k03-42 前世代の超兵器
突然の爆発で吹き飛ばされ、床を2,3度転がって壁に打ち付けられる。
アイネ達も同じく吹き飛ばされてたのか、皆散り散りな位置で横たわっている。
全身が痛むのを我慢して、爆発のあった部屋の中心部を見ると……鉄の塊!?
床に空いた大きな穴から鉄の塊が突き上がっている。
続いて、その直ぐ横からも同じ同じような鉄の塊がもう一つ現れる。
そして、立て続けに大きな音と地響きがして、床材をバラバラと崩しながら現れたのは……ライドアーマー!?
見上げる程の大きさの大型ライドアーマーが階下から現れた。
さっきのはこいつの両腕だった訳ね。
……それにしても、テイルの資料でも見た事のない型ね。
『やぁ。待たせたねぇ、貴重な実験サンプル達』
ライドアーマーからゲルニカの声が聞こえる。
『紹介しよう。このマシンはノエルを見つけた遺跡の近くから出土した前世紀の兵器でね。実は協会にも知られていない私の秘密兵器なんだよ。普通の方法じゃどうやっても動かないんで研究の対象からは外してたんだが……今日は記念すべき日だ! 前から温めておいたアイディアを試してみて正解だったよ! 見てくれこの完璧な操縦を』
そう言うと、中央にある球体が開く。
どうやらコクピットのようだ。
けれど、中に人の姿は無く、代わりに緑色のネバネバした液体がそこかしこに張り付いている。
そしてその中心部には辛うじて顔だけが残って
いるゲルニカの姿が。
うげ、何なのあれ!?
「どうかね!? 常人には真似できまい! スライムを媒介に私の精神を直接マシンへ浸透させる!! それによってこの複雑な制御系をコントロールし、さらには――」
相変わらず話が長いわねっ!
自慢げに講釈を垂れるゲルニカに気づかれないよう、静かに背後へと忍び寄るアイネ。
そして、残り少ないマナを振り絞り、ライドアーマーの脚部の関節部へ向けて爪の一撃を繰り出す!
決まった!
中々良い判断じゃない。
2足歩行型の兵器の場合、重量が集中する脚部がどうしてもウィークポイントになる。
可動域確保のため装甲の薄くなっている関節部を狙うのはセオリー通り!
片足でも破壊出来れば機動力は奪ったも同然!
攻撃を完全に決めると、大きく後ろへ飛び退くアイネ。
着地と同時にファントムの変身が完全に解ける。
マナを使い切ったようね。
「アイネ、ナイス! さぁ、今のうちに逃げるわよ!」
「――ダメ! シェンナ達早く逃げて!」
アイネが叫び終わるか否か、ライドアーマーがその腕を振り上げてアイネの直ぐそばの床を強打する!
その衝撃で大きく吹き飛ばされるアイネ。
「――ウソ!? 何で動けるの!?」
思わず口から出た私の疑問に答えるかのように、何事もなく立ち上がるライドアーマー。
その脚部には4本の爪痕がしっかりと付いてはいるが、破壊には至らなかったようだ。
『ふむ、凄い衝撃だったぞ。何発も食らっていたら流石に危なかったかもしれないが……対斬撃の耐久実験としては申し分ないだろう』
……信じられない。
いくらマナの量がギリギリとは言え、あのファントムの一撃よ!?
テイルの機器を使った威力値計測では、新型の装甲車の外装を最低でも3,4枚まとめてぶった斬る威力って出てたはずなのに……。
「シェンナ、下がってて」
そう言い残すと、ノエルが素早く駆け出す。
レイピアの翼を展開すると、ライドアーマーの周囲を駆け回りながら次々と光の剣を撃ち込んで行く!
次々と射出されては突き刺さり、光の破片となり砕け散っていくレイピア。
豪雨の如く絶え間のない突撃を受け、ライドアーマーの動きが一瞬止まる。
――けれど、目立ったダメージは入って無い様子。
ファントムの爪であのダメージだったんだから無理も無い……けど、動きを止めてくれるだけでも充分!
立ち上がり、ポケットから残しておいた炎の魔鉱石をありったけ取り出して構える!
最善なる魂
天の掟を下す者よ
正義に紅炎
潔白に灼光
聖なる不死者の名の下に
虚偽の悪魔を討ち滅ぼせ
「ノエル、離れて! ――滅罪の赤星 オーギュラス・フランム!!」
小さな魔鉱石を束ねて使うなんて無茶をしたもんだから、手に持った魔鉱石が激しく暴発し後ろに吹き飛ばされる!
けれど、魔法は無事に発動したみたい!
太陽の如く閃光を放つ火球が敵のど真ん中目掛けて勢いよく飛翔して行く!
ノエルとの肉弾戦に気を取られていたため、避けることも出来ず直撃を受けるライドアーマー!
咽せ返るような熱波と暴風が部屋中を包み込む!
あちち、いくら広いとはいえ、こんな密閉された室内で撃つ魔法じゃないわね。
けれど、これで完全破壊とはいかないまでもある程度のダメージは入ったはず!
舞い上がっていた粉塵が収まり巨大なライドアーマーの姿が見えてくる。
両手を体の前でクロスさせ、防御の構えを取っている。
直撃したであろう腕部は、塗装が少し焦げ黒い煙が細く立ち昇っている。
けれど――それ以外に目立った外傷は、無し。
『ふむ、素晴らしい! 対魔法防御力も申し分ない! あぁ、量産出来ない事と、私以外に操縦出来ない事が何とも悔やまれるわぃ』
そう言うと、無傷をアピールするかのように両手を大きく広げる。
そして、近くで横たわっていたアイネに手を伸ばし、その細い身体を鷲づかみにする。
「い、痛い! 離して!!」
アイネが激しくもがいてみせても、ライドアーマーはピクリともしない。
そのまま軽々とアイネの身体を持ち上げる。
「アイネをはなして!!」
駆け出したノエルが腕の付け根に向かって体力のレイピアを一斉に射出する!
一斉射撃を受けて、腕の動きが一瞬止まる。
けれど、空いている方の腕を素早く振るうとそのままノエルの身体も鷲掴みにしようとする!
咄嗟に避けたノエルだったけれど、すんでの所で片腕を掴まれそのまま宙吊りにされる。
「うぅぁあ……!」
ノエルの悲痛な声が室内に響き渡る。
それを無視してコクピットの前まで宙吊りのノエルを持ち上げると、ライドアーマーのカメラ越しにその姿を眺めゲルニカが言い放つ。
『ノエル、いい加減にしなさい。パパは忙しいんだ。これまではお前しか居なかったから少し甘やかせてきたが、これからお前は3番手だ。そうだな……お前なら頑丈だから少し手荒に扱うくらいで丁度いいだろう』
そう言うと、ノエルを掴んだ腕を大きく振り上げる。
そして――そのまま床に叩きつけるように投げ捨てた!
激しく叩きつけられ、ゴム毬のように床で大きくバウンドし吹き飛ぶノエル。
慌てて飛び込み、どうにか受け止めたけれどそのまま一緒に壁まで吹き飛ばされる!
壁に激しく頭と背中を打ち付け、そのまま私は意識を失った。