k01-21 ある有名なフラグ
「何だよ……ちょっと見てただけなのにあんなに怒らなくっても。ケチ」
ジンがふくれっ面でブーブー言いながら馬鹿でかい荷物を整理している。
「ま、まぁ、何か大切な演習の準備中みたいでしたし、私たちの方が悪いんですから」
困り顔でフォローしながら、アイネも自分の装備を確認をする。
「それにしても凄い品揃えでしたね。そんちょそこらの軍隊より潤沢だったりするんじゃないですか」
「まぁなぁ。うちのテイルは下手な軍隊より金持ってるらしいからな。
そんならうちにもせめてもう少し予算回して欲しいよな!? 今日の備品なんて俺の持ち出しだぜ!?」
「ファミリアの予算はマスターの知名度や功績を元に決まる……そうですしね」
「……お前、純粋な顔で結構酷いこと言うな」
「えっ!? ち、違います! そんなつもりは全く無いです!」
慌ててブンブンと手を振るアイネ。
「さ、冗談はさておき俺たちも行くぞ。準備は良いか?」
「もぅ!! ーー準備オッケーです、行きましょう!」
2人は腰を上げるとゲートの方へ向かう。
ゲートでは、クァイエン&カルーナファミリアの生徒が何人か待機していた。
アシスタントらしき教員が彼らを誘導する。
「間もなく10:15となる。7班! 中に入りなさい!」
教員の合図でゲートが重い音を立てて開かれる。
「おーい、俺たちもついでに入れてくれ」
それを見て、ジンが手を振りながら近づいていく。
その後から小走りで続くアイネ。
「な、なんだお前たちは!?
本日このエリアはクァイエン&カルーナファミリアが独占使用許諾を取得してある! 部外者は入れんぞ!」
「ところがどっこい。こっちは最優先入場許可書があるんだわ」
そう言って許可書を見せるジン。
「……確かに。……しかたない、絶対に演習の邪魔をするんじゃないぞ! さっさと入れ」
生徒達に続きジン達もゲートを潜る。
歩きながらジンに囁くアイネ。
「よくそんな許可書貰えましたね」
「……さすがに自分のホームに行けないと困るからな。ま、さっさとマモノに食われろって面もあるんじゃないか」
「ひどいです……」
全員が中に入ると、再び重厚な音を立てゲートが閉じられた。
ーーーーー
ゲートの先は少し開けた広場になっていた。
広場の先は二手に分かれており、2,3人が並んで歩けるような林道がずっと森の奥まで伸びている。
道沿いは割と日差しがあり、穏やかな普通の森と一見変わらない。
しかし、ひとたび道を外れれば木々が生い茂る深い藪。
藪の中は昼間なのに暗く、木々も邪魔をして1,2メートル先まで見通すのがやっとといった所だ。
ゲートの外とは打って変わって静まり返っている。
「では諸君! 予定のルートに沿って進行を開始する!」
一緒に入ってきたクァイエン・ファミリアの生徒達。
その中でも年上と思われる生徒がパーティーに声をかける。
「繰り返しになるが、途中何があっても道からは外れないように!
今回想定しているルートでは君たちでもたやすく撃破できる程度のモンスターしか出現しない。
しかし、森の深い場所では私たちでも手を焼くようなモンスターが出現する事もある。
事前のブリーフィングの通り、ゲート周辺以外では携帯端末による通信は不可能となる。
森が電波を遮る上に、中継機もすぐマモノに壊されるからな」
若い生徒達は緊張した面持ちで先輩の話に聞き入る……。
その面々を順に見渡しさらに続ける。
「そんな状況でもし強力なマモノに遭遇すれば、全員が命の危機に瀕する事となる。
もしそうなった場合、各自の判断で支給されている警笛を吹く事。
そうすれば定点で待機している教員が即座に救助に向かってくれる。
順位は最下位となるが……死ぬよりはマシだろ?」
生徒達は首から下げた笛を取り出し確認する。
その怯え切った表情を見て、先輩生徒は満足げに笑顔を見せる。
「……まぁ、脅しはこの辺にして。ホントのところはそんなに心配することは無いよ。そんな事態にならないよう俺がしっかりサポートするからな!
規則だからキツめに言ったが、実際そこまでおっかないマモノは居ないさ。
ただ、戦闘は大幅なタイムロスになる。そうならないよう注意してくれってことだ。さ、行くぞ!」
先輩の自信に満ちた笑顔を見て生徒達は肩を撫で下ろす。
平常心あるを取り戻し、道なりに進んでいった。
「何だあれ、死亡フラグか?」
その場に取り残されたジンが呟く。
「ちょ! 辞めてください! 何てこと言うんですか!!」
慌ててアイネがツッコミを入れる。
「じゃ、俺たちもさっさと行くぞ」
そう言ってジンも歩き始める。
「はい! ……ってどこ行くんですか!!?」
そそくさと道を外れて藪の間に入り込もうとするジン。
アイネが全力で引っ張って止める。
「さっきの人達の話聞いてました!? 何で速攻他人の死亡フラグ回収しに行こうとしてるんですか!?」
「いや、地図からしてこっちの方向なんだよ」
「だからって何で直進するんですか! 道沿いに行きましょうよ!」
「お前! 目的地かなり奥だぞ!? ただでもどこが道か分かんないような森の中、道沿いにグネグネ行ってみ!?
何時間かかるか分かったもんじゃないぞ。てか迷う! 絶対迷う!」
「だからって、強力なマモノにでも遭遇したらどうするんですか!?
私たちなんて、叫んでもきっと誰も助けに来てくれませんよ!」
「大丈夫だって。さっきの奴も言ってただろ。強力っても生徒だけでもどうにかなるレベルだろうさ。こっちにゃマスターの俺が居るんだ。全っ然安心しろ」
「安心出来ません! 確かにマスターの輝石魔法は凄いですけど、こないだ言ってたじゃないですか! 相手が油断でもしてない限り単独だと諸々準備してる間にやられるって。マモノに頭からいかれますよ! ガブーって! 頭から!」
「何で"頭から"を強調すんだよ。おっかねぇな。
てかこんな疑われた状態で輝石魔法なんて使えるか! 見つかったら根掘り葉掘り調査されるわ。
武器持ってんだからお前が援護しろよ」
「無理ですよ! さっき撃つなって言ったのマスターでしょ!」
「開き直るなよ! あーうっさいな。ほら、行け!」
そう言ってアイネを藪の中へ押しやる。
「ちょ! 何で私が前なんですかー!? ガブっと行かれるじゃないですか! 嫌ですよ!!」
「後ろからじゃないと何かあったときにとっさに援護出来ないんだよ。それに背後からの奇襲も気にせにゃならんし。なにより前だと虫とか嫌だし。俺虫嫌い」
「絶対最後のが一番の理由ですよね!? 私だって虫嫌いですよ! ちょっと! 押さないでくださいよーー!!」
そんなこんなでギャーギャーと喚き続ける2人。
「……あんた達、何やってんの?……大丈夫?」
突然背後から人の声がして慌てて振り返る。
いつの間にか、シェンナが引き釣った顔で立っていた。
「あ、あぁ。身内の問題だ。お構いなく」
ジンが平常を装って答える。
「そ、そう。何かアイネ半泣きみたいだけど大丈夫ならよかった」
横を見るとアイネが半泣きでジンを睨みつけている。
「シェンナくん! 時間が惜しい、行こう!」
年長と思われる生徒が声をかけ、シェンナ達は道沿いに森の奥へ進んで行った。
去り際に、もう一度怪訝な顔で俺を振り返りながら。
「分かった……。俺が先に行くからついてこい。それで勘弁してくれ」
「……はい。でも気を付けてくださいね」
道を外れ、藪をかき分け森の奥へと進んで行く。






