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k03-41 あなたも充分化け物よ

「アイネ、お待たせ!!」


「シェンナ! 遅い! 結構ギリギリだったよ!」


「ごめん! 後で何か奢るからさ」


「いいよ。……で、どうすれば良いの?」


 シェンナが懐から銃型の注射器を取り出す。

 シリンダーには白銀に輝く薬液が満たされている。


「抗ウィルス薬! ノエルの動き、一瞬でいいから止められる?」


「――任せて!」


 爪を構え直すと、キッと目を見開き一気に距離を詰めるアイネ!


 ノエルも負けじと、ストックしていた全てのレイピアを一斉に射出するが、本気を出したアイネには一切通用しなかった。


 飛来するレイピアを何なくかわし、または爪で粉々に粉砕しつつノエルの懐に飛び込む。

 そして、長い尻尾を一振りしてノエルの小さな体を締め上げる!


「シェンナ! 今のうちだよ!」


 アイネの合図を受けて素早くノエルの側に駆け寄るシェンナ。

 激しく暴れるノエルの動きに注意しつつ、一瞬の隙を突いて首元に注射針を打ち込みトリガーを引く!

 ピストンが押し出され、瞬時に薬液が注入される。


「――うぅ!」


 苦しそうに一瞬うめき声を漏らすけれど、直ぐに大人しくなるノエル。

 アイネの尻尾の中で暴れていたが、力なくダラリと全身の力が抜ける。


 尻尾の力を弱めてそっと床にノエルを寝かせるアイネ。

 カルミアも含め、3人揃ってノエルの顔を覗き込む。


「……ノエル? 起きて」


 シェンナが優しくノエルの肩を揺する。


 ……


 うっすらと目を開けて、寝ぼけ眼のでシェンナの顔を見るノエル。


「……シェンナ?」


「――うん!」


「シェンナ!! 助けに来てくれたの!?」


「そうだよ!」


 シェンナにグッと抱きつくノエル。

 シェンナもノエルの事を強く抱きしめて頭を撫でる。



「――信じられない。ど、どう言う事!?」


 目の前で起きた奇跡を信じられず唖然とするカルミア。


「どうもこうも、言った通り抗ウィルス薬ですよ。ノエルの体内にあるウィルスを無効化しました」


「そ、それは分かるけど。たった数分でどうやってゲルニカのウィルスを解読してって言うの!? 解読だけじゃない。抗ウィルス薬だってむしろ考えてる時間より薬の生成の時間の方が長かったし……」


「解読も何も机の上にあった資料、あれめちゃくちゃですよ! ゲルニカとかいう科学者、あれで本当に天才なんですか?」


 心底呆れたといった様子で頭を抱えるシェンナ。


「あんなの、最近になってまとめられた魔鉱学の基礎理論に独特な解釈を加えただけ! ちょっと考えればマナと魔法の相互作用について一切理解できてないのが手に取るように分かります! 魔鉱石の多層結晶構造も考慮されてないし、属性の不可逆性による魔法力場の相殺も計算されてない。正直――あんなもんに一晩もかかっといて天才だなんだのたまってるなんて……同じ魔鉱学を志す者として恥ずかしくて絶句したわ!」


 研究室から持ち出してきた図面を丸めてパンパンと叩きながら早口で捲し立てるシェンナ。


 そんな彼女の言葉を受け開いた口が塞がらなくなるカルミア。

 この子がペラペラと口走ったのは、研究所で何年も勉強を重ねてやっと理解の入り口に立てるような知識ばかり。

 到底10代そこそこの若者が理解出来るとは思えない。

 ……けれど、目の前でこうも完璧に抗ウィルス薬を開発されてしまっては認めざるおえない。


 ――そういえばこないだ言ってたわよね。

 いつも青髪の子に助けられてばっかりだって。


 確かにあの子の力は凄まじいわ。

 なんだか引け目を感じてたみたいだけど、とんでもない。



 ――形は違えど、あなたも充分“化け物”だわ。



 ―――



「ノエル、立てる?」


「うん、だいじょうぶ」


 手を取ってノエルを立ち上がらせる。

 足取りはしっかりしてる……目立った副作用も無いみたいだし、大丈夫そうね。


「今のうちにここから出よう! そろそろファンちゃんも限界」


「分かった! カルミアさん、一旦ここを離れます! その後の事は一旦落ち着いてから!」


「分かったわ! 案内する!」


 カルミアさんを先頭に、部屋からの唯一の出口である壁の穴を目指して走る。


 けれど、向こうもそう易々と逃してくれるつもりは無いらしく、駆けつけた警備員達に退路を塞がれてしまった。


「数が多いわね……詠唱の時間稼げそう?」


 アイネに耳打ちする。


「……ギリギリかな。基本的な体術だけならあと数分。これ以上増援が来るとまずいかも」


「仕方ないわね。一点突破で切り崩して一気に走り抜けるわよ」


 お互いに頷くと、アイネが前に出て格闘戦の構えを取る。

 その後ろで私も魔鉱石を取り出し詠唱の準備をする。


 ――その時


 背後から光る物がいくつも飛来して警備員達を襲う!


 悲鳴を上げてその場に倒れ込む警備員達。

 見ると、ナイフ程の小型の魔法剣が腕や足に突き刺さっている。


 慌てて振り返ると、ノエルが両手を前に構えて立っていた。

 その背後にでは光の短剣が無数に浮かび上がり小さな翼を模っている。


「ノ、ノエル! その力は!?」


 驚いてノエルに問いかけるカルミアさん。


「ママやシェンナ、アイネに悪いことするならノエルがゆるさない!」


 そう言って構え直すと、背後を漂っていた短剣が一斉に突撃の構えを取る。


「ひ、ひぃ〜」


 それを見て、走るなり這いつくばるなりして一斉に逃げ出す研究員達。

 職務怠慢もいいところね。

 まぁ、どう考えても太刀打ちなんか出来ないでしょうから賢い判断だけど。

 ……それにしても良かった。動けない程の怪我はしてないみたいね。


「ありがとうノエル」


 ノエルの頭をポンポンと撫でる。

 嬉しそうにほんの少し微笑むと、宙を待っていた短剣たちが光の粒になって霧散する。


「さあ、急ぎましょ!」


 再び壁の穴に向かって走り出す。




 その瞬間、突然足元の床が砕け飛び、私の体は宙を舞った――

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