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k02-01 実地遠征

「なぁなぁ、アイネ達は何処に決まったん? “実地遠征”」



いつも通りの昼休み。


1学期も終わりに近づき、夏の日差しが強くなってきたここウィステリア・テイル。


学食のテラスでお昼ご飯を食べながら、親友のエーリエが、幼馴染のアイネに話しかける。



「行き先のこと?」


「せや!第1回の実地遠征。ジン・ファミリアも行くやろ?」




『実地遠征』


テイル内の演習施設で行われる演習と違い、実際の戦闘区域で行われる現地訓練。

生徒達に実際の現場を見せる機会という事でカリキュラムに組み込まれている。



テイルは軍隊、企業、個人、時には国家からも広く傭兵派遣の依頼を募っている。


派遣されるのはある程度訓練を受けた中等グレード以上の生徒。

プロの傭兵に較べれば練度に雲泥の差はあるが、万が一の際は引率するマスタークラスの教師が後を持つという確約持ち。


普通に依頼するよりも格安で来て貰えるという事もあり、有名マスターともなればご指名のミッションが届く事もあるらしい。





「うん! 行くよ! うちは“グラスコート公国”の紛争地域で難民キャンプの支援だって」


アイネが元気に答える。



「何や、アイネんとこもか。グラスコートの内戦は長い事続いとるからなぁ。最近は実地演習の定番なってきとるらしいな」




……そう。


うちのファミリア……ジン・ファミリアの行き先も定番のグラスコート。


確かに昨日まではそうなってたのよ。



ちなみに、私……シェンナ・ノーブル・フェイオニスは、1学期の中頃、所属していたカルーナ・ファミリアを訳あって脱退。


どうにかジン・ファミリアに編入させて貰う事ができ、今はアイネと一緒にマスター・ジンに師事している。






「アイネ、あんた今朝のマスターからのメール見てないでしょ……」


「え? なんのこと? マスターからメールなんて来てたっけ!?」


慌てて端末の受信メールを見直すアイネ。



「来てたわよ。今朝の8時半頃」


横からチラ見するとメールボックスが凄い量の迷惑メールで埋め尽くされている。


マジか……うちの両親でも迷惑メールのフィルタリングくらい知ってるけどな……。


しかたない、後でフィルタの掛け方を教えてあげよう……。



「もう、転送してあげるからちょっと待ちなさい」


「え、えへへ。ごめんね」


そう言って悪びれながら笑うアイネ。



まぁ、あんな大事な連絡をメールだけで済ますマスターもどうかと思うけど……。


そう思いながら、マスターからのメールを転送する



「あ、来た来た。えーっと……『遠征先変更のお知らせ。急だが、実地遠征の行き先を変更する。今回の遠征先は……“ハイドレンジア”』」





「えぇ!! ウソ、ウソやろ!? ハイドレンジアってあの『ハイドレンジア』!?」



エーリエが凄い勢いで食い付いてきた。


「あのって、どのよ……」


「“一度は行ってみたい憧れのリゾートランキング”10年連続1位、去年殿堂入りした『ハイドレンジア』やろ!?」



享楽の島『ハイドレンジア』



南海に浮かぶ巨大人工リゾート島。


島全体が半球型の巨大魔法障壁ドームで覆われており、その内部はエリアごとに気温や湿度、天気までもがコントロール可能。


都市部は年間を通して快適な気候に。

山岳地では雪を降らせ、一方、ビーチは常夏に……といった管理も可能。


そのお陰で、午前中は山間部でウィンタースポーツを楽しみ、午後からはビーチで太陽の下海水浴……。


なんてことも可能な、この世のありとあらゆる娯楽を詰め込んだ世界随一のリゾート地。



「ほ、ホント!? やったーー!! 一生に一度は行ってみたいと思ってんだよ! まさかこんなに早く叶うなんて!!」


状況を理解したアイネが遅れて歓喜の声を上げる。



「そうね。……確かにレジャーで行くのなら最高なんだけどね」



「……なんや? シェンナは嬉しないんか? 個人旅行やと中々気軽に行ける所やないで?」





「……ハイドレンジアの別名知ってる?『富の中枢』『権力の権化』『持つ者のみの楽園』観光エリアから離れた島の中心地付近は、世界各国のVIPやセレブ達の別荘地になってるの。あの島に家を持つ事自体がお金持ちのステータスなんだって」


「そいえば聞いたことあるなぁ。なんでも一般人は入島するだけでも補償金として十万コール程預けないかんのやろ?後から返ってくるとは言え難儀な話やわなぁ。でも、それがどないしたん?」


「そんな高級リゾート地よ! 有事なら普通は正規の傭兵雇うでしょ! それがわざわざ訓練中の学生を雇うなんて……変じゃない? しかも調べてみたらハイドレンジア行きはうちのファミリーだけだし。絶対おかしいって」



「ん〜〜、さすがに考えすぎちゃうか? 金持ちの道楽かもしれへんし。それに依頼内容はテイル側でも把握しとる訳やし怪しい物やったら事前に弾かれとるやろ?」


「それがね……テイルからの斡旋じゃなくてうちのマスターが直接取ってきた依頼みたいなのよ」


「……あ、あのマスターが。シェンナ、ご愁傷様やで」


そう言って手を合わせるエーリエ。


「はぁーー……」


そこはかとない不安から大きな溜息が漏れる。



「そんなに心配しなくても、マスターも一緒なんだから大丈夫だって!それよりも、帰って荷物の詰め替えしなくちゃ!」


何やらさっきから一生懸命に端末をいじくり回していたアイネが満面の笑みで元気良く立ち上がる。


チラッと手元を見ると端末には水着のバーゲンセールの検索結果が……!


この子……私たちのやり取り一切聞いてないわね。


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