k01-49 激突
開催の宣言に続き、グランドマスターからルールの説明が入る。
「制限時間は無制限。どちらか一方が降参の意思を示した時点で戦闘終了とする。また、推奨はしないが相手が死亡した場合は生存者の勝利となる。使用して良い武器・防具は自身で携帯出来る量に限り無制限。つまり2人が今身に着けている物が全てよ。……お互いに持てる力を出し切り、思いのまま闘いなさい」
先程までざわついていた会場が静まり返る。
アイネは祈るように組んだ手に、顔を埋めて震えている。
その肩を叩きジンが呟く。
「しっかり見とけ。お前が信じないでどうする」
「……はい」
目を開きシェンナを見つめる。
「では――はじめ!!」
グランドマスターの合図を皮切りに、2人は腰に携えた長剣を素早く抜く!
剣身と鞘が擦れる乾いた金属音が会場に鳴り響く。
「剣……銃器じゃないんですね……」
アイネの呟きにジンが答える
「あぁ……。見た感じ、互いに魔鉱剣だな」
2人の会話にグレンが割り込む。
「あの距離では銃撃よりも剣の方が速い……といったところですかな」
「いえ、それもありますが……マスター・カルーナの装備を見てください。あのロングコート、テイルのマスター用の制服ではなく、軍用品……しかもかなり高級な代物です。
テイルで普段使うような小型火器では相当量の弾丸を打ち込まなくては有効なダメージは望めないでしょう」
「えぇ! 何ですかそれ、自分だけ良い装備使って!! ズルじゃないですか!?」
アイネがジンに食って掛かる。
「落ち着け。グランドマスターも言ってただろ。持って来れる量なら、何を使おうが制限はない。財力やら資源力も含めての総力戦だ。現にシェンナもごっつい魔鉱剣持ち込んでるだろ」
「成程……一撃の威力で小型の銃器を遥かに優れる魔鉱剣ならばダメージも通ると」
「えぇ。そこまで考えて、授業で使い慣れている銃器ではなく、敢えて剣を持ち込んで来るとは……本当に優秀なご息女で」
「えぇ、まぁ! 自慢の娘ですからな!」
そう言ってニヤッと笑うグレン。
その間、バトルフィールドでは凄まじい剣戟の応報が繰り広げられていた。
爆風による推進力に任せ水平に回転切りを繰り出すシェンナ。
轟々と音を立て巨大な炎の渦が巻き起こる!
思わず飛び退くカルーナ。
シェンナが使う大剣はかなりの重量がある。
それを爆風で無理やり加速させるのだから、小柄なシェンナが本来扱える質量ではない。
剣の重さに引っ張られ態勢を崩すシェンナ。
その隙を見逃さず、カルーナが一気に間合いを詰める!
が、シェンナは剣の重さに逆らわず、そのまま一回転して連続の回転切りを放つ!!
その重い斬撃を受け、今度はカルーナが態勢を崩す。
大きく後退り、どうにか攻撃の間合いから抜け出す。
「成程……。あの斬撃をまともに受けると危険ね」
対するカルーナは氷の魔鉱石を搭載するレイピア。
スピードに重点を置き手数で攻める。
シェンナの斬撃をいなし、その合間を縫って氷の斬撃を飛ばす。
時折空中に氷の結晶を拡散させ、シェンナの死角へと回り込む。
攻防隙の無い戦いを見せる。
少女特有のしなやかな身のこなしと、剣の重量を逆手に取りまるで躍るように戦うシェンナ。
素早く切り込み、連撃を繰り出しては自身の体制が大きく崩れるより前に一瞬引く。
見事な連続攻撃と、属性優位も取っているシェンナが開始早々押している!
……かに思われたが、後退した一瞬の隙を突き素早く放たれた氷の斬撃を腕に受け動きが止まる。
「クッ……!」
シェンナのうめき声が会場に響く。
「シェンナ!!」
立ち上がり観覧席から叫ぶアイネ。
それをジンが宥めて座らせる。
「落ち着け、気が散るだろ。大丈夫だ、あいつはあいつでテイルの制服着てるだろ。あれくらいは問題ない」
「そ、そうですよね、ごめんんさい」
おろおろしながらも椅子に座り直すアイネ。
「とは言え、そう何発も受けるわけにはいかねぇけどな」
戦闘に目を戻すと、僅かな間に形勢は逆転していた。
豪快な炎の斬撃は、速さで上をいくカルーナにことごとく躱される。距離を取れば氷の斬撃が飛んでくる……隙の無いカルーナの攻撃に徐々に押され始めるシェンナ
動き回る量が多い分、呼吸も大きく乱れてきている。
「驚いたわ。正直ここまで出来ると思わなかった。私ももっと近接戦闘のトレーニングに力を入れないと危ないかしらね」
対戦が始まって以来無言で切り合っていた二人だが、カルーナが初めて口を開く。
余裕の表れだろうか。
「……近代戦闘では接近戦にまで縺れ込む事は稀だと習いました。無駄な事はしない。合理的なマスターらしいんじゃないですか!」
息を切らしながらもシェンナが答える。
「あら、それは褒め言葉と受け取って良いのかしら?」
「えぇ、合理的で知性に富み、いつでも冷静。仕事は早くて確実。ファミリアの皆からの信頼も厚い。……それでいて綺麗で、強い。私、そんな完璧なあなたに憧れてこのファミリアに入りました」
「……今更惜しくなったのかしら? 私だってあなたみたいな優秀な生徒を失うのは本望じゃないわ。どうかしら、今ならまだ……」
そう言いかけたカルーナの言葉を遮り、シェンナは剣を地面に叩き付ける。
足元で爆発が起こり、発せられた爆風に乗り空中高く飛び上がる。
空中で剣を両手に構え、下降の重力に乗せ力いっぱい振り下ろす!
大剣は業火を纏い、空中から地面に向け強烈な炎の道を形成する!
そして地面に叩きつけられるなり、大爆発!!
発せられた衝撃波が結界を激しく揺らし、爆炎と爆風が吹き荒れ激しい砂埃が舞う。
「凄い威力じゃない! ……でもダメね。私みたいなスピードタイプに何の布石もなくそんな大技」
軽く躱したカルーナが、砂ぼこりの中地面に突き刺さったまま輝くアイネの剣に向かけて強力な氷の刃を放つ。
その直撃を受け、剣は真っ二つに折れ持ち手側が宙に吹き飛ぶ。
「勝負あったわね」
そう言い、折れた剣に近づくカルーナ。
程なくして砂ぼこりが止むと――その傍らにシェンナの姿は無かった。
「――えぇ。勝負ありです。私が憧れたその完璧さ。それを貫こうとするその傲慢さが……あなたの敗因です」
声のした方を慌てて振り返るカルーナ。
そこには短剣を構えたシェンナが立っていた。
短剣の剣身からはドロリとした液体が垂れている。
「ま、まさかあなた……」
チクリとした痛みに気づき、自らの右手を確認するカルーナ。
手の甲に数センチ程の小さな切り傷が残っていた。






