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k03-33 うそつき

 会場を出ると、時刻はもうお昼近くになっていた。


 昼食を何にしようか話し合っていると、私の携行端末が着信を告げる。


 ……知らない番号からだ。



「はい」

 不審に思いながらも出てみる。


『よかった、繋がった。カルミアよ』


「あ、カルミアさん! よく私の番号分かりましたね!?」


 それを聞いて、アイネとノエルがこっちを見る。

 頷いて返し、そのまま通話を続ける。


『えぇ、セロシアに聞いて。仕事も片付いたからノエルの事迎えに行こうと思うんだけど、今どの辺りかしら?』


「えっと、飛空艇の展示会時のすぐ側なんですけど……」


『そう……それじゃ、申し訳ないんだけどモノレールのC8ラボラトリーエリア駅で落ち合えないかしら?』


「C8ですね、わかりました。……あの、そこで待ち合わせでもいいんですけど、丁度今からお昼ご飯食べようかって話してて、良かったら一緒にお昼食べせんか? ノエルもお腹空いてるみたいですし」


 今日でお別と分かっていたとは言え、いよいよかと思うと急に寂しくなってくる。

 せめて最後にお昼くらいは一緒に……と悪あがきしてみる。



『……ごめんなさい、急ぎの用事があってそうも行かないの。何から何まで助けてもらったのに、本当にごめんなさい』


 重ね重ね謝るカルミアさん。

 その口調が思いのほか重たくて少し焦る。


「い、いえ! 気にしないでください! お忙しいですし、そんな場合じゃないですよね!」


 そうだった。

 カルミアさんは違法な研究を告発するために街を出るって言ってたんだった。

 呑気にお昼なんか食べてる場合じゃないわよね。



『それじゃ……30分後に、駅を出た所で待ってるわ』


「分かりました。それじゃ後ほど」


 私の返事を聞くか聞かないか、慌ただしく通話が切れる。




「カルミアさん、だよね?」


 アイネが私の顔を覗き込んできた。


「うん。30分後にC8ラボラトリーエリアの駅で待ち合わせだって」


 そうとだけ返すと、そのまま端末の画面に目を落とす。

 ノエルの顔を見ちゃうと何だか泣いてしまいそうな気がして。


 慌てるふりをしながら、モノレールの路線図と地図を確認する。


「えーと、C8、C8、どこかなー」


 不意に呟いた声が、少し震えてて自分でもびっくりした。



 ――なによ私。

 子供あんまり好きじゃないとか言いながら、たった1日でめちゃくちゃ情が移ってんじゃない!




 不意に、服の裾がぎゅっと引っ張られ思わず見降ろす。


 無表情なこの子なりに、精一杯寂しそうな顔で私を見上げるノエル。


 込み上げてくる涙をグッと堪えて、笑顔を作る。

 ノエルが泣いてないのに私が泣ける訳ないでしょ!


「ママお仕事終わったって! よかったね、やっとママに会えるよ」


 精一杯の作り笑いが見透かされたのか、ノエルが寂しそうな顔のままもう一度服の裾を強く引くっぱる。


「シェンナとアイネも一緒だよね? あしたのあしたも一緒だよね?」



 ……覚えてたか。


 何であんな嘘ついたんだろう。



 そりゃ私だって今日も明日も一緒に居たいよ。

 けどそういう訳にもいかないでしょ。


 ……カルミアさんも忙しいだろうし、なんとなく……もう会えないような気がする。




 答えあぐねていると、察しがついたのか私から手を離すノエル。



 俯いたまま、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で



「……シェンナのうそつき」



 とだけ呟くとアイネの側に行ってしまった。


 ……今までについた小さな嘘の中で、1番後悔したかもしれない。



 そんな私とノエルを交互に見て、やれやれと言った様子で、アイネが少し大袈裟に元気な声を上げる。


「さ! 2人とも、行くよ! 約束に遅れちゃう!」


 そう言って歩き出すアイネ。

 黙ってそれについていくノエル。






 ―――――



 15分程モノレールに揺られ、目的の駅に到着する。


 駅で降りたのは私達3人だけだった。


 売店も、自販機すらない簡素な駅。

 駅の目の前からすぐに研究施設が立ち並び、人の気配は全く無い。

 昨日迷い込んだエリアとよく似た様子だ。


 もしかしたら、これがバンブー・カラムの本来の街並みで、私達が滞在してる居住区画はあくまでもお客様用の玄関に過ぎないのかもしれない。



 駅の階段を降りると、壁に寄り掛かって待つカルミアさんの姿がすぐに見えた。



「ごめんなさい、こんな所まで来て貰って」


「いえ、お仕事無事に終わったみたいで良かったです」


 私達から離れて、黙ってカルミアさんの元に歩いて行くノエル。


「ノエル、お姉ちゃん達と一緒で楽しかった?」


 俯いたまま小さく頷く。

 その様子に、カルミアさんが少し不思議そうに首を傾げる。


 そんな様子をみてアイネがそっと耳打ちする。


「2人とも離れたくないもんだから、最後ちょっとケンカしちゃったんです」


 小さな子供でも見るように仕方ないなという顔で私を見るアイネ。


 それを聞いて一瞬驚いた顔を見せた後、少し悲しそうにノエルを見るカルミアさん。



 黙っていたノエルが珍しく少し大きな声を上げる。


「ねぇママ。つぎはいつシェンナにあえる?」



 必死き問いかけるノエルを見て、カルミアさんが少し悩んだ後しゃがみ込んで言い聞かせる。


「そうね、…… 暫くはまた研究所から出られないから、ちょっと先になっちゃうかな」


「……またシェンナにあいたい」


「えぇ。ママもまた会いたいわ」


 そう言って立ち上がると、私達に向き直る。


「本当にありがとう。気を付けて帰ってね」


「……はい。カルミアさんこそ、この辺りあんまり人気なさそうですけど大丈夫ですか?」


「えぇ、大丈夫よ。それじゃ」



 そう言って街の中に歩いて行く2人。




「……私達も行こうかアイネ」


「そうね」


「その前にトイレ!」


「あ、私も」



 去り際に、ノエルがこっちを振り向いたのが横目に見えたけれど、気付かないふりをしてその場を後にする。

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