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k04-01 ウィステリア公立警察機構 第7支部

※第4章の時系列は、シェンナ達がバンブー・カラムに旅立つ数日前〜第3章の期間中です。バンブー・カラム編の間にウィステリアで起きた出来事のお話です。

冠水都市ウィステリア。


周囲を高い山々と巨大な湖に囲まれた風光明媚な大都市。

街中には細かく水路が張り巡らされ、小舟が優雅に行き交う様は街の風物詩となっており、近年では多くの観光客で賑わっている。


これだけの都市ともなると人の往来も激しく、街中では少なからず事件や事故が発生してしまう。

それらから市民の安全を守るのは街の統治にとっても大切な事だ。


――ウィステリア公立警察機構。


先の大戦前よりウィステリアの治安維持し続けている伝統ある由緒正しい公立組織!


……とは言え、近年は有名企業が提供する私兵やテイル卒の傭兵など魔兵器を扱う兵力が花形であり、一般兵装オンリーの警察機構は交通整理や揉め事の仲介など地味な裏方といった印象を持たれがちであるのは居否めない……。



そんなウィステリア公立警察機構の第7支部。

街の玄関口であるセントラルステーションから最も近い位置にあり、12ある支部の中でも最大規模の拠点である。


ある日の早朝。

まだ人の往来も少ない中、その建物の前に立つスーツ姿の女の子が1人。


深緑色の髪を後ろでポニーテールに縛り、新品のスーツをビシッと着込んでじっと建物を見上げている。

眉上で短く切り揃えた前髪のせいだろうか、スーツ姿とは不釣り合いなやや幼い印象を受ける。


翡翠を思わせるような深緑色の大きな瞳に決意を込めると、いざその入口を潜る。



建物の1階は一般受付の窓口の他に、生活課や交通課のオフィスも入る間仕切りのないワンフロアになっている。



「おはようございます!!」


少女の大声が、まだ始業前で静まり返ったフロアにこだまする。


早朝ということもあり、フロアには4,5人の人影しかない。

その全員がキョトンと彼女を見る。


(あ、あれ? 私何か浮いてる? 皆さんポカンとした顔をされていますが……)



「……お、おはようございます」


受付で始業の準備をしていた女性が、少し驚いた様子で挨拶を返してくれた。


少女は満足そうに微笑むと、階段を登り“警邏(けいら)課オフィス”のある2階へ。

階段横にあったフロアマップでオフィスの場所を調べる。


(ありました! 東の端ですね)


朝日が差し込む明るい廊下を足早に奥まで歩いて行くき、ふと気が付く。


(……こっちは逆ですね!)



慌てて引き返し反対側へ。

誰にも見られていなかったのは不幸中の幸いだ。


そう広くは無い建物の廊下を端から端まで早足で歩き、“警邏課オフィス”と書かれたプレートが掲げられたドアの前に立つ。


やや緊張した面持ちで、大きく一度深呼吸をする。


(こういうものは最初が肝心と聞きました。第一印象が大事です! 新人らしく元気よくいきましょう!!)


コクリと一度頷くと、意を決して勢いよくオフィスのドアを開ける。



「おはようございます! 本日よりお世話になりますアスタ・シャロン・サージェントです! よろしくお願いします!」



オフィスには、スーツ姿の男性が2人。

各々のデスクで書類の整理をしていた。


1人は赤色の髪坊主に丸めた筋骨隆々の逞しい中年の男性。

もう1人はややパーマがかった栗色の髪を肩まで伸ばし、スーツを着崩したいかにも軽そうな若い男性。


2人共作業の手を止めポカンと彼女……アスタの事を見ている。


「……あー! おはよう! 君が今日から配属って言ってた新人さん!? へー! どんなゴリゴリのが来るのかと思ってたら、結構可愛いじゃん!」


軽そうな雰囲気の若い男性が、見た目通りの軽いノリでニコニコとアスタに歩み寄ってくる。



「も、申し訳ありません! 新人は1番に出社して皆さんのデスクのお掃除をしなければいけないものを!! 遅くなりました!」


深々と頭を下げるアスタ。

その様子を見てキョトンと目を合わせる男性達。


数秒の沈黙の後、軽そうな男性がケタケタと声を上げて笑い出す。

赤髪の男性は微笑ましそうに鼻で笑うと、そのまま作業に戻る。


「それ、いつの時代の話? 俺らも子供じゃないんだから自分の机の掃除くらい自分でやるよ。アスタちゃん、だっけ? ……ようこそ、第7支部へ!」


そう言って手のひらで部屋の中を指し、アスタを迎え入れてくれる。


机と椅子が10席程並んだ室内。

個別差はあるものの、どれも机の上は書類で溢れそうになっている。

壁面にある大きなホワイトボードも書類がいっぱい貼り付けられているし、バインダーが詰め込まれた戸棚も書類でギュウギュウだ。


「ごめんね、男が多い職場だからさ。何か散らかった感じでさ」


「い、いえ! とんでもありません」


まだ少し緊張したままの様子でアスタが答える。



ちょうどその時、背後のドアが開き後ろから声がした。


「散らかってると思うならたまには掃除でもしたらどうだ、ロック」


振り返ると、深い茶色の髪を短く刈り上げた逞しい壮年の男性がオフィスに入って来る所だった。



(……タバコの匂い)


観光都市であるウィステリアではタバコを吸える場所は極端に限られている。

近年急速に進んだ分煙化でその方針はさらに顕著になり、今では街中で喫煙場所を探すのも一苦労。

そういう事情もあり、最近ではタバコを吸う人は珍しい。



「ちょっと! また朝からタバコ吸ってきたんスか? 臭いキツイんで勘弁してくださいよ!」


軽そうな男性が鼻をつまんで大袈裟に煙たそうな素振りをする。


「所定の喫煙所で吸ってきたんだ。文句言われる筋合いは無いだろ」


羽織っていたコートをロッカーに片付けながら男性が言い返す。


駆け寄ってそのコートに手持ちの消臭スプレーを噴射する軽そうな男性。


そんな様子を横目に、赤色の男性が椅子から立ち上がり一礼する。


「おはようございます、隊長」


「うす、おはようさん」


手を挙げて応える男性。



(た、隊長!!)


慌てて敬礼するアスタ。


「あの、おはようございます! 本日からお世話になりますアスタ・シャロン・サージェントです」


「おぉ。おはようさん」


そうとだけ応えると、部屋の一番奥に1つだけ離れて置かれている、おそらく彼の物と思われるデスクに歩いて行く。


「ちょっと隊長! こんな可愛い子来るなんて聞いてないっスよ! 分かってたらもっと髪型ちゃんとしてきたのに!」


「……ったく、お前は夜勤明けなのに元気だなぁ」


詰め寄る若い男性を面倒そうにいなしながら、隊長と呼ばれる男性は、散らかった机の上から1束の書類を手に取る。


※アスタ

挿絵(By みてみん)

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