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k03-47 【第3章最終話】戦略的撤退

 目の前で繰り広げられる光景を直視する勇気がなく思わず目を瞑る。


 程なくして――甲高い金属音が部屋中に響き渡る。


 ……え、何の音?


 恐る恐る目を開けると、つい直前まではそこに居なかったはずの人影が1つ。


「……何だお前?」


 ジニアが怒り半分、驚き半分といっ様子でその人物を睨みつける。

 振り下ろされた右手の剣はカルミアさんの身体を逸れ、そのすぐ横の床に刺さっていた。


「あん? 口の悪ぃガキだな。……何だ? って聞かれたら、まぁ……そこに転がってる奴らの保護者だ」



 ――マスター!!


 何処から現れたのか、カルミアさんの前に立ちはだかるようにして、うちのマスターが立っている。


 ポケットに両手を突っ込んだまま、上げていた片足をゆっくりと下す。

 どうやら短剣を蹴り飛ばして斬撃を逸らせたらしい。


「保護者……だって?」


 徐々に驚きよりも怒りのウェイトが大きくなってきたのか、あからさまに不機嫌そうな顔をマスターに向けるジニア。



「まぁ、職務上の話だが。それにしても、小さい子供が2人も居るのにこの状況は……何てぇか、ちゃんとした大人として見過ごせんだろ」


 そう言って、足元で横たわるカルミアさんや、ノエル、それに私達の事を代わる代わるに見渡す。


 途中、ライドアーマーのコクピットに居るゲルニカに目が止まる。


「げ、なんだあれ、気色わる」


 あけすけな感想を口にして、眉間にシワを寄せ口に手を当てるマスター。



「まぁ、とりあえず……怪我人の救護だな」


 そう言うと、ゆっくりと右手を天井に向け掲げる。


 次の瞬間――大きな実験場を包み込む程の魔法陣が現れ、床一面に光の図形を描き出す。

 魔法陣が放つ光は……黒!?

 物理的にあり得ないのは理解できるんだけれど、“黒い光”としか形容しがたい不思議な閃光を放って複雑な魔法陣が規則的に回転を始める!


 何これ……!?

 ホームにあったどんな文献にも出てこなかったし、マスターが今まで私に教えてくれた輝石魔法の成立ちとも全然違う……まるで世界の法則を全て無視して傍若無人に振る舞うようなめちゃくちゃなマナの往来。



「“絶対なる摂理への反逆 ステイゴールド”」


 詠唱すら省略して放たれた未知の魔法。


 怪しく揺らめく黒い光の中、夕焼けに照らされたかのように黄金に輝く水滴が、ポツポツと降り出す。

 やがてそれらは雨足を増し、大粒の雨となって部屋中に降り注ぐ。

 ただし、その雨は普通とは真逆で、地面から天に向かって降り注ぐ。まるで逆再生を見ているみたいだ。

 それにしてもこの色、何処かで……まさか!? アンニィパータントポーション!?


 気づいた時には、さっきまであんなに酷かった頭や背中の痛みは完全に消え去り、息苦しさも全く無い。


 床に倒れて、咳と共に血を吐き続けていたカルミアさんも静かにゆっくりと息をしてる。


「ママ!!」


 慌ててカルミアさんに抱きつくノエル。

 足に刺さっていた短剣は完全に消え去り、傷跡も見えない。


「大丈夫だ。寝てるだけだ」


 マスターが少し視線を逸らせながらボソリと呟く。



「マスター!」


 アイネも完全に傷が治ったみたいで、大声でマスターに呼びかける。


「よう。……お前ら、また何か余計なことに首突っ込んだな!?」


 そう言って私とアイネを交互に睨みつけてくるマスター。



「……マスター?」


 ふと、ノエルが不思議そうにマスターの顔を見上げる。

 何だかバツが悪そうに視線を逸らすマスター。


 しばらくマスターの顔を見つめた後、ハッとしてノエルがその足元にしがみ付く!


「マスター! やっとあえた!! マスター、ノエルだよ!! ノエルの事忘れちゃった!?」


 目に涙を浮かべて必死にマスターの体を揺するノエル。


「忘れてねぇよ。……ごめんな、ホントはホテルで会ったときに気付いてはいたんだが……。お前の方は忘れてるみたいだったから、それならいっそその方がお前の為かと思ったてな。悪かった。」


 そう言ってノエルの頭をポンと撫でるマスター。


 ――え、ちょっと待って!?

 ノエルの記憶にあったマスターって、うちのマスターのこと!?


 でも、あの記憶って50年以上も前の物のはずだけど……





「あー!! もうさっきから何なんだよ!! 何俺の事無視してくれちゃってんの!?」


 怒号と共に短剣を横薙ぎで振り回すジニア。

 それを素手でかるくあしらうマスター。


「おー、悪い悪い、そんなに怒るなよ、お子様」


「はっ!? てか、さっきからなに人の事子供扱いしてんだよ!?」


 マスターの事を睨みつけてながら、そっと自身の背後に手を回すジニア。

 マスターからは死角で見えないけれど、ジニアが手に持っていた短剣をそれとなく背中に隠すと、マスターの背後の何も無い空間に突如として短剣が浮かび上がる。


 その短剣が音もなく高速で飛来し、マスターの背中を襲う!


「危な――」


 私が声を上げるよりも早く、短剣がマスターの背中に突き刺さる!


 けれど……


 カランカラン、と軽いおもちゃのような音を立てて短剣が地面に落ちる。


「子供扱いされて怒るのはまだまだ子供の証拠だぞー、少年。少年は少年らしく街に戻ってキッズ用の展示でも見学してきな」


 背中での出来事は気にも止めず、しっしと追い払うようにジニアを遇らうマスター。


 その振る舞いに完全に頭に血が上ったのか、黙って両手に短剣を構えるジニア。


 一瞬即発の状況で、先に斬りかかったのはマスターでもジニアでもなく、さっきの魔法でマナまで全回復したらしいアイネだった!


 ファントムの爪を構えて、全速でジニアに斬りかかる!


 ――が。


「――痛ぁい!」


 悲鳴を上げて急停止する。

 見ると、マスターに尻尾を掴まれたらしい。


「ち、ちょっと!? 尻尾掴まないでくださいっていつも言ってますよね!? 凄く痛いんですから!」


 振り向いて頬を膨らませプンプンに怒るアイネり


「アホか。お前そのまま突進してたら串刺しになってたぞ」


 そう言ってマスターが指差す先では……空中に短剣が浮遊していた。


「まぁつまるところ、手に持った短剣を自由な位置に出現させたり飛翔させたりする力ってとこだろ。ったく、せっかくつい今さっき俺に向けて実演してくれたんだからちゃんと見とけよ」


 あ、さっきの背後からの一撃、気づいてたのね。


「ついでに言うと、制限がいくつかありそうだな。例えば出現させれる位置。もし何でもありなら俺の心臓のど真ん中にでも出現させりゃ勝ち確定なのにやらない。てことは、何処にでも出せる訳じゃなさそうだか。さしずめ、何もない空間にしか出せないってとこか。それに、わざわざ迎撃される危険を犯してまで加速距離を取るってことは、ゼロ距離で出しても大した威力は出ないんだろな。お前らが着てる制服の防御力ならまず貫通はしないだろ」


 ペラペラと解説を始めるマスター。

 そらを聴いてジニアの顔がどんどん赤くなっていく。


「どうだ、お子様? 図星か?」


 勝ち誇ったような顔をで意地悪く言うと、空中に浮かんでいた短剣をチョップで叩き落とし、そのまま思いっきり踏みつける。

 短剣が真っ二つに折れる。



「あぁーー!! 何すんだよ! それ一本作るのにどんだけかかると思ってんだ!?」


「知るか。所詮土属性の魔法で作った魔剣が何かだろ? またママに買ってもらえ」


 圧倒的だ。

 まるで子供を叱る大人のように、圧倒的な経験の差。


 普段からたまに実験形式戦闘訓練に付き合ってはくれていたけれど、まさかうちのマスターがここまで強いとは思ってもみなかった……。



「もう怒った、ぶっ殺す!」


 唾と一緒に憎まれ口を吐き捨てると、短剣を構え突撃するジニア!


 素早いステップでマスターに斬りかかる――と見せかけて、短剣を瞬間移動させる!


 次はいったい何処から!?

 急いでマスターの周辺を見渡すけれど、見当たらない……



 ――しまった


 慌てて振り返ると、すぐ目の前にまで短剣が迫ってきていた!


 狙いは私!!

 マズイ、避けきれない……!!


 せめと、どうにか手でガードだけでもしようと構える!


 けれど、それよりも早く駆けつけたマスターが、飛来する短剣を訳もなく掴んで止める。


 ……瞬間移動に追いつくってどういう事なのよ。

 短剣よりもむしろ突然目の前に現れたマスターに驚いて思わず床にへたり込む。


「ったく、油断も隙もあったもんじゃねぇな。ま、勝ちに拘るその執念、悪くは無いと思うぜ」


 さっきまでの馬鹿にした様子ではなく、素直にジニアを褒めるマスター。

 そして、無造作に私の肩をポンと叩く。


 その瞬間、目眩でも起きたみたいに目の前の景色が一瞬暗転し、すぐ側に居たはずのマスターが一瞬にして遠くに移動する。


 続いてアイネに歩み寄ると、同じようにその肩をポンと叩く。


 すると、私のすぐ横でドサッと音がした。

 びっくりして振り返ると、さっきまで向こうにいたはずのアイネの姿が。


 ……そうか、私達が瞬間移動したんだ。

 後ろを見ると、私が開けた大穴の直ぐそばに移動している事が分かった。


 何? こらも輝石魔法だって訳?



「お前ら! ここは俺に任せてすぐに外へ出ろ!」


 離れた位置に居る私達に聞こえるように、マスターが声を張る。


「外に出たら直ぐに携行端末を確認するんだ! 状況が分かったら直ぐに駅に行ってウィステリア行きの臨時列車に乗れ! 詳細はセロシアさんにお願いしてある」


「ち、ちょっと待ってよ! 何のことよ!?」


 突然アレコレと指示されて、思わず聞き返す。



 そんな私の質問には答えず、たった一言だけはっきりと言い放ったマスターの言葉は、想像もしていなかった物だった。





 ――ウィステリアが敵軍の侵攻を受けている

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