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k03-37 夜王降臨

「うわぁーシェンナ、輝石魔法の威力また上がった?」


 物陰に隠れていたアイネが顔を出す。


「まぁね。魔鉱石の品質さえ高ければもっと威力出るんだけど。実験に使われてるような魔鉱石じゃ補助魔法陣増し増しでもこれくらいの威力が限度ね」


「どこから魔鉱石持ってきたのかと思ったら……」


 呆れ顔のアイネ。

 今回は戦闘の準備なんかしてこなかったから、必要なものは現地調達するしかない。


 幸いここは研究施設。

 実験用に用意されていた魔鉱石をいくつか拝借できた。

 普通に犯罪だけど……まぁ今回の場合お互い様(?)ってことで大目に見てよね。



 ただ、魔兵器に使われるような純度の高い物に比べるとどうしても輝石魔法の威力はイマイチみたいね。




 巻き上がった粉塵がようやく収まってくると、床に横たわっていたノエルとカルミアさんが起き上がる所だった。


「カルミアさん、大丈夫ですか!」


 アイネがカルミアさんに駆け寄って抱き起こす。



 ……よかった。

 怪我は無いみたい。

 自分でやっといて何だけど、ぶっつけ本番一か八かだったから少し心配だった。




「――貴様らは昨日の!?」


 怒鳴り声の方を見ると、ゲルニカとかいう研究者がこっちを指差してワナワナと震えている。


 別室からモニター越しに見させてもらったけど、つまるところこいつが諸悪の原因ね。



「……あら、その節はどうも。アイネに蹴られて再起不能になってたらどうしようかと思ったけど、元気そうでなによりだわ」



 皮肉混じりに挨拶をしてやる。

 昨日の一撃を思い出したのか、一瞬青ざめた顔を見せるゲルニカ。

 一瞬ブルブルと身震いをし、私を指差したまま再び大声を上げる。


「なぜ貴様らがここに居る!? しかも、な、何だ今の爆発は!? 貴様の仕業か!?」


「……質問は一度に1つだけって学校で習わなかった? まぁ、親切に答えてあげるつもりも無いけど。とりあえずこっちの要求だけ伝えるわ――ノエルとカルミアさんを解放しなさい」


「はぁ!? 何を言い出すかと思えば。貴様に何の権限があって私に命令しているのかね!?」


 確かに。

 我ながら無茶な要求だとは思ってる。


「……そうくると思って一応調べておいたわよ。旧世代遺産取扱に関する国際条約、第1条12項。旧世代技術を用いての兵器開発、及び関連する研究は特別な許可を得た場合を除きこれを禁ずる。こうやってコソコソとやってる以上許可なんて取ってないでしょ!?」


 ちなみに、私の輝石魔法もモロにアウトなんだけど、なんでかあのマスター、許可持ってるらしいのよね。

 まぁ今はそんな話をしてる場合じゃない。



「……仮にそうだとして、貴様に何の関係がある!?」


 やや冷静さを取り戻し、落ち着いた様子でゲルニカが私を睨みつける。


 これも向こうの言い分が正しい。



「……そこなのよね。私達警察でもないし」


「そ、そうだ! 貴様らのやってる事は不法侵入に器物破損、それに名誉毀損だ! 訴えてやるぞ!!」


 至極真っ当な意見だ。

 御託を並べたところで、こっちのやっている事が正当化される訳じゃない。


「まぁ、そこは認めるわ。犯罪行為はお互い様」


 非を認めた私を見て、得意げに顎をしゃくらせるゲルニカ。


「ならば即刻この場から消えろ! 私は忙しいのだ。直ぐに消えればこれ以上追求はしないでおいて――」


「――だからこれは正義とか法律とかそう言う話じゃない――単なる私情よ!」


 ゲルニカの話を遮って、今度は私が声を上げる。


 ここに来る道中考えてみたけれど、部外者の私がここまで首を突っ込む理由は、個人的な感情以外に無い。


 我ながら何やってんだとは思うけれど、それでも昨日、今日と一緒に過ごした中で見せてくれたノエルの笑顔が忘れられない。


 あの笑顔がもう一度見たい、それだけの理由で私は今ここに立っている。



 あー。こういうのはいつもアイネの役だったんだけどなぁ。

 まぁ、いいわよね。

 たまには私の我儘にも付き合ってよ。



 アイネの方を見ると、私の気持ちを察してくれたのか、少しだけ笑みを湛えた表情で大きく頷く。


 そして両手を大きく広げ――




「切り裂いて、ファントム!」


 アイネの命を受け、この照明で眩しく照らされた実験場で存在するはずの無い漆黒の影が、何処からともなく現れる。


 その影はアイネの足元で渦巻くと、やがて床から浮かび上がり主人を包み込むように渦巻く。


 立ち込める闇のオーラを身にまとい、右手を一振りすると即座に漆黒の爪が形取られる。


 髪と瞳は闇の中で鮮やかな白金に輝き真っ直ぐに敵を見つめる。


 お尻から伸びた尻尾を一振りすると、纏っていた闇のオーラが霧散する。


 ――夜王の降臨だ。



 同時に、実験場の中にけたたましい警報音が鳴り響く。



「――!? な、何事だ!?」


 突然の出来事に呆気に取られていたゲルニカがスピーカーに向かって怒鳴り付ける。


『け、警告です! 異常な量のマナを感知しました! 攻撃に転じた場合の推定威力値がとんでもない事になっています!!』


 スピーカーから、慌てふためく研究員達の声が聞こえてくる。


「と、とんでもないとは何だ!? 具体的な数値で説明せんかっ!!」


 苛立って再び怒鳴るゲルニカ。


『……推定威力値出ました!! よ、42万!!』



「42万!?」


 思わず数値を復唱した声が、おもおっきり裏返える。


「ま、間違えじゃないだろうな!? ノエルのレイピアでさえ5万そこそこだぞ!?」


 今にも発作でも起こすんじゃないかと思う程、全身をワナワナと震わせてアイネを見つめるゲルニカ。


『……間違いありません! 何度測定しても誤差プラスマイナス2万以内です!!』



 そう報告を受けると、がっくりと肩を落とし俯いたまま動かなくなる。


 ……あまりの力の差に観念したのかしら?


 それとも、何年もかけた自分の研究をあっさりと越える存在に出くわして絶望した?



 どっちにせよ戦わなくて済むならそれに越した事は無いわ。

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