k01-05 嫌われファミリア
『魔鉱石』
魔力を秘めた特別な石。
テイルとはその魔鉱石に関する技術や学問を学ぶ総合教育機関だ。
それだけに、学園の敷地内には学科ごとにさまざまな専門施設が有る。
魔鉱石を動力源として応用し生活に役立つ『魔鉱器』
その開発過程・技術修練などを学ぶ魔鉱器学科。
所属する生徒達は専用の機材が揃う『技術棟』に通い日々試行錯誤を繰り返している。
魔鉱石からより効率的に力を引き出すために、魔鉱石の構造やマナと呼ばれるエネルギーとの交換効率などを研究する『魔鉱マテリアル学』
『研究棟』では所属生徒達が日夜難しげな実験に没頭している。
そして……魔鉱石をエネルギー源とし、通常兵器を遥かに凌ぐ威力を引き出す軍事技術『魔兵器』
一般火器に比べ、数倍から数十倍と言われる圧倒的な威力を持つ魔兵器だが、その取り扱いにはそれなりの鍛錬が必要だ。
その専門技能の習得を目指すのが『戦術魔鉱学科』
魔兵器が誕生したのは今から80年程前。
その頃キプロポリスは内戦の絶えない非常に不安定な社会情勢だった。
当時にに比べれば随分と平和になったとはいえ、未だマモノや武闘派組織など危険因子の絶えない世の中。
戦術魔鉱学科の卒業生は企業や軍部から引く手あまたで例年数多の就職先が用意されている。
長年テイルの花形とされる学科だ。
そんな彼らが魔兵器や一般兵装の実射訓練を行う施設が『射撃演習場』
世界随一の規模を誇るウェステリア・テイルともなると、室内外大小さまざまな演習場が敷地内に設けられている。
―――
時刻は午前9時少し前。
マスター・ジンとアイネは学園内で最も大きな、第一射撃演習場の前に立っていた。
「へぇー。中々立派な設備じゃないか」
堅牢な建物に驚きの声を上げるジン。
「ご存知無かったんですか? 数あるテイルズの中でもウェステリア・テイルズの演習場は規模も設備も随一ですよ」
「へぇ〜。こりゃ儲かってんなぁ……」
そんな事を言いながら2人は受付へ向かう。
「9時から予約していたジン・ファミリアです」
ジンが受付の女性に声をかける。
演習場は予約制となっており、事前に利用申請を行う決まりになっている。
「おはようございます、マスター・ジン。予約を確認しますので少々お待ちください」
受付の女性が傍の端末を操作する。
待つ事数十秒……
「申し訳ありませんマスター・ジン。本日ジン・ファミリアの予約は入っておりませんが」
「!? そんなはずない。確かに第一射撃演習場のA-3小演習エリアを予約してあるはずだ! 昨晩も確認したし」
「いえ、A-3エリアはクアィエン・ファミリアの予約になっております。間違いございません」
そう言って、予約表を見せる女性。
「クァイエン……あのジジイか」
額にシワを寄せて苦々しい表示を浮かべるジン。
丁度その時、ジンとアイネの背後から声を掛ける人物が居た。
「どうしたね? 何か問題でも?」
――件のマスター・クアィエンその人だった。
周囲の職員や受付の女性が一斉に立ち上がり一礼する。
「成る程な……あんたの仕業か」
「何の事だね? 自分の不手際を棚に上げて私に八つ当たりか?」
クアィエンは両手を広げて、やれやれといった様子で肩をすぼめる。
「……そうだな。すまない。俺の手違いだったみたいだ。――アイネ、帰るぞ」
立ちはだかるクァイエンの脇を通り抜け、ジンが出口へ向かう。
うろたえながらもそれに続くアイネ。
「まぁ、待ちたまえ」
そんな2人を呼び止めるクァイエン。
「演習場が使えないと何かと不便だろう? 師弟揃ってこの場で土下座し先日の非礼を詫びると言うならば……融通してやらん事もないぞ」
「……ふん。結構だ」
そう言い残すとジンは踵を返し演習場の出口へ向かう。
アイネも黙ってそれに続く。
―――
演習場から少し離れた所にあったベンチに並んで座るジンとアイネ。
演習施設が使えないとなると学園内で魔兵器を使える場所は無い。
「……ごめんなさい、マスター。私のせいで」
落ち込んで俯くアイネ。
「別にお前のせいじゃないさ。あんなジジイの嫌がらせなんざ気にすんな」
ジンの方は、それと言って気にした様子でもない。
「でも……あの様子じゃ暫く演習場は使えそうに無いですね」
「しばらくどころか、下手したら今後ずっと使えないかもしれんな。教務課に訴えた所で、どうせ職員もあいつには頭が上がらないだろ」
「それは……。さすがに、まずいですね」
「まぁ、いいさ。他に手はいくらでもある。幸い季節は春。外はポカポカ良い天気だ」
そう言って晴れ渡る空を見上げるジン。
「天気……何か関係あるんですか?」
「そりゃ勿論。とりあえず、学食で弁当2人分買ってきてくれ。その間に用意しておく。今から出れば昼前には着けるだろ」
「え……? えっと? どこにですか?」
「それじゃ、30分後にテイルの正面ゲート前で落ち合うぞ」
「え!? わ、分かりました!」
訳も分からずうろたえるアイネを残して、ジンはさっさと歩いていってしまった。