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k04-14 迫る開戦

 ――丁度そこに、構内放送が流れる。


「全生徒へ通達。こちらグランドマスター・シエン。現在の状況を説明するのでよく聞くように。本日11:30、ウィステリアは宣戦布告を受け戦争態勢に入った。敵はエバーキプロ共益協会。敵方は多数のエバー兵を有していると想定され、ウィステリアの通常兵力だけでは抵抗が難しいと判断。この街を守るために当テイルもこれに加勢する。我々の作戦目標は当テイル敷地内を最終防衛ラインとし一般市民の保護、及び街内の防衛。各員、担当指導員の指示に従い13:00までに戦闘準備を整え待機する事。――街の防衛は私達にかかっているわ、健闘を祈る」


 突然の事に皆唖然として開いた口が塞がらない。

 全く現実に追いつけないまま、エーリエがどうにか言葉を捻りだす。


「え、えぇ!? ちょっとマスター、どういう事ですか!? 戦争……!?」


「そうよ。残念ながら既に回避策は無いわ」


 落ち着いて言い放つカルーナに対して、今にも泣き出しそうな他の生徒が問いかける。


「街内での防衛って……敵に街内まで進攻される前提って事ですか!?」


「……えぇ、そうよ。相手の兵数はおよそ800。そのうち何割がエバー兵なのかで戦力は大きく変わってくるけれど……何にせよ街外での完全防衛は難しいでしょうね」


「そんな……警察や防衛軍は?」


「警察や私兵、それに警察機構の戦力をかき集めたとしてこちら側の戦力は推定4000。対して敵戦力は800~8000。向こうは間違いなくこちらの戦力は把握済のはず。その上でこんな強硬手段に出てくる以上……あまり考えたくはないけれど、既存の兵力差では不利と考えた方がいいわ。そうなると――私達テイルの戦力が勝負を分かつ鍵よ!」


 皆を鼓舞するように努めて明るく話すカルーナだが、生徒達は不安な顔で俯いたままだ。


「……勝機はあるんですか?」


 エーリエがカルーナの顔を見上げ問いかける。


「――あるわ。知っての通りウィステリア街内は外の人間にとっては迷路よ。私達は土地勘を生かして、潜伏から奇襲を仕掛けるゲリラ戦を展開する。日没まで約6時間……街に慣れてる私達と違って、土地勘の無い敵兵は奇襲を警戒しながら暗闇の中を進攻することは困難。日没まで乗り切れば敵は一端兵を引くはず。そうなれば明日の朝には友好関係にある街から援軍が到着するはず。それまで持ち堪えられれば私達の勝利よ!」


 力強く答えるカルーナ。

 不安など微塵も感じさせない真っすぐな瞳でエーリエの事を見据える。


「……みんな、大丈夫や! こっちには"麗氷"カルーナだっておるんや! 負ける訳ないって! ウチらの街、ウチらで守ったろうや!」


 そう言って自らの拳を打ち合わせニィッっと笑って見せる。

 その笑顔に他の生徒達も少しだけ元気を取り戻す。



「私、お父さんとお母さんを守りたい……」

「そ、そうだよ! 俺たちだって傭兵の卵だ!」

「そうだ! 俺たちの街で好き勝手になんかさせてたまるか!」


 決意を口にし円陣を組み始める。


「やるぞ! 俺たちでこのウィステリアを守るんだ!」



 それを見て頼もしそうに微笑むカルーナ。


(驚いたわね。てっきり戦意喪失して逃げ出す子も出るかと思ったけど――頼りにしてるわよ)



 しかし、戦場に出るとなればここに居る全員が無事で済む保証など1つもない。


 遠征で何度も赴いた難民キャンプなどとは違い、戦地のど真ん中に赴くのだ。

 私はこの子達を無事に戦場から帰してあげられるのだろうか……。

 例えこの子達が無事でもウィステリアが負ければ街はタダでは済まない。

 そうなれば皆の家族や大切な人もどうなるか分からない。


 この子達を誰一人死なせず、戦いにも勝利する……圧倒的不利と思われるこの状況で果たしてそんな事が可能なのだろうか。

 その笑顔と裏腹に、一番不安を抱えているのはカルーナ自身だった。




(こんな時、あの子……シェンナだったらどんな作戦を立てたかしら)


 エーリエの事を見ているうちに、いつも一緒に居る彼女の事を思い出していた。

 無意識のうちにそんな事を考えていた自分に驚き思わず小さく笑ってしまう。


 そんなカルーナの様子を見て不思議そうに顔を見合わせる生徒達。



「ごめんなさい! さ、戦闘準備よ!!」




 ―――――




 一方……

 街中は徐々に慌ただしさを増してきていた。


 “迎雪祭”の警備でも見た事のないような警察職員の数や、普段街中で姿を見る事は少ない防衛軍。

 そんな様子からただならぬ事態だと気付き始め、いよいよ動揺が広がる一般人達。

 ウィステリア在住の人々はまだ良いが、外からの観光客は見知らぬ土地で起きた異常事態にパニック寸前だ。



 そんな人々の誘導を続けるモルガとアスタ。


「押さないで! 危険です!」

「ご協力お願いします! 小さなお子様やお年寄りも居ますので!」


 市民課や交通課の職員も応援に駆けつけて、今のところどうにか人の流れは制御出来ている。


 そんな中、モルガの無線機に連絡が入る。

 相手はロックだった。


『隊長! 防衛庁から通達です。その場は一端任せてロレンツォの広場まで下がってください!』


「冗談じゃない! こんな状況の市民を放っておいて退避なんてできるか!」


『そんな事言っても、上からの命令っスよ! 市民の誘導はテイルの生徒達が応援してくれるそうなんで、俺たち戦闘員は広場で迎撃準備だとか』


「はぁ!? ふざけるな! 何でテイルが出てくんだよ!」


『ちょっと、無線で大声出さないでくださいって! もう! いいっスか!? よく聞いてください! "戦争"です! ウィステリアは戦線布告を受けました』


「せ、“戦争”!? ど、どういう事だ!?」


 大声を聞いたアスタが驚いて駆け寄ってくる。

 不安そうなその様子を見て、少し冷静さを取り戻すモルガ。


『情報が錯綜してて定かじゃないんスけど、郊外に現れたのは共益協会の飛空艇らしいっス。で、協会がエバー兵を従えてウィステリアに宣戦布告だとか』


「は!? なんで共益協会が!? 敵の目的は!?」


『いや、その辺がまだはっきり分かってないんスけど、侵略戦争だとかなんだとか。とにかく、街の全勢力で統一戦線を展開するんで、うちらも防衛庁管轄下で動くことになります。俺らも向かうんで現地で!』


「……チッ! おい、アスタ! 一端下がるぞ!」


 無線を切ると小さく舌打ちし、アスタの肩を叩く。


「え!? でも市民の誘導がまだ!」


「上からの命令だ! 誘導はここにいる他の奴らで充分だ」


 そう言って駆け出すモルガ。

 アスタもまだ混乱が続く現場に後ろ髪を引かれながらもそれに続いて走る。

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