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k01-10 紅いオーク

「いいぞー! もうちょっとだ! そこ、反撃気を付けて!」

「援護するよ! こっち追い込んで!」


 子供達が数匹のゴブリンを相手に実践演習をしている。

 ゴブリンは貧弱な種ではあるが、そのすばしっこさは中々の物。

 体力自慢の子供達も中々仕留めきれずに苦戦している。

 仲間同士の連携を図るのには丁度良い相手で、演習は中々に白熱している。


 そこに大声で叫びながらアイネが駆け寄ってきた。


「みんな!! 危ないからすぐに離れて!!」


 とっさのことに驚き、攻撃の手を止める子供達。

 その隙にゴブリンの反撃を受け、一人の生徒が尻餅をつく。


「痛っ!」


「大丈夫ですか!?」

 教員が慌てて抱き起し、手にした魔兵器をゴブリンに打ち込む。


 ショットガンから放たれた小さな火球は扇状に飛散し、そのうち数発がゴブリンを直撃。

 衝撃で吹き飛んだゴブリンはピクリとも動かず、そのまま光の粒子となって霧散して消えた。

 その様子を見た他のゴブリンは一目散に逃げていった。


「――ヴァン家の!! いったい何のつもりですか!? 演習中に乱入するなんて! 子供達が怪我でもしたらどう責任を取るつもりですか!?」

 教員が目を血走らせてアイネに詰め寄る。


「ご、ごめんなさい! でも聞いてください! あそこの岩陰にクレムゾンオークが!!」


「何を訳の分からない事を! こんな街の近くにそんなマモノが居る訳が――」


 教員がアイネの目の前まで詰め寄ったその時――


「うおぉぉーー!」

 アイネが指さした大岩の影から人影が飛び出す。

 何かに吹っ飛ばされたらしいジンの姿だった。

 そのままの勢いでゴロゴロと草原を転がり、近くにあった木にぶつかり止まる。


「いててて……くっそ、バカ力だな」


 子供達がその姿を不安げに見つめる。


「ま、マスター! 大丈夫ですか!?」

 声を上げるアイネ。


「大丈夫だ! それより、避難急げ!」

 そう叫ぶジン。そんな彼を追い、大岩の陰から異形の姿をしたオークが現れる。

 その禍々しい姿から一見して並みのマモノではない事が分かる!


「く、クレムゾンオークだ!!」

「捕まったら生きたまま食べられるぞ!」

「うそ!! 恐いーー!」

「キャーー!!」


 その姿を見てパニックになる子供達。

 その場で泣き出す子、茫然と立ち尽くす子、中には一目散に逃げ出す子も居る。

 その様子に気づいたクレムゾンオークが子供達の方へと向き直り、涎を垂らしながら大きく息を吸い特大の雄叫びを上げる。


 クレムゾンオークの得意技"豊穣の賛美"

 雄叫びの響く範囲に居る、自分より弱い獲物をふるい上がらせ動けなくする効果がある。


 その衝撃に当てられ、足がすくんで動けなくなるアイネ。

 子供達は恐怖のあまり涙を流しその場にへたり込んでしまう。


 その様子を見て下劣な笑いを浮かべながら子供達の方へ歩み寄るクレムゾンオーク。

 一番近くに居た女の子に狙いを定めたらしく、口から垂れる涎を一度舌で舐め上げ、息を荒くして駆け寄って行く。

 見ると、先ほどアイネに声を掛けてきた女の子だった。


「ダメ! 逃げて……!!」

 どうにか声を絞り出すアイネ。まだ足がすくんだまま動けない。


 狙われた女の子は、へたり込んで歯をガチガチ鳴らしながら目の前に迫る異形のマモノをただ茫然と見つめている。


 クレムゾンオークが女の子に手をかけようとした瞬間――


「隙ありぃ!!」

 奇声を放ち、背後からオークの尻に向かって大振りの木の枝を突き刺したのはジンだった!

 鎧で守られていない臀部へ正確無比な強襲を受け、その尻穴に深々と木の棒が突き刺さる。


「グォォオォオオォオーーーーーー!!」

 オークが雄叫びとも悲鳴とも取れる絶叫を轟かせる。

 尻から木の棒を抜き去ると、それを殴り捨て凄まじい形相でジンを追いかける。


「うぉぉぉーー!!」

 その勢いに気圧され全速力で逃げ出すジン。

 作戦通り? なのかは分からないが、学園とは反対側に向かって走り去っていく。



「みんな、立って! 今のうちに逃げるの!」

 どうにか動けるようになったアイネが、オークに襲われそうになっていた女の子に駆け寄り手を引っ張って立ち上がらせる。

 我に返った女の子は、大声で泣き出しアイネにしがみ付く。


「ごめんね! 恐かったよね。よく頑張ったよ! さ、今のうちに逃げよう! みんなも、立てる子は周りの子に手を貸してあげて!」

 そう言って、女の子の手を引きながら、まだ立てないでいる子供達を順番に立ち上がらせて周る。


「あなたも、手伝って下さい!」

 そう言って、子供達と一緒になって腰を抜かしていた教員を立ち上がらせる。

 しかし、額から大汗を流し目を見開いたままその手を振りほどく。


「は、離せ! 怒り狂ったクレムゾンオークだぞ! あのマスターなど直ぐにミンチにして戻ってくるわ! どけ!!」

 そう言って子供達を見捨て、我先にと街の方へ走り去って行く。


「さ、最低!!」

 今更追いかけても余計に時間がかかる。

 徐々に動けるようになってきた子供達と、手分けしてどうにか全員を立ち上がらせる。

 まだ泣きじゃくっている子も居る。


「……みんな私の話を聞いて! マスターが時間を稼いでるから今なら安全だからね。みんな、かけっこは得意かな? 街まで私と競争だよ! ついてきて、ほら!」


 そう言って、さっきの女の子の手を引いたまま街の方に向かって走り出す。


 走りながら、他の子供達がちゃんとついてきているか確認する。

 みんな涙で目を腫らし、鼻水で咽ながらも一生懸命について来る。

 励まし合いながら、中にはまだ泣き止まない子の手を引っ張って走っている子も居る。良い子達だ。

 元々何人居たか分からないけど、多分殆どは居ると思う。とにかくこの子たちだけでも逃がさないと。


 子供達のペースに合わせ、駆け足程の速さだけれどどうにか街の入り口が見える辺りまで逃げてこれた。

 マスターが頑張ってくれているのか、クレムゾンオークの姿は無い。


 足を止め、子供達を振り返る。

「ここから街の入り口見えるよね? 後はみんなで走って、誰か大人の人に知らせて。私はマスターを手伝ってくるから」


「わ、分かった! みんな、行こう!」

 わんぱくそうな男の子が皆を連れて走っていく。


「ほら、走れるよね? みんなと一緒に行って」

 繋いでいた女の子の手を離そう……とするが、キョロキョロと周りを見渡して、強く握ったまま手を離してくれない。


「どうしたの?」

「……グリムくんが居ない」

「え?」

「グリムくん……スライムの時に一緒にいた」


 スライム退治の時に居たあの元気な男の子……。

 そう言えば居ない……しまった、夢中で気づかなかった!


「わ、わかった! 私が探してくるから。あなたは皆と一緒に街に戻ってて。グリムくん元気だからもしかしたら真っ先に街まで走っていったかもね!」


 そう言ってしゃがみ込んで、笑顔で女の子の顔を覗き込む。


「う、うん。分かった」

 どうにか安心してくれたようだ。そっと手を離してくれた。


「さ、行って!」

「うん」

 そう言って一歩走り出したが、直ぐに振り向いた。


「どうしたの?」


「……あの、ヴァン家の…」


 そこまで言って口を閉じる。


「ん?」


 優しく見つめるアイネ。

 その顔を見て下を向く女の子。


 少し黙って……再び顔を上げ今度は笑顔で――


「――アイネお姉ちゃん! ありがとう! 気をつけてね!!」

 そう言うと振り返って街の方に走っていく。


「……うん! 頑張ってくる!」

 思わず零れそうになる笑顔を我慢しながら、それでも少し嬉しそうに、アイネは大岩の方へ向かい走り出す。

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