声を掛ける。



 その場に居合わせた全員が同時にこっちを向く。



「シェンナ! 丁度良かった。こちらお父様の警護担当のサイノスさん。何か事故があったみたいで、会社に一時避難するって。 シェンナ達も一緒に……」


「アザレア、ちょっといいかな?」



 そう言って、いったんアザレアを呼び寄せようとしたけれど……サイノスとかいう男がそれを遮る。



「お嬢様、お急ぎください」


「え……でも、念のための避難って。……何をそんなに急いでいるのですか?」


 アザレアが怪訝そうな顔を向ける。


 サイノスは顔色を変えず答える。



「いえ、そう言う訳ではないのですが……何分我々も予定がありまして」




「アザレア」


 もう一度声を掛ける。



「友人が呼んでいますので。少しだけ失礼します」



 そう言ってこっちへ歩き出すアザレア。


 しかし、1歩進んだ所でガクッとその歩みが停まる。


 サイノスが、後ろからアザレアの腕を掴んで離さない。



「――! 何をするんですか! 離してください!」


 そう言って険しい顔を向ける。


 しかし、男は無表情のまま手を放そうとしない。



「ちょっと!! 何してんのよ! アザレアから手を離しなさい!!」


 助けに向かおうと、一歩踏み出した瞬間――サイノスが素早く片手を上げる。


 それを合図に、後方で控えていた数人が懐から銃を取り出し私に向ける!!



「止まれ」



 サイノスが、私に向かって冷たく、険しい口調で言い渡す。


 言われる通りのその場に立ち止まる。



「な、何をしてるんですか!? 今すぐ辞めさせなさい!!」


 サイノスに詰め寄るアザレア。



「怪我をしたくなければ黙って従え! 友人を死なせたくないだろ」


 そう言って強引にアザレアの腕を引っ張る!


「え……」



 その豹変ぶりにり、アザレアは困惑し固まる。



 正体を現したわね――!



 それにしても、不味い……。


 この状況、どうする?



 あいつらが構えているのは一般兵器の小銃。


 もし制服さえ着てれば数発被弾しても何てことないんだけど、運悪く今は私服……。



 しかも、アザレアが近距離で捕らわれてる以上下手な特攻も出来ない……。



「ち、ちょっと! 辞めてください! 放して!!」


 考えている間にも、アザレアが無理やり車へ引きずられていく!!



 どうする!? どうする――


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