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k03-13 告発

 背中でそれとなく視界を遮り、彼女から患部が見えないようにする。


 キットの中から医療用の針と糸を取り出す。


「えっと……ノエルちゃんだっけ? ノエルちゃんはあっちでママの手握っててあげてくれるかな?」


 私の処置をじっと見ていた少女に声をかける。


「……うん」


 頷いて反対側へと回ると、座り込んで女性の手を握る。



 歳のわりには落ち着いてるわね。

 どこか不思議な雰囲気の子。


 普通この歳の子なら、母親が目の前で大怪我したらパニックになって泣きじゃくりそうなもんだけど。


 あの神秘的な髪と瞳の色が余計にそう感じさせるんだろうか……。


 フードを深く被っててアイネは気付かなかったかなかったみたいだけど……やっぱり変身してるときのアイネと同じ瞳よね。

 詳しく話を聞きたい所だけれど、まずは治療を終わらせよう。


 ガーゼをそっとめくって患部を確認すると薬液の色が変わっている。

 麻酔が効いた証拠ね。


 さて……集中していくわよ!

 授業で模擬人形を使って何度も練習したとは言えさすがに緊張するわね……。



 針をしっかり消毒して……患部に刺し、縫合を始める。


 幸い麻酔はしっかり効いているみたいで痛がる様子は無い。


 大丈夫、落ち着いてやればそんなに難しい措置じゃない。



 意識的に大きく呼吸をして、振るえそうになる手を落ち着け縫合を進める。



「……結構本格的な措置なのね」


 突然肩越しに声をかけられびっくりして思わず手元が狂いそうになる!

 振り向くと、私の背中越しに彼女自身が興味深そうに覗き込んでいた。


 ノエルちゃんも一緒になって見ている。



「ご、ごめんなさい! 見えると怖いかなと思って!」


「あら、気を使ってくれたの? 大丈夫よ、あなた優秀そうだもの。……あっちの子ならちょっと怖かったかもしれないけどね」


 そう言って、入り口の方に目線を送り意地悪く笑う。


 この短時間で何を感じ取ったのか分からないけれど……中々に人を見る目はありそうね。

 ――悪いけど、正直私も逆の立場だったらアイネに任せるくらいなら片手ででも自分でやるわ。



 手早く縫合を終わらせ、最後に癒合促進剤をしみ込ませたガーゼを当てて、包帯を巻く。


「中々の手際ね。本当に優秀な学生さんなんでしょうね」


「……一応、主席なので」


「やっぱり」


 棚に掛けておいた白衣を羽織を取って彼女に手渡す。


「でも、あの子も凄いんですよ。むしろ私よりも……。最近は助けて貰ってばっかり」


 アイネが居る入り口の方を見る。


「……詳しい事は分からないけど、誰にだって得意不得意があるわ。たまたま最近のあなたの状況ではあっちの子の得意分野が役に立つ事が多かっただけじゃないかしら? 現に私はあなたのおかげでこうして助かったんだし」


 彼女は優しく笑いながらそう言うと、患部を庇いながらゆっくりと白衣を羽織るのだった。



 ―――



「さてと……」


 そう言うとスカートに着いた埃を払いながらゆっくりと立ち上がる女性。

 傍らに居たノエルちゃんもそれを真似てパンパンと埃を払いながら立つ。


「世話になったわね。いずれ何かお礼が出来たらいいんだけど……」


「いいですよ、お礼なんて。それより……余計なお世話かもしれないですけど、これからどうするんですか?」


「……やる事をやったら街を出るわ。元々そのつもりで駅に向かってたんだけど、どうしても外せない仕事が出来て戻ってきたとこなの」



 会話に気づいたのか、アイネが入り口の方から戻ってくる。


「街を出るって言っても……メッセの警備でそこら中に警備兵もいるのにどうやって駅まで行くつもりですか?」


「……さっきのはバンブー・カラムの正規の警備兵じゃないわ。ある研究機関が独自に雇った私兵。本来武力行権は持ってないから、人目のある所にさえ出てしまえば、例え見つかって簡単に手は出して来ないわ」


 そう言ってフードの上から少女の頭を撫でる。

 落ち着いた口調だけれど、その瞳には明らかに焦りの色が。



「とは言え……」


 彼女が続ける。


「私だけならまだしも、この子を連れたままでもう一仕事終えるのは正直厳しいわね……」


「その仕事って、どんな物なんですか?」


「――ある研究機関で極秘裏に行われている違法な実験。その証拠を持ち出して研究を止めさせるの」



『バンブー・カラムでは秘密の研究所で非人道的な実験が今も継続されている』



 オカルト雑誌で読んだ記事を思い出す。


 まさか……とは思ってたけれど、これだけの巨大研究機関となればそれこそ外部に出せない研究なんてのも実際あるものなのね……。



 そんな事を考えていると、彼女が意を決したように私を見る。


「あの、助けて貰っておいて厚かましいお願いだってのは重々承知だけれど、その子……ノエルをセロシアの所に連れて行って貰えないかしら!?」


「え、え!? セロシアさんの所にですか!?」


「そう。やっぱりその子を連れたままで仕事を片付けるのは無理があって……かと言って直接預けに行く程の時間も無いの……。お願い! 明日には必ず迎えに行くから!」



 突然のお願いに戸惑いアイネの顔を見る。


 黙って頷くアイネ。

 まぁ当然あの子が断る訳ないわよね。



「……いいですよ。私達これでも傭兵なので。ボディーガードならお手の物です!」


 そう言って笑う。


「ありがとう……。このお礼は必ず」



「……ママ、何処か行っちゃうの?」


 それまで黙って事の経緯を聞いていたノエルちゃんが不安そうに顔を上げる。


「大丈夫。お仕事が終わったらすぐに迎えに行くから。お姉ちゃん達のいう事よく聞いて大人しく待ってて」


 そう言ってしゃがみ込むと優しく頭を撫でる。


「……わかった」


「いい子ね」


 再び立ち上がると、出口へと向かって歩いて行く彼女。


「――そう言えば、自己紹介がまだだったわね。私はカルミア。見ての通り研究員よ」


「私は、シェンナ。こっちはアイネ。ウィステリア・テイルの所属です」


 隣でアイネがペコリと頭を下げる。


「ウィステリア・テイル……どうりで優秀な訳ね。――それじゃ、よろしくお願いね、傭兵さんたち」


 そう言うと、彼女……カルミアさんはドアを開けて出ていった。

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