表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

134/179

k03-21 実験動物

「ちょっと道に迷って、研究所がいっぱい立ち並ぶエリアに迷い込んだんです。……そこで何かを追いかけてるQoKの職員さん達に会って」


 ……あ、そっちの話?


 何かを察したのか、さっきまでの楽しそうな顔とは打って変わって黙ってアイネの顔を見るセロシアさん。


「施設から実験動物が逃げ出したって。で、私見たんです。一瞬ですけど。……セロシアさん。バンブー・カラムではマモノを実験材料として扱っているんですか」


 真っすぐな目でセロシアさんを見つめるアイネ。

 その瞳は、怒っているような、悲しんでいるような……複雑な表情だ。


 暫くお互いに真剣な目で見つめ合う。

 やがて……根負けしたようにセロシアさんが口を開ける。


「……そうよ。ご存じの通りQoKでは対マモノ用の魔兵器を多く開発しているわ。その過程でどうしても実物テストは避けて通れないの。……毎日何十、何百匹っていうマモノが実験に使われているわ。オカルト雑誌とかでよく取り上げられる"世間に公表できない実験"っていうのはきっとこういうのが出所でしょうね」


「そう……なんですね」


「……ちなみに、バンブー・カラムで働いてる人なら誰でも知ってる事実よ」


「――!?」


 驚いてセロシアさんの顔を見るアイネ。


「うちの会社以外にも……例えば、マモノの毒を中和する血清を開発している会社では、当然元となる毒を抽出するためにマモノが必要だし。他にも、マモノが稀に残すドロップアイテムは貴重な実験材料。……皆知ってるけど誰もあえて口にはしない。あれと同じかしらね……私達が毎日食べている食用の肉も、何処かで誰かが家畜を処理して……殺して作った物よ。けれども、そんな事はいちいち考えずに今日も美味しくお肉を頂く。それらと同じような事だと私は思ってるわ。……軽蔑するかしら?」


「……いえ。もし軽蔑するなら、その魔兵器を使っている私達も同じです」


 そう言って俯くアイネ。「……ごめんなさい、何だか暗い話になっちゃったわね!」


「こ、こちらこそ!」



「じゃ、そろそろ戻りましょうか。ノエルちゃんも寝ちゃったみたいだし」


 そう言って2人がこっちを見る。

 私はノエルの頭をそっと撫でて見せる。



 セロシアさんがベンチから立ち上がろうとしたその時、アイネが何気なく話しかける。


「あの、ごめんなさい。もう1つだけ。……セロシアさん、ジュエルシステムの"天使"について何か知ってますか?」


「天使……? 天使って神話とかに出てくるやつ? え、なにそれ? 最新のオカルト話!?」


 セロシアさんが興味深そうに聞き返す。


「あ……いえ、やっぱり何でも無いです、忘れてください」


 そう言って笑うアイネ。


 オカルト好きのセロシアさんでも、例の"天使"については知らないのね。

 マスターも言ってた通り、こっちの方はよっぽどの機密情報……って訳か。



 ―――



 帰りはエレベーターも空いていて並ぶこともなく降りる事ができた。

 セロシアさんの家もホテルと一緒な方向だということで、4人一緒に歩いて帰る。


 人通りもだいぶ少なくなり、昼間の事もあって念のため周囲を警戒しながら歩く。

 ……けど、どうやら杞憂だったみたいで、何事も無くホテルに到着。


 明日の話を少しして、ホテルの前でセロシアさんと別れようとしたとき――


「あ! いけない、うっかりしてた!!」


 そう言ってフロントに走っていくセロシアさん。



 暫くフロントの従業員とやり取りをした後、トボトボと戻ってくる。


「ごめんなさい、ノエルちゃん預かって貰うんだから3人部屋に切り替えるようお願いしたんだけど……もう満室で空きがないって……」


「え、あの部屋3人で使っちゃ不味いですか?」


「え、それは私からホテルに言えば問題ないと思うけど……そういう訳にもいかないでしょ?」


「大丈夫ですよ。大きなソファーもあったし、そこでも十分寝れますから」


「そう……? ごめんなさい、アメニティー類は全部もう1人分用意させるから」


 そう言って再びフロントの人と何やら話しに行くセロシアさん。



 セロシアさんと別れて部屋に戻ると、直にルームサービスが来てタオルや歯ブラシをもう1人分補充してくれた。

 子供用の小さなパジャマまである。


「あ! そう言えばノエルちゃんの着替えどうしよう!?」


 アイネに言われて気づく。

 しまった。ノエルちゃん、仮にも逃走中なんだから今身に着けてる物以外何も持って無いんだった……。


「あ、大丈夫ですよ。セロシアさんよりランドリーサービスの料金も頂いています。明日の朝までに仕上げておきますので後ほどお洗濯物お渡しください」


 アメニティーを持ってきてくれた従業員がにっこりと笑う。


 さ、さすがセロシアさん。出来る女ね。

 そして、このホテルもさすが高級ホテルだけあってサービス揃ってるわね。

 この時間から出して明日の朝までに仕上げてくれるとか……。




「じゃ、ノエルちゃん先にお風呂入っちゃおうか? シェンナと一緒に入る?」


 アイネに言われて、キョトンと首を傾げるノエル。


「おふろ?」


「そうだよ。寝る前に体キレイキレイするでしょ? いつもはカルミアさんと一緒に入るのかな?」


「……いつもは……お水ジャーって」


「……シャワー派なのかな? ホテルのお風呂、大きなバスタブあるからせっかくだしシェンナと入っておいでよ! 天体観測で冷えちゃっただろうし」


 不思議そうな顔をしながらもコクコクと頷くノエルを残して、お風呂にお湯を張りに行くアイネ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=onランキング投稿にご協力ください(*'ω'*)
もし続きが気になる、応援してるぞ、と思って頂けましたらランキング投稿をお願いします。
下の"投稿"を1クリックして頂くだけで投稿完了です。何卒よろしくお願い致します('ω')
html>投稿
html>
(なろう勝手にランキング)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ