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k04-12 戦う理由

「詳細な指示は最新情報と合わせて追って通達する。その間に各員戦闘準備を進める事。では、解散」


 シエンの号令を受けマスター達が慌ただしく部屋を後にする。

 カルーナも皆に続き部屋を出ようとするが……


「マスター・カルーナ。少し待て」


 マスター・クァイエンに突然呼び止められる。


 ただ椅子に座ったままじっと正面を見つめ、動こうとしないクァイェン。

 その意図を掴めずただ立ったままその場に残るカルーナ。


 他のマスター達が部屋を出ていったのを確認すると、クァイェンが秘書に目配せをし部屋のドアを閉めさせた。


 マスター達の騒がしい話し声が遠のいたのを聞き届けると、クァイェンがおもむろに口を開く。


「……何を隠しておる?」


 身に覚えのない質疑にカルーナは一瞬戸惑い身構えるが、その問いはどうやら自身に向けられたものではないらしいと分かる。


 シエンの顔をじっと見つめるクァイェン。



「……何のことかしら?」


 さらりと言ってのけるシエン。

 さすがグランド・マスター。

 テイルの関係者ならば誰もが萎縮したじろいでしまう程のクァイェンの圧に、微塵も動じる事は無い。


「ふん、白々しい。一番肝心な事に触れとらんだろう。――敵の"要求"は何だ? “戦争”を始めようというのだ。まず真っ先に要求があってしかりだろうて」


 その問いに少し悩む様な素振りを見せた後、黙ってクァイェンの向かいの席に腰掛けるシエン。

 同時に、傍で立ったままだったカルーナにも着席するよう促す。


「――ええ、確かにあったわよ。“要求”。けれど……公にするかどうか迷う内容でね」


 テーブルに両肘をつき眼前でそっと掌を組むと、その掌に額を埋め暫く考え込む様に黙り込む。


 窓から差す穏やかな陽光が丁度シエンの座った席を明るく照らし出している。

 カルーナにはその様子が、まるで教会で祈る熱心な信徒のように見えた。



 暫し黙った後――決心したかのように口を開く。



「要求は――“セントレイア“の身柄引き渡し」



 過去これまでに聴いた事のある、彼女のどんな声よりも、重く思い詰めたようなそんな口調だった。


 その様子から事態の深刻さを察したのか、クァイェンも神妙な面持ちで問い返す。


「セントレイアとは? あの御伽噺のか?」


「えぇ、そうよ。……マスター・カルーナ、貴女も名前くらいは聞いたことあるかしら?」


「は、はい、多少は。古代史に出てくる、この“二世界”を創造したという創造神の名ですよね」


 突如出てきた場違いな名に、少し戸惑いながらも自分の知る限りの知識を口にするカルーナ。


「……えぇ。その通り」


 小さく頷くシエン。



「で、その御伽噺の“神”を引き渡せとはどういう事だ? 何かの比喩表現か?」


「――いいえ」


「ならばどういう事だ。まさかこのウィステリアに“神”が住んで居て、そいつを引き渡せと?」


 失笑を浮かべながら冗談まじりに吐き捨てるクァイェン。


 しかし、シエンは眉一つ動かさずただ静かに2人を見据えている。

 その様子からして、ただの戯言では無い事をクァイェンも薄々と感じ取る。


 場が束の間の沈黙に包まれる。



「……本当に“神”が存在すると言うのですか?」


 思わず口を挟むカルーナ。

 それでもシエンは黙ったまま何も答えない。



「――馬鹿馬鹿しい!!」


 豪を煮やしたクァイェンが机を拳でドン! と打つ。

 シエンは小さくため息をつくと、少し表情を和らげようやく話し出す。


「……まぁ、“神”が本当に居るだの居ないだのっていう話は今は置いておきましょう。問題なのは、敵はその神が此処に居ると決めつけて引き渡しを要求してきており、それに対し我々は渡せるものは何も無いと言う事。いくら口で不在を主張したところで、この街をしらみ潰しにするまで敵方は引き下がらないでしょうね。事実上の侵略戦争と変わらないわ」


 そう言って小さく首を横に振るシエン。


「つまり……どうせ戦いは避けられないならばいっそ“神”だなんて民衆の不信を煽る様な話はせず、ただの侵略戦争として真っ向から敵を撃とうと?」


 カルーナが額に手を当てながら目を瞑る。


「えぇ、その通り」


「……何故我々がそんな茶番に付き合う必要がある? テイルは不干渉を決め込めば良かろう。それなりの調査は入るかもしれんが生徒達を危険に晒すよりは余程マシだろうに」


「そうは行かないわ」


「何故だ!?」


 声を荒げるクァイェン。



 しかし、シエンはその問いに答えることなくじっとクァイェンを見つめる。

 両雄が鋭い視線をぶつけ合い、再び室内は静かさに包まれる。


 やがてシエンの方が先に口を開く。


「――マスター・クァイェン。ここは傭兵を育成するための機関よね? その指導員たる貴方が、上官に命令の意図を執拗に問いただすだなんて……傭兵のあるべき姿としてあまり褒められた行為だとは思えなくないかしら?」


「――ふん、まぁ良いだろう。時間も無いことだ。こちらに正義がある事が分かればそれでいい」


 そうとだけ吐き捨てると、マントをひるがし足早に部屋を出ていくクァイェン。



「失礼します」


 グランド・マスターに一礼すると、カルーナもその後に続く。



 ……



 2人が出て行ったのを確認すると、やれやれと首を振りそっと立ち上がるシエン。


 おもむろに自分の執務机に座り直すと、傍机の引き出しを開け1枚の写真を取り出す。

 随分と古い写真のようだ。


 背景に写っているのはウィステリアテイル。

 その校門には多くの花が飾られている。どうやらテイルの完成記念式の時の物のようだ。


 その前に映っているのは若い一組の男女。


 女性は髪の色と風貌からして若かりし頃のシエンだろうか。

 隣に立つ男性に肩を組まれ、少し迷惑そうに、それでも楽しそうに笑っている。


 そして、その隣で満面の笑みを浮かべるのは……


 ――マスター・ジンと瓜二つの、黒髪の若い男性だった。



「いよいよね。このタイミングで事が動き出したのは偶然かしら? それともこれも計画通りかしらね?」


 懐かしむように目を細め暫く写真を眺めると、写真を裏返し自らの問いと一緒に引き出しの奥底へと仕舞い込んだ。

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