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k01-04 新学期スタート・2

 近代的な施設が立ち並ぶテイルの敷地の中に、まるで過去からタイムスリップでもしてきたかのような木造の建物が1棟。

 外壁にはツタが張っており周囲には雑草が鬱蒼と生い茂っている。屋根はトタンで所々錆びが浮いており今にも穴が開きそうだ。


「…………」

「…………」


 その場で立ち尽くす2人。


「あ、あれ? おかしいなぁ。それらしい建物が見当たらないぞ? 道間違えたかなぁ」


 ジンがわざとらしくキョロキョロと周りを見渡す。


「マスター……あそこに見えてますよ」


「いやいや、何言ってるんだアイネ。建物なんか全然見当たらないじゃないかー」


「目の前にあるじゃないですか」


「違う! これは建物じゃなく廃墟だっ! 瓦礫の一歩手前だ!」


 冷静なアイネに対して、何故かジンが逆ギレする。


「マスター……諦めましょう。あまり考えたくはないですけど、絶対に嫌がらせです。首謀者は……だいたい見当が付きますね」


「嘘だろーー! こんだけ近代的な設備ばっかなんだから、旧学舎ってもれなりの建物だと思ってたんだよー!!」


 頭を抱えてしゃがみこむジン。


「ごめんなさい。私が目を付けられたばっかりに……」


「いや、目付けられてるのは俺の方だろうな……それか両方か」


「「はぁ」」


 2人そろって大きな溜め息をつきうなだれる。



 暫しの沈黙の後……先にアイネが口を開いた。


「……とりあえず入ってみましょうよ! マスターの仰る通り、もしかしたら中は意外としっかりしてるかもしれませんよ!」


 そう言って優しく微笑む。


 ここで立ち尽くしていても仕方がない。どんな時でも案外と前向きなのは彼女の良い所だ。


「ま、そうだな。無いよりはマシか」


 気を取り直して、ポケットから古びた鍵を取り出し入口の南京錠の鍵をガチャガチャと開ける。


(マスター……最近そんな鍵中々見ないですよ。他の施設が軒並みカードキーですから、その鍵を渡された時点でもうアウトだと気付くべきでは……)


 その後ろ姿を見ながら思ったアイネだが、何も言わないでおいた。



 やがて、カチリと音を立て鍵が開く。


 目一杯力を込め、錆びついて中々動かないドアをこじ開けどうにか中に入る。


 建物の中は、長い間誰も入った形跡が無くずいぶんと埃っぽい。

 アイネが思わず2,3度小さく咳をする。


 廊下は板張り。

 窓も他の施設のようなガラス張りのオシャレな物とは程遠い、木の枠にガラスを嵌めた昔ながらの物だ。

 そんなレトロ感極まる窓でも、外壁を這う植物の侵入はしっかりと防いでくれたようで外観の惨状に比べると室内はどうにか使えるような状況にはありそうな様子。


 周りを見回しながら、床板をギシギシ鳴らして慎重に廊下を進んでいく。


「えぇと……あった。この教室だな」


 目的の教室を見つけ、ドアの前で立ち止まるジン。

 アイネもその隣に並んで立つ。


「じゃ、開けるぞ!」


「どうか壁と屋根くらいはありますように……」


 祈るアイネ。


「不吉な事言うなよ! ――そいや!」


 ジンが勢いよくドアを開ける



「うっわぁ……これは! 流石に……年季が入ってますね」


「お……おぅ」


 2人揃って絶句しつつも、恐る恐る室内を探索し始める。


「照明……これ、もしかして油式のランプか?」

「ここ窓ガラス、ヒビ入ってますけど……」

「水道錆びてるな……」

「え!? 何で室内にキノコが生えてるんですか!?」

「お、やったじゃん。わざわざ食堂行かなくて済むな」

「マスター、お腹空いたら言ってくださいね。毒キノコ炒飯作って差し上げますから」

「要らねぇよ……」


 そんな事を言いながら一通り室内を見てまわる。


「はぁ……まぁ、とりあえず屋根と壁はあって良かった。古いがどうにか使えない事も無さそうだな。とりあえず今日一日は掃除だ」


「そうですね! 私、掃除道具取ってきます!」



 それから大掃除が開始された。


 ヒビの入った窓ガラスをテープで補修し、照明や本棚に厚く積もったホコリを払い、机を拭き、床もモップで水拭き。

 積み上げられた荷物はとりあえず他の部屋へ移動。


 手分けしてテキパキと進めていく。

 想像できないが2人共家事スキルは意外と高いようだ。



 そんな中、壁際に積まれていた荷物をどけたアイネが何かに気づいた。


「ん? 何ですかこの板?」


 荷物の後ろに隠れていた壁に、巨大な緑色の板が打ち付けてある。


「お? おぉ! 黒板じゃん!」


「コクバン?」


「そうか、見たこと無いかぁ。今じゃどこも魔鉱電子ボードだしなぁ。いいか、こうやって……」


 床に転がっていた白いチョークで黒板に文字を書いてみせる。

 カッツカッツと心地良い音を立て、次々と文字が書き込まれていく。


「その板に……直接字を書くんですか?」


「そうだ。使い終わったらこうやって黒板消しで消す……と。まぁ、電子ボードに比べりゃめちゃくちゃ非効率的だが昔はみんなこんな感じだったんだぜ」


「へぇ……確かに非効率的ですけど、何か温かみがあって良いですね……って、"昔は"ってマスター年おいくつなんですか?」


「え? あ、あぁ……今年で27だ」


「へぇ……私と10歳程しか違わないんですね……ん? 待ってください、電子ボードってかれこれ30年以上前からあるんじゃなかったですか? マスター、年齢サバ読んでません?」


 アイネが疑惑の目を向ける。


「ち、違う違う! 本で読んだんだよ!」


「……そうですか。そう言うことにしておきますか」


 そう言って笑う。


 そんなこんなで、大掃除は夕方まで続いた。



 ―――――



「ふぅ~~。こんなもんか」


「どうにかなりましたねぇ」


 ほぼ一日がかりで、教壇と机をいくつか並べられる程のスペースはどうにか綺麗に片付いた。

 とりあえず授業は出来そうだ。



「さてと。じゃあ今日は解散だ。明日はいよいよ授業開始な! まずは復習も兼ねて魔兵器取り扱いの基礎からだ。9時に第一射撃演習場前集合だぞ」


「はい!」


 ホコリまみれで真っ黒になりながらも、楽しそうに笑い合う2人。


 こうしてジン・ファミリアの初日が終了した。

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