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k04-09 2羽のオーキュペティー

 翌朝――


 オフィスにはロックとクダン、それとアスタの姿が。


 クダンとロックはいつもと変わらず朝っぱらから他愛もない雑談に花を咲かせている。

 昨日あれだけ飲んだというのに元気だ……その辺はさすがにプロと言った所か。

 対するアスタは少し寝不足なのか、自分の席に座って静かに書類に目を通している。



「おはようさん」


 少し遅れてモルガがオフィスに姿を現す。


「おぅ、おはよさん」

「おはよーございまッス」


 それぞれに挨拶を交わす3人。



 ロッカーにコートを仕舞うと、そのまま自分のデスクに向かう。

 アスタの机の横を通り過ぎようとしたとき、アスタがおもむろに立ち上がる。


「……」


 じっと真顔でモルガの顔を見るアスタ。

 その顔を静かに見返すモルガ。


(……あーぁ。ダメだったか)

(ハァ……)


 過去に何度か見た光景だ。

 うちの隊長は頑固で堅物……若い新人と揉めることは過去に何度かあった。

 で、新人が辞めて行く時はだいたいこんな感じで朝一に辞表叩きつけてくるんだよなぁ。


 クダンとロックはそれぞれ心の中で大きくため息をつく。


 しかし、彼らの思惑とは裏腹に、アスタの口から出た言葉は意外なものだった。



「……おはようございます」


 バツが悪そうに小さな声でそう言って、ペコリと頭を下げるとそのまま席に座り書類の確認に戻る。

 突然の事に戸惑い、少し固まった後モルガも挨拶を返す。


「お、おぅ、おはよう」


 目をパチパチさせて驚いた顔をするモルガを見て必死に笑いを堪えるクダンとロック。

 クダンがロックの肩をポンと叩くとそのまま椅子に掛けてあったコートを取り部屋を出ていく。


「あ、そんじゃ俺ら巡回行って来るんで!」


 そう言ってロックも元気に部屋から出ていく。



 ―――



 モルガとアスタだけが残された室内。


 小一時間程黙々と事務処理をこなしていると突然アスタの机にコーヒーの入ったマグカップが置かれた。

 驚いて顔を上げると、同じくコーヒーを手にしたモルガが照れくさそうに立っていた。


「……コーヒー、飲めるか?」


「……は、はい」


 作業の手を止めると、両手でマグカップを持ち静かに口を付けるアスタ。

 モルガも机に軽く腰掛けると黙ってコーヒーに口を付ける。


 お互いに何も言わないまま2,3口コーヒーを啜った後、モルガがおもむろに口を開けた。


「その……なんだ。先日は、すまなかった。学校すらまともに行ってない俺と違ってお前は優秀なんだ。ちゃんと口で言えば分かったはずなのに」


 そう言って手に持ったマグカップに視線を落とす。

 椅子に座ったままその顔を見上げるアスタ。


「……いえ、こちらこそ。考えもなく勝手な事をして申し訳ありませんでした」


 モルガと同じように手に持ったコーヒーに視線を落とす。


 再び静寂に包まれる室内。

 天井で回るシーリングファンのかすかな羽音だけが聞こえる。


 何かを言い出そうとして口を開くが、一瞬躊躇い辞めてしまうモルガ。

 それでも意を決したように、再び口を開くと頭を掻きながら努めて穏やかに話し出す。


「あんな暴力を振るっておいて言えた口じゃないのは分かってるんだが……1つだけ分かって欲しい。“お前には”こんな所で死んで欲しくないんだ。警邏隊の隊長として相応しい発言だとは思わんが……自分の命を捨ててまでやり遂げなければならん仕事なんぞ無い」


 そう言うとコーヒーをぐっと飲み干す。

 その様子をじっと見つめたまま、かすかな笑顔を浮かべるとアスタは静かに聞き返す。


「……それなら、隊長はどうしてこんな仕事に就いているんですか?」


 じっとモルガの目を見つめるアスタ。


「……何でだろうな」


 そうとだけ言うと自分の机に戻っていく。

 深々と椅子に座ると、ぼんやりと中空を見上げる。


 その様子を見てアスタは2年前の事を思い出していた。

 憧れの先輩だった、隊長の娘さんに生前聞いた事がある。

 テイルを卒業したら何になりたいか、どんな仕事に就きたいのか。

 成績優秀で、卒業前からいくつもの有名企業から内密にオファーを受けている彼女がどんな職を選ぶのか興味深々だった。


 少し悩んだ後に出した彼女の答えが――


『私、大企業とかお金持ちの私兵とか、そういうのあんまり興味無いんだぁ。あんまり具体性のない話だけどさぁ――大好きなこの街と、街の人々を守れるような、そんな人にただなりたい」


 真っすぐな目でそう言った後


『とか言ってみて、本当は仕事なんかしないで遊んで暮らしたい言い訳だったり』


 照れ隠しなのかそう言って恥ずかしそうに笑う顔が今でもはっきり思い出せる。


 ――あぁ、多分隊長は娘さんの意思を継いでこうして街を守り続けてるんだ。

 合っているのかどうなのかは分からないけれど、何となく自分の中で納得したアスタ。



「――隊長」


 椅子から立ち上がると、モルガの机の前まで歩み寄るアスタ。


「なんだ?」


「お言葉ですが、私にはあります。命がけでもやりたい仕事。――私の事を命がけで助けた人が叶えられなかった夢」


「――!」


 慌ててモルガが宙から視線を戻すと……


「でも! あの人が自分の命と引き換えに救ってくれた命を粗末にする気なんか毛頭ありません! 確かに私はまだ新人です。危なっかしくて見てられないかもしれません。でも、だから――隊長の傍でもっともっと勉強させてください! 自分自身も、大切な人も、皆守れるように強くなりたいんです!」


 そう言って、数日ぶりの笑顔を見せるアスタ。


「……ったく。いきなりあれもこれもは欲張り過ぎだ。現場で安心して見てられるようになるまでは俺の傍を離れるなよ。……新人のうちは何があっても――俺が絶対に守ってやるから」


 真っすぐにアスタを見つめるモルガ。

 アスタもその目を見つめると、元気よく返事を返す!


「はい!」


「――そんじゃ、外出禁止は撤回だ。巡回行くぞ」


「――はい!」


 そう言うと、2人共上着を羽織り足早にオフィスを後にする。

 その背中ではオーキュペティーの勲章が誇らしげに輝いていた。

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