k03-24 地下の研究施設
ハシゴを降り切ると、少し広い空間に出る。
(あれ、ここどうなってるんだろ? ええっと……バンブー・カラム全体で考えると、1階の地面より下に来た訳だから、地下1階フロアの天井付近にいるはずなんだけど)
そんな事を考えながら周辺の様子を伺っていると、小さな窓があるのを見つけた。
そこから外を覗くと……
眼下に街並みが広がっている。
(今見えてるのは、地下1階の建物か……。あ、そうか! ここって地下1階にある柱の中なんだ)
どうやら、先ほどの建物は地下1階と地上1階を繋ぐ柱の真上に建っていたようで、今はその支柱の内側に居るようだ。
窓から離れて再び周りを見渡すと、真新しいドアが1つあった。
重そうな金属製の自動ドアの横にはボタンの付いたパネルが。
見るからにエレベーターだろう。
少し様子を見てみたけれど、待っていても埒が明かなそうなので試しにボタンを押してみる。
ボタンが光る。
電力はちゃんと来ていて、エレベーターも生きているようだ。
(わ!? 本当に動いちゃった……ど、どうしよう)
ドアの上にあるランプが次々にと点灯し、エレベーターが上がってきている事が分かる。
(ここまできたら行くしかないよね!?)
『はぁ……。我が主は本当に行動力があるというか大胆というか……。潜入という事ならば我よりもミラージュ殿の方が適役だろう。マナの残量には気を付けるのだぞ』
そう言い終わると、ファントムの力が開放され元の姿に戻る。
(分かった。ありがとうね、ファンちゃん)
ファントムにお礼を言うと、代わりにミラージュの力を開放するアイネ。
輝く光の粒が舞い、アイネを優しく包み込む。
その光は頭上で光のヴェールを模ると、そのまま順に半透明の光のドレスを模っていく。
瞑っていた目を開くと、少し蕩けたような瞳でアイネが呟く。
「微睡んで、ミラージュ」
その声を聞き届け光のドレスがユラユラと陽炎を纏い始めると、アイネの姿が溶けるように消えた。
丁度その時、エレベータが到着し扉が開く。
中には誰も乗っていないようだ。
(良かった……。さ、行こう)
中に乗り込むと、下降を示すボタンを押す。
エレベーターがゆっくりと下降していく。
―――
エレベーターは結構長い時間下降を続けている。
屋上に行った時に乗ったエレベーターと比べると随分ゆっくり降りているのもあるかもしれないけれど、もう数分は動き続けているはず。
子の様子だと、きっと地下1階は通り過ぎて、地下2階……最下層まで来てるはずだ。
やがて、エレベーターが静かに止まる。
辺りを警戒しながら慎重に降りる。
……古い研究施設のようだ。
左右に廊下が伸びているが、湾曲してその先までは見えない。
円形の建物……?
姿を消したまま慎重に進む。
廊下の片側……円の内側の方にはガラス窓がいくつもはめ込まれており、建物の中央が見下ろせるようになっている。
(……何だろう。何にもない大きな部屋……)
窓の向こうはただ真っ白で何もない広い空間になっている。
人どころか機材の1つも見当たらない。
そのまま廊下に沿って歩いて行くと、反対側……円の外周側にいくつもの部屋が並んでいるようだ。
何となく建物の全容が分かってくる。
この建物は中央の広い部屋を囲うように円形の廊下がグルっと1周あって、その外周に沿っていくつも部屋が並んでいるような造りになっているらしい。
廊下を歩きながら、順番に外周の部屋の中を窓から覗いていく。
沢山のモニターが並ぶ部屋。
見た事もない実験器具や、薬品の入った棚が並ぶ部屋。
病院の手術台みたいなベッドがいくつも並んでいる部屋。
不気味な機械音を立てる大きな筒状のタンクがギュウギュウに並べられている部屋。
どれも薄気味悪くて、ただの工場などではないことが一瞬で分かる。
そんな部屋を横目に歩いて行くと、突然前方の部屋のドアが空き中から数人の人が出てきた。
その時、近くの部屋から数人の人影出て来た。
(――! しまった!)
ミラージュの力を借りている時はファントムの力は使えない。
探知能力はどうしても下がってしまうので直前まで気付けなかった。
(大丈夫。この廊下広いし、隅っこで大人しくしてれば……)
音を立てないよう慎重に、素早く廊下の端に身を寄せる。
しゃがんで、息を殺してじっと気配を消す。
歩いて来るのは4,5人。
薄暗い廊下、だいぶ近くまで来てようやく顔が見えてくる。
白衣を着て、何やらニヤニヤと薄気味悪い笑を浮かべながら先頭を歩く初老の研究者。
その顔には見覚えがあった。
(……! あの人、最初にノエルちゃんとカルミアさんの事捕まえようとしてた人だ!)
彼を先頭に、数人の研究員が何やら話しながら歩いていく。
「――第18次テストの準備は?」
「はい。被検体の方も整っています。直ぐにでも」
「……オリジナルの方はまだ見つからんのか?」
「申し訳ありません。大通りに出た所で上手く撒かれてしまったそうで……。報告にあった少女達……ただのテイルの生徒にしては相当実戦慣れしているようで」
「言い訳など聞きたく無い!! 早急に見つけ出せ! 警備班はお前の担当だろ? ……いいか、明日の昼までに見つけられなければお前も“テスト“に協力して貰うからな」
初老の研究者から向けられる、人を人とも思っていないような冷たい視線を受け若手の研究員が思わず唾を呑む。
そんな会話をしながらアイネのすぐ横を通り過ぎて行く一行。
息を殺しながらそれをじっと見つめるアイネ。
(……? あれって!?)
そんな一行の中に、大人達に囲まれて歩いて行く小さな人影を見つけて驚く。
そこにはホテルに置いてきたはずのノエルの姿が。
(ど、どうなってるの!?)
廊下の灯りが暗くてその顔までは良く見えない。
今はファントムの力を借りる事も出来ないし、これ以上近づく事も出来ない。
焦る気持ちを抑えつつ、彼らの後を慎重に尾行する