k04-18 追い詰められる人々
「ふむ、粗方片付いたな……とは言え」
門の外を見るクァイエン。
そう遠くない距離にオークやトロールなど大型マモノの集団が見える。
「これはまた……筋力だけが取り柄の肉体派がゾロゾロと。骨が折れそうですね」
カルーナが皮肉交じりに吐き捨て首を振る。
「街中で暴れると事だ。迎撃に出るぞ」
「既にいくらか入り込んでいるようですが、そちらはどうしましょうか」
「……放っておけ。他のマスターや職員も居る。数が少なければあの程度のマモノくらい迎撃できるわ。ウィステリアテイルはそこまで軟ではない」
「……ですね」
そう言うと並んで門の外へ歩みを進める2人。
門の傍で戦っていた防衛軍の兵士達に声を掛ける。
「さぁ、戦える者は続け! 後ひと踏ん張りだ! 奴らにウィステリアの意地を見せつけるぞ!!」
―――
「た、助けて! 誰か……」
息も絶え絶えにグランドウルフから逃げまどう警察機構の若い男性隊員。
突如マモノ襲撃を受け仲間と散り散りになってしまい、どうすることもできずただただ走り続けている。
細い路地を何度も曲がりどうにかその視界から逃げおおせようと必死に走るが、人の足では到底逃げ切れる訳もない。
ランドウルフの素早い動きに翻弄され、徐々に追い詰められていく。
……
「く、クソ。他の奴らは……無事なのか!?」
付近にあった木箱や看板などをなぎ倒し障害物とすることで、どうにかグランドウルフとの距離を保ってきたが……体力もそろそろ限界だ。
「ったく、マモノが相手なんて……聞いてな――」
過度を曲がろうとしたとき、小さな段差に躓き足がもつれて倒れ込こんでしまった。
顔面から派手に転び、肘や膝を道路の石畳に思いっきり打ち付けた。
あまりの痛さに蹲って泣きたくもなるが、今はそんな事も言っていられな。
「く、クソ!」
慌てて振り返ると、口から涎を垂らしたグランドウルフがすぐそこまで迫っていた。
追い詰めたと思ったのか、襲歩を辞めてゆっくりと間合いを詰めてくる。
こっちは息も絶え絶えだというのに、向こうは呼吸の1つも乱さず悠然とした様子だ。
見れば口の周りが赤く染まっている。
恐らく……既に何人か嚙み殺してきたんだろう。
「ふぜけんな……お前のオヤツになんかなってたまるか!!」
腰の小銃を素早く抜き取り、照準もろくに合わせず乱射する。
そのうちの2,3発がグランドウルフの胴体に命中するが、特に怯む様子も無い。
すぐに、カチカチと小銃が弾切れを知らせる。
分かってはいたが、一般兵装でマモノと向き合うなんて……やる前から結果の分かり切ったていた事だ。
怯える人間をおちょくるのにも飽きたのか、低い唸り声を上げながらこっちを睨みつけるグランドウルフ。
グッと姿勢を落とすと――牙をむき出しにして一気に飛び掛かってきた!
とっさに地面を転がり、どうにかその一撃を回避する。
そのまま這いずるように逃げると、痛む膝を庇いながらどうにか立ち上がる。
……が、立った途端に何かに躓き再び派手に転んでしまった。
(くそ、どこまでもツイてない……!)
そう思いながら足元を見ると、躓いたのは……無残な様子の死体だった。
首元から上を執拗に噛み千切られ最早顔も識別できない。
「ひ、ひぃぃぃ」
死体なら事件現場で何度か遭遇する機会はあったが、ここまで酷い物は初めて見た。
思わず腰を抜かして、その場に倒れ込むんでしまう。
それを嘲笑うかのようにゆっくりと近づいてくるグランドウルフ。
まるで狩りを楽しむハンターのようだ。
何か打開策は無いか……と周囲を必死に見渡すと、視界の隅にふと黒い物が映った。
――先程の死体が手に握っている小銃だ。
申し訳ないと思いつつも、その手から血まみれの小銃を拾い上げる。
素早くマガジンを確認すると、弾はまだ数発残っているようだ。
(……神様の思し召しか)
今までろくに神へ祈った事など無かったが、神へ感謝と憎しみを同時に捧げた。
徐に銃を構えると、その銃口をグランドウルフ……ではなく、自分の頭に向ける。
「誰がお前の思い通りに喰い殺せれてやるかってんだ!」
1歩、また1歩とゆっくり距離を詰めてくるランドウルフ。
小銃を持つ手がガクガクと大きく震える。
肩を揺らし、鼻で大きく呼吸する。
心臓が張り裂けんばかりに鼓動し、脂汗が止まらない。
死ぬ! どうせ死ぬ! 死ぬことは決まったんだ! なら、少しでも楽に死ねる方を選ぶ、ただそれだけだ――!!
固く目を瞑り、最後の勇気を振り絞って引き金に力を込めた――その時
「ギャン!」
背後から1発の銃声と、ランドウルフの悲鳴がほぼ同時に聞こえ、思わず目を開ける。
さらに立て続けに鳴り響く銃声。
発射された弾丸は、ただ1発すらも外れる事なく、目、喉、眉間と的確に急所を射抜く!
溜まらずに後ろへ飛び退くグランドウルフ。
な、何だ!?
銃声からして同じ一般兵装の小銃のはず。
まさか、一般兵装でマモノに有効打を与えられるなんて……!?
驚いて振り返ると、深い緑の髪をした若い隊員が立っていた。
小銃を正眼で構え、真っすぐと敵を見据えている。
――え、あんなに若い子がこの精密射撃を!?
「――来ます!」
その子が大きな声を上げる。
振り帰ると、体勢を立て直したランドウルフが襲歩で一気に距離を詰めてくる。
そして襲い掛かろうと大きく空中へ飛び上がった、その瞬間――
けたたましい銃声が鳴り響き、空中に居たランドウルフが大きく後方へ吹き飛んだ!
背中から地面へ落ちバタバタともがいている所へ、さらに数発が撃ち込まれる。
耳鳴りがする程の爆音。
ただの銃じゃない事はすぐに分かる。
音の方を見ると、先ほどの少女のすぐ後ろで中年の男性が見た事もない馬鹿デカい銃を構えて立っていた。
その銃口からは濛々と硝煙が立ち昇っている。
夕日の逆光に照らされ赤く輝くオーキュペティーの紋章。
同じ警備機構の隊員だ。
男性の方はそう言えば見覚えがある。確か第7支部の――
「隊長、なんなんですかその銃!? え、というかそれハンドガンなんですか?」
「――G.E-M500。専用の50口径弾を使うれっきとしたハンドガンだ」
「ご、50口径って……それ、普通に立ち姿勢で撃っていいような銃じゃないですよね……」
そう言って引き攣った顔で男性を見る少女。
気付けばマモノは霧散して消え去っていた。
し、信じられない――まさか一般兵装、それもハンドガンだけでマモノを仕留めるなんて。
いや……彼ならやり得るのか噂の凄腕隊員……第7支部のモルガ隊長。
「おいお前、大丈夫か!? 走れるなら後方へ下がれ。もう警察機構の一般兵じゃ手に負える状況じゃない」
そう指示しながら銃を確認するモルガ隊長。
「は、はい。あの、ありがとうございます」
「おう、気を付けてな」
挨拶も早々に、痛む手足を庇いながらテイルへと向かい後退する。
た、助かった。
それにしても、めちゃくちゃな強さだったな。
第7支部警邏隊……もしかしたらあの噂、本当なのか?
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