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k01-29 新しいホーム

 演習場の事故から数日。


 アイネは一人で演習場『B-3』ゲートの前に立っていた。



「今日は現地集合だから自分でホームまで来いって言われたけど……」


 演習場は現在、事故の調査のため一般生徒立ち入り禁止となっている。

 常時入場許可書のあるアイネは立ち入っても問題は無いが、あくまでも自己責任で……となる。


 いつも以上に静まり返る演習場。

 森の奥深くから鳥の鳴き声が不気味に響き渡る。


 ………


 せめて誰か一緒に入ってくれる人来ないかなぁ……調査チームの人とか。


 しばらくゲートの前で待ってみるが……誰も来る気配はない。


「グギャー!!」


 ーーービクッ!


 森の中からモンスターの物と思われる雄叫びが聞こえ、思わず独りで反応してしまう。


 ……ここでこうしてても仕方ないよね。行くしかないか。


 そーーっとゲートを開ける。


 重い……。


 自分一人通れる程の幅を開け、ゲートの中を覗き込む。


 誰も居ない。


 見た感じはこの前来た時と何も変わらないけど、独りで来るとより一層不気味に感じる。



 中に入りゲートを閉める。


 ガシャン!


 ゲートが重い金属音を立てる。


 その音に驚いた鳥が一斉に飛び立つ!


「キャァ!」


 またも独りで驚くアイネ。


 ……その後はまた静寂。



「ぅぅぅ……独りで来ると思ったより怖いなぁ。デカいマモノでも出たらどうしよう……」


 先日、マモノに手をばっくりいかれたマスターの姿が脳裏に浮かぶ。


 マスターよく平気だったな……肘くらいまでばっくりいかれてたけど。



 そんな事を考えながら、ホームへ続く獣道の入り口に到着する。


『ロープを辿りながら来れば全然大丈夫だから!』


 マスター言ってたけど、この結界大丈夫なんだろうか。


 貧乏なんだから、結界用の魔兵器なんて買えないと思うだけど。しかもこんなにいっぱい。


 あ、マスターの持ち出しだって言ってたっけ……尚更不安。



 ……考えていても仕方ないので、意を決して藪の中に入って行く。


 目印を付けておいた木がすぐに見つかった。


 木の根元には1本目の鋲があり、そこからロープが森の奥へと続いている。



 足元に気を付けながらロープを辿って森の奥へと進んでいく。


 何度か通った後なので、草木がなぎ倒されていて多少は歩きやすくて助かった……。



 ーーーーー



 30分程歩くと、どうにか無事にホーム側終端の鋲まで辿り着いた!


 そこから真っすぐ藪を抜けると……見覚えのある湖の畔に出る。


「……やっと着いた」


 マスターの姿は……ない。


「マスター??」


 返事がない。


「マスター! どこですかー?」


 あんまり大声を出すとマモノが出てきそうなので、遠慮がちに叫びながら例の大木に向かって歩く。



 時折湖畔に視線を落とし、魚たちの姿を見ながら湖に沿って角を曲がる。


 徐々に大木の姿が見えてくる。



「ーーえ!? 何……? 凄い!!」


 目の前に現れた大木の変わりように思わず声が出る。




 大きな洞の中には木張りの立派な床が出来ている。


 木の幹から数メートルせり出し湖の上まで広がってテラスのようになっている。


 淵には落下防止のためか手すりがぐるっと設置されている。


 ここからだと全貌は見えないけど、照明なんかも設置されてるみたいだ。



「おー! アイネ、無事来れたみたいだな!」


 テラスの上から、マスターが手すり越しにヒョイっと姿を見せた。


「どうだ!? いい感じだろ?」


「凄いですマスター! たった数日でどうやってこんなに……」


「強力な助っ人が居てな! まぁ、とりあえず上がって来いよ!」


 そう言ってマスターが大木の裏側を指さす。



 裏側に回ると、木製の階段が木の幹に沿ってぐるっと伸びている。


 階段を上がっていくと、木の幹にドアがある。


 人が1人通れる程の小さいドアだ。



 ドアを開けると、洞の中いっぱいに板張りの大きなフロアが広がっていた。


「うわぁーー広い!」


 無垢材の綺麗な床はそのままテラスまで続いており、その先には森の木々と青空が広がっている。


「凄い解放感ですね!!」


「まぁな、結構高いから見渡しも良いぞ」


 テラスの方からマスターが歩いてくる。


「色々見ても良いですか!?」


「どうぞどうぞ! 俺たちのホームだ」



 入り口から左側に行くと、一枚板の大きな机が1つ。


 机の上には本や薬品が並んでいて、作業中だったのか何だかよく分からない小さな機器も転がっている。


 立派な椅子が1つ備え付けられており、テーブルと相まってカジュアルながらも重厚な雰囲気を醸し出している。


 その背後には洞の側面にそって大きな棚が備え付けられていて、沢山の本や綺麗な魔鉱石、何なのかよく分からない器具、瓶に入った色とりどりの薬品などが整然と並んでいる。


 どうやらマスターの書斎エリアのようだ。



「凄い資料の数……。マスター、意外と本とか読むんですね」


「お、バカにすんなよ! これでも元研究者だぞ」



 書斎の横の開けた場所には、小ぶりな黒板が設置されている。


 脇には少し背の高い机。きっと教卓だろう。



 黒板の正面には弧を描いた長机が置かれており椅子が3つ並んでいる。


「そこお前の席な。椅子は……とりあえず3つあるけど好きなの使ってくれ」


 真ん中の席に座ってみる。


 差し込む陽光が、黒板と机を優しく照らしてくれる。


 長机の上には可愛いランプが置かれている。


 紐を引っ張ると明かりが付く。光の魔鉱石を使ったテーブルライトだ。


「可愛い……」




 今度は反対側……入り口から見て右側のエリアに移動してみる。


 小さなオープンキッチンがある!


 小さいとはいえシンクの他にコンロだけではなく、オーブンまである立派なものだ。


 換気扇も付いている。そう言えば、外から見えた筒は煙突だったんだ。


 棚には食器や調味料が並んでいる。

 その横には氷の魔鉱石を使った冷蔵庫。



 キッチン横のエリアには大きなラグが敷かれており、ローテーブルとそれを囲うようにコの字型のローソファーが設置されている。


 結構な大きさで、ソファーは2,3人寝れる程のサイズだ。



「凄い!! ここに住めそう……」


「一応最低限のライフラインは揃ってるからな。あ、あっちトイレな」


 マスターが指さす先を見ると洞の一角が壁で仕切られておりドアが付いていた。



「あっちは何ですか?」


 せり出たテラスの一角に、人一人が余裕で入れる程大きな桶のような物が設置されている。


 近づいてみると、中は液体で満たされておりプクプクと泡が出ている。


 付近の柱から液体が流れ出てきて、この大きな桶に溜まり、桶から溢れた液体は雨どいを通って池へと流れ出ているようだ。


 液体からは仄かに湯気が上がっている。手を付けてみると……お湯だ!!



「これって……もしかしてお風呂ですか!?」


「そうそう! 工事中に気づいたんだけど、下の湖。向こうの端から中央辺りまでは冷たいんだけどこっちの端は暖かいんだよ。

 そんで調べてみたらどうも地下から温水が沸いてるみたいでさ! 掘ったら温泉が出て来たからここまで引いたんだ。贅沢だろ~!!」


 マスターが腰に手を当てて自慢げに答える。


「ホントに凄いです!! こんな所で勉強出来るなんて夢みたい」


 中等グレードの頃、見学でいくつかのファミリアのホームに行った事があるけど、正直桁違いの豪華さだ。

 というか、教室とリゾートホテル程の差。比べるまでもない。


「学生らしい教室もいいが、個人的にはこれくらいリラックスした雰囲気の方が良いかと思ってな」


「それにしても、こんな凄い建物をこんな短時間でどうやって……」


 そう言いながら見渡すと、お風呂横に置いてあるロッキングチェアがゆらゆら揺れている事に気づく。


 近づいて覗き込んでみると……白い狐のような生き物が気持ちよさそうに寝ている。


 フワフワの毛に、長い耳。それにフサフサで長い尻尾をグルっと巻いてスースー寝息を立てている。


 なんだろう、犬でもネコでもないし、でも狐とも違う……見たことのない種族だ。


 とにかく……とてつもなく可愛い!!



「あ、そいつに手伝ってもらったんだ。俺の昔からの友達。起きたら挨拶してやってくれ」


「手伝うって、そんな力持ちに見えないですけど?」


「ふふん。人を見かけで判断しちゃいけないぜ。

 ま、とりあえず荷物下ろそうや。そのソファーの横でいいだろ」


「あ、はい!」


 興奮して、持ったままになっていた荷物をソファーの横に置く。


 その間にマスターが飲み物を入れてくれて、2人でソファーに腰掛ける。



「さてと、色々あったがこれでやっと環境も整った。

 ここなら気兼ねなく勉強できるしな。やわやわ本腰入れていくか!」


「はい! よろしくお願いします!」


 こうして、私達のファミリアはやっと安寧の地を手に入れた。


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