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k03-23 夜王暗躍

 ――深夜


 メッセで賑わうバンブー・カラムの街もさすがに寝静まり返ったころ……


 シェンナとノエルが眠るベッドの脇に立つ人影があった。



 2人をじっと見つめ、やがて意を決したように静かに手を伸ばす。


 その手がシェンナの肩に触れる直前……

 ノエルが寝返りを打つ。


 慌てて手を引っ込める。


 再び2人の顔を見つめると、そのまま音も無く部屋を後にする。


 廊下の薄暗い灯りに照らし出されたその人影の正体は……制服姿のアイネだった。




(大丈夫……やっぱり独りで行こう)


 そう決めて、物音ひとつ聞こえてこない廊下を歩いて行く。


 そのままエレベーターを降りロビーへ。


 フロントに受付の人が2人居るだけで、他には誰も居ない。


 そのまま外へ出る。



 昼間の喧騒が嘘のように、人っ子一人おらず静まり返る街。


 遠くの研究施設から聞こえてくるんだろうか、何だか分からない低い機械音だけが時折響き渡る。



 辺りを見渡し、誰も居ない事を確認すると建物の間の狭い通路に身を隠す。

 念のために持ってきてあった隠密活動用のマントを羽織る。



(……昼間に感じたあの感覚、ハイドレンジアの時と同じ。誰かが私の事を呼んでる)


『主よ、逸る気持ちは分かるが単独行動は危険ではないか? シェンナ殿も起こしてくるべきでは?』


(うん……でもやっぱりノエルちゃんを独りには出来ないし。ちょっと様子を見に行くだけだから、私だけでも大丈夫だよ。ファンちゃんとミラージュも一緒に居てくれるし)


『……承知した。あくまでも慎重に行こう』



 物陰に隠れファントムの力を開放する。


 夜の闇に溶け込むような黒い影を纏うと……建物の陰から陰へと飛び回りながら夜の街を行く。



 ―――



 低い建物の屋根を次から次へと飛び移り、あっという間に昼間迷子になった廃施設エリアまでたどり着く。


 手ごろな建物の上で立ち止まると、猫のように四足を着いて姿勢を落とす。

 神経を張り巡らせ周囲の様子を探る。


(……大丈夫。人気は無いみたいね。それにしても……やっぱり気のせいじゃなかった。この不思議な感覚……)


 ファントムやミラージュの時のようにはっきりと語り掛けてくる訳ではない。

 弱々しくてぼんやりしていて……何となくの場所しか分からないけれど、明らかに"何か"が居る。


 少しでも感覚が強くなる方向を探して建物の間を慎重に進む。


 暫く行くと……ある建物の前で立ち止まる。


(……ここだ)


 周辺の施設と同様壁はボロボロにヒビ割れ外壁も黒ずんだ、廃墟のような建物。


 しかし、良く見ると入り口のシャッターはまだ新しく脇にあるパネルにも電気が通っている事が分かる。

 間違いなく今でも使われている施設だ。



(さて……何処から入ろうかな……)


 建物を一通り見渡すと、2階に鉄格子の付いた窓があるのが分かる。



 人が居ない事をもう一度確認し、窓までジャンプ。


 鉄格子の間から中の様子を伺う。

 暗くて良く見えないが、特に監視装置などは無いみたいだ。……たぶん。



 漆黒の爪を構え、音も無く鉄格子ごと窓を切り裂く。


(うわぁ……これ完全に犯罪だよねぇ。ごめんなさい)


 そう心の中で謝りながら、静かに施設の中へ入って行く。



 ―――



 施設の中は照明も無く真っ暗。


 窓から月明かりの代わりの薄白い照明の光だけが微かに差し込む。


 ファントムの力を借りて目を凝らす。

 一瞬にして暗闇に目が慣れて、十分に動き回れる明るさに見て取れる。


(ほんとファンちゃんって凄いよねー。……暗い所でも良く見えるって事は、やっぱり猫なのかなぁ)


『我は犬でもなく猫でもなくマモノだ。そんな事よりしっかりと集中してくれ、主よ』



 ファントムに諭され改めて室内を見渡す。


 随分前に放棄されたのか、荒れ放題の様子で床に書類や器具が散らばっている。


 それらを踏まないように避けながら廊下へと出る。



 廊下の方は特に散らかっている訳でもなく、厚く埃を被った大きな機材が所々に置かれているだけだ。


(声は……下の方から聞こえてくるみたい)


 階段を見つけて1階に降りる。



 しばらく施設内を調べていると、資料室のような部屋にたどり着いた。


 室内には本やレポートが足の踏み場も無い程に散らかっている。



(どこもグチャグチャだねぇ。こんな所に本当に何かあるのかな……)


『……我が主はもう少し物事を疑って見るようにした方が良いな』


(? どういう事?)


『どの部屋も同じように散らかっているが……他の部屋に散らかる書類はどれも綺麗なままだった。それに比べ、この部屋の書類だけは何か所も踏みつけられた後がある』


 言われて注意深く見て見ると、そこら中の書類に踏みつけられた跡があり紙がクシャクシャになっている。


(気づかなかった。つまり、この部屋だけ人が出入りしている形跡がある?)


『その通りだ』


(凄ーい! ファンちゃん、名探偵みたいだね!)


『主よ、もっと緊張感を持って……まぁいい。そこの棚の下を見てみろ』



 部屋の隅にある棚を見てみると、その周辺だけ不自然に何も落ちていない事に気づく。


『マモノの我が見ても明らかに怪しいのが分かるぞ。誰も来ぬと思っていい加減過ぎはせんか』


 ファントムが溜め息をつく。


(まぁまぁ。お陰で先に進めそうだよ。ん~と、ちょっと待ってね)


 そう言って棚を調べ始める。


 並べられた本を取り出してみたり、押して見たり。

 戸棚を開けてみたり押して見たり。


 けれども何も起こらない。



(ん~……)


 若干面倒くさくなってきて、思い切って棚を側面から押してみる。


 すると、びっくりする程スムーズに、音も無く棚が横にスライドされた。


(……なんか、もっと電動な感じでカッコいいの想像してたけど、思ったよりシンプルなんだね)


『良かったではないか。一瞬"爪で切り裂こうかな"という心の声が聞こえた時は流石に焦ったぞ』


(……)



 気を取り直して本棚の後ろを覗き込むと、そこにはわずかな空洞があった。

 そこから床下に向かってハシゴが降りている。


(ここって1階のはずだけど……という事はこの下は地下フロア?? 地下って事は……きっと携行端末は使えないかな)


 そう思いながら、ゆっくりと梯子を降りていく。

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