k03-27 破壊せよ
「へへ、俺は女の子の柔らかい肉に刃物がスーッと入って行く感覚が堪らなく好きでね。その瞬間響き渡る可愛らしい絶叫……はぁたまんねぇ。頼むからいい声で鳴いてくれよ?」
傷の男が笑みを浮かべたまま少女の正面に立つ。
「恐くて声も出ないか? 安心しろぉ、お兄さんは慣れてるからさぁ。直ぐに失血死させちゃうようなヘマは……」
微動だにしない少女を前に興奮収まらないといった様子で、冷たいナイフの刃をそっと少女の頬にあてがいながらニタニタと講釈を垂れ続ける男。
……が、次の瞬間その手からナイフが零れ落ちる。
床に落ちたナイフの甲高い金属音だけが無音の室内にこだまする。
「な……!?」
その様子を見ていた他の2人が、驚いて口を開ける。
一瞬の出来事。
音も無く、何が起きたのかも分からなかった。
ただ気づけば、少女の細い腕が男の腹部を貫通し背中から飛び出している。
「……ぐ、ぐは」
傷の男が血を吐き膝から崩れ落ちる。
けれども、腹部を貫通した少女の腕が支えとなって倒れ込む事も出来ない。
全体重を小さな少女に預け、だらんとぶら下がるように全身の力が抜ける。
少女は表情一つ変えず、まるで服についた埃払うかのように腕を払い、男の体を床へ投げ捨てる。
腹から腕が抜ける際に飛び散ったおびただしい返り血が少女の服を真っ赤に染める。
細身の男が大柄の男に向かって静かに口を開ける。
「……先に謝っておく。これは精神実験だとか知った口をきいたが、やはり兵器の性能テストで間違いない」
そう、最初に言われた通りこれは兵器のテストだ。
ただ、"兵器"は自分達に貸与されたこの武器たちの事ではない。
目の前に居る少女こそが"兵器"で、自分達はその性能を試すための"的"だ。
「イカレてるのに違いはないがな!」
――先手必勝!
間合いまで一気に駆け寄ると、手に持った散弾銃を少女に向け乱発する。
放たれた散弾は正確に彼女を捉えるが、その身体に命中するなりひしゃげて地面にパラパラと落ちる。
――何!? ダミー弾!?
一瞬そう思ったが、彼女から逸れてた弾は固い床にめり込んでいる。
弾は本物……この少女が恐ろしく頑丈なのだ。
「う、嘘だろ」
手に持っていた散弾銃を投げ捨て、傷の男が床に捨てた魔兵器を拾い上げる。
使い方は良く分からないが、ついているスイッチを手当たり次第に触ると、兵器が光を放ちだした。
「よし、いけるか!? 消し飛べ!!」
少女に向けて魔兵器を放つ。
……が、放たれた光弾は少女を大きく外れて天井にぶち当たる。
な、何だ……?
そう思う間もなく、バランスを崩してそのまま床に倒れ込む。
「――ぎゃぁぁぁ!」
魔兵器を投げ捨てその場でのたうち回る。
その片足は、腿から先が紛失しており真っ赤な血を噴き出していた。
見ると、千切れた足を片手で持って少女が男の方を見つめている。
持っていた足を投げ捨てると、のたうち回る男の元に無言で近寄る少女。
しゃがみ込み、男との頭を両手でガシッと掴む。
「な、なにを……ぐぎぎぎぎっ!!」
頭蓋骨がギシギシと音を立てて軋む。
目を大きく見開き苦悶の表情を浮かべる男。
次の瞬間――
固いクルミを割るような音が響き渡り、男の頭が水風船のように砕け散った。
飛び散る血と肉片で、少女の全身がさらに真っ赤に染まる。
――が、その瞬間
背後から何かの直撃を受け、少女は男の死体の上に倒れ込む。
大柄の男が大剣を少女の頭部に叩きつけたのだ。
衝撃で意識が混沌としているのか、よたよたとふらつきながらどうにか立ち上がろうとする少女。
しかし、間髪いれずに追加の一撃が振り降ろされる!
少女の物か男の死体の物か分からないが、骨が砕ける音が響き血と肉片が飛び散る。
「うおおおおおおおおおお」
怒声を放ち、力の限り大剣を繰り返し振り続ける大柄の男。
手にした大剣はもはや刃物としての用途はなく、肉と血の塊をただただ叩き潰す鈍器として使われていた。
何分程そうしていただろうか。
やがて、男は息を切らし剣を落とす。
膝を付きへたりこむ。
その前身は返り血と肉片で真っ赤に染まっている。
眼前には殆ど原型をとどめていない真っ赤な肉の塊が転がっていた。
「――いやぁ、見事見事。正直勝機があるとすれば魔兵器くらいかと思っていたが、まさか近接武器とは。これは中々興味深い結果だ。さすが腕利きの元軍人殿」
スピーカーから先ほどまでと同じ男性の声が聞こえてくる。
肩で息を切らしていた男が、どうにか落ち着き言葉を返す。
「目標は完全に破壊した! 戦果としてはこれ以上無いだろ!? 刑期は帳消しで良いよな!?」
「……おや? 確かに戦果によっては刑期帳消しと言ったが……標的が1体だけとは言ってはないぞ?」
部屋の壁が開き現れたのは、たった今肉の塊となり果てた少女と全く同じ見た目の少女。
それが3人。
「ん~、キミが壊したその個体。見た目は私好みで、残忍性も中々に良かったのだが……まさか近接攻撃による直接ダメージに難ありとは。他の個体はそのような事は無いはずだから。引き続きよろしく頼むよ」
3方向から少女が男に迫る。
「く、クソがぁぁぁ」