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k01-58【第1章最終話】どうしても叶えたい夢

 それから数日……



 ジンの、額を擦り剝いてのスライディング土下座の甲斐も空しく、テイル内はある噂で持ち切りだった。




 ――世界最大規模を誇るウィステリア・テイル。


 そこには魔鉱戦術学科だけでも20以上、全学科合わせると100に近いファミリアが存在する。


 その中でも底辺の底辺。最底辺にいるような、生徒たった1名の弱小ファミリア。


 まともなホームも与えて貰えず、演習場すら使わせて貰えない哀れな人達。


 自分達が見下し、ともすれば蔑んでいたような最下層にある弱小ファミリアで――今まさに、何かとんでもない事が起きていると。



 そのファミリアに出入りしていた少女は、大勢の観客の目の前で魔兵器を遥かに凌ぐ”魔法”を炸裂させた。


 そのファミリアのマスターは、戦車砲の10倍と言われる威力のその魔法を軽々止めてみせた。


 そのファミリアの唯一の生徒は……もはや我々の常識では理解出来ないような力を手に入れたらしいと。



 人の口に戸は立てられぬ。

グランドマスター肝入りの情報操作も今回ばかりは効果が無かったようだ。


 幸いにも噂はテイル内だけで収まっており、外部にまでは波及していないらしい。

その辺りは流石敏腕オーナーといったところか。



 ―――――


噂のジンファミリア・ホーム。


「あーーーーーーーーー……」


 ジンが書斎の椅子に座り、書類にチェックを付けてはサイン、チェックを付けてはサイン……ひたすらその作業を繰り返している。



「ただいま戻りました!」


 勢いよくドアを開けてアイネが入ってくる。



「おー。お帰り……」


 書類から目を離さずに答えるジン。



「マスター!! 演習エリアの外見ました? もぉ、すっごいですよ! 私危うく取り囲まれそうになりましたもん!」


「……何がだよ」


「うちのファミリアへの編入希望者ですよ! マスターに直談判したいけど、ホームの場所が分からない……ってことで。もう、演習エリアの周り、マスターの出待ち状態ですよ!」


「……マジか……。お前よく無事にここまで来れたな」


「それはもう、森の中さえ入っちゃえばファンちゃんの足で一瞬にして撒けますから!」


 そういって黒い耳を出してみせるアイネ。



「ファンちゃん様様だな。たまには餌でもくれてやれよ」


「ちょっと! ペットじゃないんですよ! 私の大切な"相棒"です! ……そう言えば、ファンちゃんって何食べるんですかね?」


「……さあな。肉じゃね? 狼なんだし」


「え!? ファンちゃんは猫ですよ! 何言ってるんですか!?」


「は!? "ウルフェン"なんだから狼系のマモノだろ?」


「えー!? でも尻尾長いし、爪も伸び縮みしますよ!!」


「……おい、ファントム。お前ちょっと鳴いてみろ」


『…………』

「…………」

「…………」


『……ポン』


「え!! 狸!? 狸さんなんですか!?」

「んな訳ないだろーー!!」


 たった2人のファミリアなのに、ホームは今日も賑やかだ。



 ……



「ところで、なんですか? その書類の山」


「ん? あぁ。こっちも大変なんだよ……全部ファミリアの編入嘆願書だ」


「え!? 凄っごい量! 選び放題じゃないですか!!」


「あん? 前にも言っただろ! うちは手のかかる奴が1人いるからこれ以上はいらねぇんだよ!! あーーめんどくせぇ!!」


 作業に飽きてきたのか、そう言うとろくに見もせず"不採用"のチェックだけ先にどんどんと付けだすジン。


「ちょっとマスター!! だめですって、勿体ない! ――――あ!!」


 そう言って咄嗟に書類の上に手を出すアイネ。


 手の甲にペン先が思いっきり刺さる。


「――っいったぁーーい!」


「当たり前だろアホ!! 急に何やってんだ!」


「うーー! だってそれ!」


 そう言いながら、黒い点が付いた手の甲をさするアイネ。


 恨めしそうな目を向けられ、手元の書類を確認するジン。



『ファミリア編入嘆願書 シェンナ・ノーブル・フェイオニス』



「……はい、却下」


 そう言って不採用の欄にチェックを入れようとするジン。


「あーー!! 何でですかー!!」


「これ以上うるさい奴増えてたまるか! あいつ何でか俺にため口だし!」


「それはいつもマスターが変な所ばっかり見せるからでしょ!」


「あーもう! うるせぇー却下だ!」


 不採用欄にチェック。


「もー!! 志望動機くらい読んでくれてもいいじゃないですか! きっとシェンナも頑張って書いたのに! マスターのケチ!!」


 そう言って顔を真っ赤に膨らませると、そのままアイネはホームを出て行ってしまった。




 その後ろ姿を見送ると……珍しく寂し気な表情を見せるジン。


 ポリポリと頭をかく。


「――そうは言ってもな。卒業まで一緒に居てやれるかも分からん俺が、そんな無責任な事も出来んだろ」



 そう呟くと、シェンナの嘆願書を手に取る。

 とても綺麗な字で、びっしりと志望動機が書かれていた。


 それにつらつらと目を通す。


 やがて大きく1つ溜め息をつき、書類をそっと机の上に置いた……。




 ーーーーー



 2時間程経って……



「た、ただいま……」


 そっとホームのドアを開けるアイネ。



 中を覗くがジンの姿は無い。


「あれ、マスター出かけたんですか?」



 ……返事も無い。


「まぁ……演習エリア前の人だかりも居なくなってたし、大丈夫とは思いますけど……」


 独り言をつぶやきながら、ふと書斎の机の上を見る。



『アイネへ。この書類教務課へ出しておいてくれ』



 そう書かれたメモが編入嘆願書の山に貼られていた。


「……もう! どうせ出かけるなら自分で持っていってくださいよ!」


 そう言いながらも書類の山を綺麗に束ねる。


 一応仕事はちゃんとしているようで、ペラペラめくると全部の書類に……不採用のチェックと汚い字でサインが入っていた。



 ……シェンナの嘆願書を勝手に“採用”に書き換えてしまおうか!

 ふと出来心でそんな事を思い付く。


 勿論本気でそんな事はしないけれど、志望動機とか見て見たくなり、いけないとは思いつつシェンナの書類を探す。


 顔写真の部分をパラパラとめくり……あった! シェンナのだ。



 書類の山からその1枚を抜き出し手に取る。



 そのまま固まるアイネ。


 


 ――――“不採用”のチェックに、訂正の朱印が押され“採用”の欄にチェックが入れ直されている!




 思わず、その書類だけを持ってホームを飛び出す!



 その勢いに、積んであった嘆願書が飛び散り、綺麗な紙吹雪となってホームの中を飛び散るのだった――



□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


ファミリア編入嘆願書

シェンナ・ノーブル・フェイオニス


グレード:10

グレード内成績:1位

略歴:中等グレード卒業後、カルーナ・ファミリアに所属。リベライルの後脱退。

得意科目:射撃系魔兵器全般、炎系の近接武器、魔鉱結界学。


 ・・・・・


志望動機:

 私には卒業後どうしても叶えたい、小さい頃からの夢があります。それは、異世界「エヴァージェリー」へ渡る事です。

 友人である"アイネ・ヴァン・アルストロメリア"の曽祖父"シルヴァント・ヴァン・アルストロメリア"

 その足跡を追う為です。

 彼は犯した罪の大きさから”大罪人”と呼ばれて久しいですが、私にはどうしても”人類で初めてあの広大な空を渡り危険を冒してまで異世界を目指した偉大なる冒険家"が私利私欲のために罪を犯すとは思えません。

 人から見聞きし教科書で習った歴史ではなく、本当の歴史をこの目で確かめたいのです。

 そのために、マスター・ジン。貴方に教えを請いたいと、心から思いここにファミリアへの編入を志願致します。

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