k01-27 雷帝と呼ばれた男
「憤ぬ!!」
地を揺るがすような叫びが聞こえ、ほぼ同時に青紫色の巨大な雷光がシャドーウルフェンの横腹に突き刺さる!
その瞬間から僅かに遅れて大地を揺るがす程の爆雷が轟くき、衝撃でシャドーウルフェンの巨体が吹き飛ぶ!!
あまりの唐突な出来事に、何が起こったのか全く理解が出来ない。
雷撃で立ち込めた砂ぼこりが晴れると、そこには自身の背丈よりも大きな戦槍を構えたマスター・クァイエンの姿があった。
『雷帝クァイエン』
現役時代の話。
常人では持ち上げることすらままならない巨槍を軽々と振り回し、雷光を纏い怒り狂う雷神のごとく敵兵をなぎ倒す。
その姿から畏怖の念を込め付けられた字名だ。
その渾身の一撃をまともに受け、シャドーウルフェンは横腹から白煙を上げてよたよたと立ち上がる。
「……ふん、一撃で仕留めきれんとは儂もいよいよ老いたもんじゃの」
シャドーウルフェンが尻尾を刀状に変え周囲をなぎ払う!
私を抱えて地面に伏せるクァイエン。
顔を上げると、その隙にシャドーウルフェンは姿を消していた。
少し遅れて、魔兵器を持った職員が4,5人到着する。
「追跡しろ。深傷だろうが油断はするなよ」
職員達に指示を出し、自身は手に持つ戦槍をドンと地面に突き立てる。
組み込まれていた紫色の魔鉱石が、先程の雷撃でマナを使い果たしパラパラと崩れ落ちる。
「大事無いか」
マスター・クァイエンが私に歩み寄る。
「…………」
返事をしようとするけれど、上手く声が出ない。
そこで初めて、全身がガタガタと震えている事に気づいた。
そんな私の様子を見て、マスター・クァイエンがほんの少し穏やかな声で話しかける。
「……すまんかったの、遅くなって。森の中から唯ならぬ気配を感じたもんじゃから慌てて来たのだが……。
おい、救護班! こっちにタンカを回せ!!」
指示を受け救護班の教員が私をタンカに乗せる。
大きな怪我がないかその場で少し確認され、大丈夫だと分かるとそのまま病院へ運び込まれる事になった。
正直そこからはあまり覚えていない。
助かった事に安心したのか気を失ったみたいだ。
――――――――――
次に目が覚めたのは翌日の朝。
病室のベッドの上だった。
担当の看護師さんの話しによると、何か所か怪我はあるものの幸いどれも軽い擦り傷や切り傷程度。
足の捻挫が一番重症だったみたい。
特に治療が必要なところも無いけれど、念のための検査とカウンセリングも兼ねて数日入院する事になった。
先に襲われていた7班のメンバーは、それぞれ全治数か月の重傷ではあったものの何とか一命は取り留めたみたい。
先輩の切断された手首も、12時間に及ぶ緊急接合法術によりどうにか元に戻すことができたそう。
切り口が非常に鋭利で、欠損部分の状態が比較的良かった事が不幸中の幸いとなったみたい。
話しによれば、事故後マスター・カルーナとマスター・クァイエンは共に問責に掛けられたそうだ。
演習エリアでの最上位マモノの出現……予測出来るような事態では無かったとは言え、管理態勢は十分だったのか、事前の安全確認に不足は無かったのか、など査問が続いているらしい。
表向きは問責という体だけれど、演習エリアに上位マモノの侵入を許したテイル側にも責任はある。
三者で責任の擦り付け合いといった所かしら。
結果はどうであれ、ファミリアの信頼失墜は免れないわね……。
ーーーーー
夕方、意外な訪問者が。
アイネがお見舞いに来てくれたのだ。
……あのウザいマスターも一緒だったけど。
私の怪我が大した事がないと分かると
「よかった」
とホントに嬉しそうに笑ったアイネ。
その後は、一方的に喋りまくるマスター・ジンの話に付き合わされる感じで、怪我の具合や遭遇したマモノの話なんかを10分程して2人は帰って行った。
机の上には、お見舞いのフルーツと言って置いていかれたバナナ。
バナナって。
わざわざ『ジン・ファミリアより』と書かれた札が付いている。
アイネはしきりに
『こんなのでごめんね!』
とか言って謝ってたけど……あのファミリアよっぽどお金無いのかしらね。
まぁバナナ好きだから良いんだけどね。
退院したらお礼に何か美味しいものでも持って行こう。
さて……明日は退院。
今日は早めに寝よう。
退院し次第、今回の事故の詳細を報告書としてまとめて提出せよとお達しも来てたし、明日からの土日の間に仕上げるとしますかね。






