k01-38 約束
ホームからの帰り道。
人通りの無いテイルの敷地内を、エーリエと並んで歩く。
ぁあ! 思い返せば返すほど腹が立ってくる!
何なの!?
アイネ達に責任を擦りつけようって魂胆もだし、私達がそんな事で友達を売ると思われてるのもむかつく!!
もーー!! 最悪!
怒りに我も忘れて無言で歩く。
しばらく歩いた所で、エーリエの方から声をかけてきた。
「なぁ……」
「ねぇ! エーリエも頭くるよね!! っほんっと! 何なの!? マスターのあの態度!!」
口を開けた瞬間、腹の中で煮えたぎっていた怒りが一気に言葉となって噴き出す!
私の勢いに押されて、エーリエが思わず後退る
「自分の保身のためとは言え他人を身代わりにするとか普通考える!? しかもそのために協力しろだなんて!! あったまおかしいんじゃないの!? エーリエもそう思うでしょ!?」
「……そ、そやな」
……エーリエの事だから一緒に怒ってくれると思ったけど……イマイチ反応が薄い。
「……エーリエは頭にこないの?」
「それは勿論最低やとは思うけど……」
「……けど?」
人気の無い道端で、街灯に設置された魔鉱石が放つ淡い光がエーリエの顔をぼんやりと照らす。
……今にも泣きそうな顔だ。
暫く黙った後、エーリエから話し出す。
「あのな。うちの実家な……そんなにお金持っとるような家やなくて。両親が一生懸命働いてお金貯めてくれて、それでも足りんくて借金までしてこのテイルに入れてくれてん。
せやから頑張って勉強して良い所に就職して、借金も返してほんで精いっぱい親孝行したろと思っとったんや。
せやけどさっきのマスターの話聞いてしもたら……」
そう言って俯く。
そう……だったんだ……。
そう言えば、エーリエの家の事は全然知らなかった。
前にそんなような話になったときは
『普通の家の子だよ~!』
とは言ってたけど……。
そう言えば、戦術魔鉱学科の学費って、一般的には結構高額な部類になるって聞いた事あったな。
私は、ずっと周囲も名のある家の子息ばっかりだったし、学費の話なんて一切聞いたことなかったから気にもしたことなかったけど……。
返す言葉が見つからない。
そりゃ、私もマスターの推薦が無くなれば就職で不利になるのは変わりないけど。
いざとなれば親のコネでも何でも使ってどうにでもなる私と、エーリエでは事の重大さが全然違うという事が……何となく分かった。
それだけに、何て声をかけて良いかが分からない。
そうこうしてるうちにエーリエが顔を上げた。
「せやけど! やっぱそんなんで悩むなんておかしいわな! 友達を裏切ってまでする親孝行なんて意味無いわ!」
そう言ってエーリエはにっこり笑う
「そ、そうだね。私も……そう思う」
「せや! マスターも“協力したら便宜図ってやる”て言うとったけど、“協力せんかったら後は無いでー”言うとった訳でもないし」
「うん……」
「この事は何も聞かわかった事にしとこ。シェンナもそれでええやろ?」
「うん、もちろん」
「あ、でもアイネに少し警告してあげるくらいはええよな? いくらなんでも可愛そうや」
「そ、そうね。
全部は話せなくてもそれとなく伝えるくらいなら大丈夫かな?」
「そうと決まったら、今度アイネにおうたときそれとなく話してみるわ。電話でするような話でもないし、今度直接話そう。シェンナもそんときまで他言無用やで」
「分かった。そうする」
そのままエーリエと別れ寮に帰った
身支度を終えベッドに入ったのは日付が変わってからだった。
中々寝付けない。
『何も見つからないことはないわ』
『証拠をでっちあげるつもりですか?』
マスターの信じられない発言。
『ようこそ私達のホームへ!』
昼間のアイネの楽しそうな顔。
それが頭の中で交互に繰り返される。
マスター、ちょっと疲れてやけになって言ってみただけだよね?
まさか……本当にそこまでしないよね?
私が憧れて付いていくって決めた人が……。
……明日アイネにそれとなく警告だけしとこう。
うん、ジン・ファミリアに隙が無ければマスターも思い直してくれるかもしれないし!
そう決めて、無理矢理目を閉じた。






