k01-31 ウィステリアのお昼時 【挿絵あり】
ちょっと学食でお昼を食べるだけの予定が
『せっかくやから外まで食べに出ようや!』
というエーリエの思いつきで、テイルの外まで食べに行く事になった。
まぁ、この後特に予定も無かったからたまには良いか。
アイネも午後は授業が休みだったらしい。
一度寮に戻って、私服に着替えてから正面ゲート前で集合。
別に制服のまま出歩いちゃいけない決まりも無いんだけど……戦術魔鉱学科の制服は特別製で、魔鉱石の粒子が織り込まれた生地で出来ている。
有事の際にはある程度の防御力を発揮するようになってるんだけど、その代わりに結構なお値段がするのでそう易々と汚せない。
それに……何せ暑くて重い。
行動の妨げになるようなレベルではないとは言え、積極的に私服として着ようとは思わないわね。
正面ゲート前。
私が最初に着いたようで、2,3分待っているとエーリエがやってきた。
Tシャツにパーカー、ハーフパンツとスニーカーというラフな格好だ。
小柄なエーリエの体格とも合っていて可愛い。
Tシャツに書かれた手描き風のなんとも緩いクマ?のイラストが特徴的。
私はというと、黒のオープンカラーシャツに朱色のミニスカート。
最近気に入っているショートブーツを合わせたキレイめカジュアルなスタイルだ。
……自分でスタイルとか言うと恥ずかしいわね。
エーリエと2人で、何処のお店に行こうかとか話していると、遠くの方からアイネが歩いてくるのが見えた。
白のブラウスにキャメルのロングスカート、キャスケット帽を深々とかぶっている。
……地味かっ!
まぁあの子の都合を考えると致し方ないんだろうけど、無彩色過ぎて逆に目立たないかしら……。
「お! アイネー!」
エーリエが手を振る。
それに気づいたアイネが遠慮がちに手を振り返しながら小走りで駆け寄ってくる。
あの子の事だから、私達の事を気にして人前ではあまり一緒に居る所を見られ無いように……とか思ってるんだと思う。
「なな! 聞いてや! シェンナ今日から復帰なんやで!」
そう言ってグイグイと私の事を引っ張りアイネの前に立たせる。
「そ、そうなんだ! 良かったね」
アイネが少し困った感じで僅かに目線を落としながら笑う。
気のせいかな。
あのマスターと居るときは普通以上に元気な気がするんだけど、こうして顔を合わせると以前の私とアイネのままに感じる。
まぁ、あの騒がしいマスターと一緒に居たら、自分まで騒がしくなりそうな気持ちも分かるけど。
「……あ、お見舞いありがとうね!」
「いいのいいの! こっちこそ病院まで押しかけちゃってごめんね……」
「ううん! 全然……」
アイネがそんな感じだから、私も何を話して良いか……次の言葉が出てこない……。
「なーなー! 何処行こか!? お昼時も過ぎたから何処も空いとると思うで!」
そんな私達のやり取りを見て気を使ったのかどうか、エーリエが間に割って入る。
この子のこういう物怖じしない所、正直少し憧れる。
たまにタイミングが悪くてヒヤヒヤする事もあるけど、そこも彼女のキャラクターがカバーしてくれる。
人柄というか、一種の才能なんだと思う。
「えっと、私は何でも大丈夫だよ」
アイネがにっこり笑う。
「私は……サラダとかサンドイッチとか軽い物がいいかな――」
「――うち焼肉食べたい!」
私の発言を遮って、エーリエが食い気味にくる。
「え!? お昼から焼肉なの!?」
「いやいやいや、流石に重くない?」
エーリエのボケなのか本気なのか分からない発言に同時につっこむ私とアイネ。
皆んなが笑って少し和んだ。
そんなこんなで結局、色々と食べられる野外フードコートに行く事になった。
―――――
ウィステリアの街中は水路と橋が複雑に入り組んでいて、すぐ向こう岸に見える場所でも意外と遠回りしないと行けない事がザラにある。
その複雑さは、
『ウィステリアの地図と、シャーリンモンロ(昔の有名女優)へのラブレターは永遠に完成しない』
という名言(迷言?)があるくらいだ。
ウィステリアの街中をスマートに案内出来る男子はそれだけでモテるとも言われている。
テイル前の大型停留所から、ゴンドラに乗って10分程。
そこからいくつか橋を渡って目的のフードコートに到着。
フードコートと言っても、さすが観光地ウィステリア。
各売店は白壁や木材、レンガといった天然素材で統一されており、植物がそこかしこに植樹されて公園のような落ち着いたオシャレ空間になっている。
平日の昼過ぎという事もあり、行き交うのは観光客ばかりで人はそんなに多くない。
ひとまず席を取り、各々好きな店舗に買いに行く。
食べたい物はある程度決まってたんだけど、もし先に戻ってアイネと2人きりになったら何を話そう……。
そんな事を考えて、中々食べたい物が決まらないフリをする。
エーリエが先に席に戻るのを遠目で確認してから、買い物を済ませて席に戻る。
アイネも同じだったのか……は分からないけど、私からさらに少し遅れて戻ってきた。
席に着くなりエーリエがご機嫌ナナメだ。
「も~!! 2人共遅い! そんなに迷うことあるかぁ!?」
そう言って可愛い膨れっ面を見せるエーリエを見ていると、少し気まずさも紛れるような気がした。
3人揃ったところで、エーリエの合図に声を合わせて――
「「「いただきます!」」」
アイネはトルティーヤ。
私はサンドイッチ。
エーリエは……肉で麺が見えない程の大盛チャーシュー麺!
この子……焼肉は本気だったのか!?
三者三様の昼食を頂く。
最初の方こそ
「それ美味しそうだねー」
とかいう会話があったものの、だんだんと会話が続かなくなる。
というのも、下を向きながらズルズルと夢中でラーメンをすすり続けるエーリエに対して、私とアイネはそんなにがっつくメニューでもない。
どうしても間を持て余す……。
しまった、私とした事が重大な選択ミスだ。
気まずさに耐えきれず、考えていた事がついそのまま口から溢れる。
「そう言えば、エーリエとアイネっていつの間にご飯一緒に食べる程仲良くなったの?」
言ってしまってからハッとする。
ヤキモチを焼いているように思われるだろうか?
他人の交友関係にとやかく言及するのはどうだろうか?
この質問はまずかっただろうか……。
そんな私の心配を余所に、エーリエがラーメンの手を止めて話し出す。
「ん? あぁ、それが聞いてや! こないだな、アイネが購買から何やら大荷物抱えて出てきたんよ。そしたらアイネ! 荷物持ったまま何も無い所で躓いて! そのまますっ転んで荷物大散乱!!」
そう言ってケタケタと笑うエーリエ。
「ち、ちょっとエーリエ! 恥ずかしいよ!」
「でな、酷いんやで! 皆んな明らかに気づいてんのに完全スルー。アイネ独りで散らばった荷物かき集めててなー。思わず駆け寄って一緒に拾ったんや。ホント世も末やな~」
「あの時は本当にありがとう……。凄く助かったよ」
そっか……エーリエはそういう子だもんね。
もし、私がその場に居たらどうしてただろう。
多分……そっと逃げ出してたかな。
結局私はエーリエの言う『酷い人達』と一緒か……。
楽しそうに笑うエーリエとアイネを見ていると、今までの自分が急に恥ずかしくなる。
アイネが私の事を避けてると思ってたけど、結局アイネを遠ざけてたのは私の方なんじゃないかな……。
「でもなー、あの時のアイネのコケっぷり!!
正直、見た瞬間『ブフォ』って笑ってもうたわ!
あんな綺麗にすっころぶことってあるんやなー!」
そう言って笑うエーリエ。
「もー、酷い! そんなに笑う事ないじゃない!」
アイネが頬を赤くして怒る。
何だか、こうやって見てると昔の私とアイネみたい。
少し……羨ましくて
寂しい。
ランチタイム






