k01-28 ウィステリアの夜
病院の帰り道。
すっかり暗くなった街の中を歩くジンとアイネ。
ウィステリアは巨大な湖のほとりにある街で、街中に水路が張り巡らされている。
街の面積の15%が運河になっている程だ。
魔鉱器の街灯が一般的になった今でも、主要な道路では歴史のあるガス灯を使うなど景観保持に力を入れている。
水路の暗い水面に暖かいガス灯の光がそこかしこで反射し、ウィステリアの夜は幻想的な雰囲気に包まれる。
2人は道すがらにあった、水辺の小洒落たバルに入り、テラス席で簡単な夕食を取っていた。
ウィステリア名物の魚介パスタに、ジンはビール、アイネはレモネードだ。
「シェンナ、怪我大した事なさそうで良かったです。強力なマモノが暴れて何人か大怪我したって聞いたから……」
「あぁ、そうらしいな。大丈夫かよあそこのセキュリティ。まぁ、クァイエンの爺さんが追い払ってくれたらしいから良かったが」
「また襲ってきたりしませんかね?」
「……獣型のマモノは総じて知能が高い。1回痛い目にあえば早々そうそう戻ってはこないだろ」
「それならよかったです! それにしても……暴れたマモノって、聞けば聞くほどマスターが噛まれたマモノに似てるんですけど……」
「あぁ、ホームからの帰り道でたまたま見たやつか?」
「そうです。マスターがお手させようとして噛みつかれた奴です。ガブーって!」
そう言ってパスタを頬張るアイネ。
「おぉ、あれ結構痛かったんだぞ。まだ歯形付いてるし。
珍しいマモノだったんでな。賢くて普段は大人しいマモノなはずなんだけどなぁ……機嫌でも悪かったか」
「もぉ、何言ってるんですか!? マモノを侮ってはいけません! スライムですら油断したら危ないんですから!
あの子、マスターが大声出すからビックリして逃げちゃたけど……暴れたのってあの子じゃないですよね?」
「……違うだろ。もしそんなヤバい奴だったら、俺、頭から食われてただろうし」
「それもそうですね!」
パスタを食べ終わり、レモネードに口をつけるアイネ。
ジンも軽くビールを煽る。
運河に映る街の灯りを眺めながら、ズボンのポケットに仕舞った小型の機器をそっと触る。
シャドーウルフェンに噛まれた際、口の中から抜き取った物。
こんな所でシャドーウルフェンに出くわすなんて、何かおかしいと思ってよく見たら口の中にこいつが見えた。
……とりあえず抜き取ってみたが、何の装置なのか。
あの場で退治しておくべきだったな。
生徒たちに悪いことをした。
何にせよ、よろしくない事を企んでる奴が居るな。
警戒しておくか。
そんな事を考えながら、残ったビールを飲み干す。
――――――――――――――――
とある建物の薄暗い一室。
数人の人影がテーブルを囲んでいる。
「しかし驚きましたね。あの改造シャドーウルフェンが暴走するとは」
「制御装置の一部が破壊されたんでしょうね。
命令系統が書き込まれたチップが壊されれば、暴走して殺戮マシンと化す事も考えられるわ。
マモノ自体は傷つけずに装置だけを破壊するなんて、器用な事する奴が居たもんだわ」
「そんなバカな! シャドーウルフェンの口の中に手でも突っ込んだっていうのか!?
有り得ん! ただの機器の故障だろう!」
「はぁ……? 私の自信作にケチ付ける気!? 故障なんてあり得ないから!」
「まぁまぁ、今回は試作ですから。このような事態も致し方ないでしょう。
貴重な実験サンプルを失うのは惜しいですが、証拠隠滅のためにも処理を急がせましょう」






