k03-12 さすが優等生
人気の無い倉庫を見つけ、ひとまず中に隠れる事に!
そう言えばハイドレンジアでもこんな展開だったわね……。
そんな事を考えながら、中へ入ると内側からドアに鍵を掛ける。
2人を倉庫の奥へと誘導する。
入り口の傍ではアイネが物陰に隠れてファントムの力で外の様子を伺う。
「……大丈夫みたい」
「ふぅ……よかった」
とりあえず撒けたみたいね。
一端落ち着いて息を整える。
「――大丈夫ですか?」
2人の様子を伺う。
白衣の女性は肩で息をしているが、少女の方は涼しい顔で息一つ切らしていない。
結構な距離を走ったと思うけど……さすが子供は元気ね。
「ハァハァ……あ、ありがとう。……ところで、助けて貰っておいて何だけど、あなた達何者なの? さっきの身のこなしといい……」
そう言う彼女は、改めて見てもセロシアさんにそっくりだ。
眼鏡を外してスーツに着替えれば見間違えてしまいそうなくらい。
「私達、テイルの生徒なんです」
「どうりで……ただの警備員じゃ歯が立たないわけね」
そう言うと壁に寄り掛かかる。
「ところで……私達に何か御用だったかしら?」
私を見つめる彼女の目には疑いの色が……。
まぁ、無理も無いわね。
最初にぶつかった場所からは随分離れてたし、私達が後を追ってたのは明白。
「……はいコレ、さっきぶつかったとき落としませんでしたか?」
そう言って、ウサギのキーホルダーを差し出す。
「そ、それは!」
慌てて私から受け取ろうとする。
けれど、それよりも早く傍らに居た少女が私の手から奪い取って大事そうに胸に抱きかかえる。
「あ、こら、ノエル! ちゃんとお礼を言って!」
女性に諭されて、私の顔を見つめる少女。
「あ、ありがとう」
表情を変えずそう一言だけ呟くと、そのまま女性の後ろに隠れてしまう。
「……ありがとう。とても大切な物だったの。助かったわ」
「いえ、それならなお更良かったです」
私達が敵じゃないと分かって安心したのか、女性は壁に寄り掛かったまま床に座り込む。
よく見ると、脇腹の所……白衣に血が滲んできているのが分かる。
「もしかして、怪我してるんじゃないですか!?」
「……さっき取り囲まれた時にちょっとね。大丈夫、大した事無いわ」
「見せてください!」
隠そうとする女性の腕をどけ、白衣をまくって確認する。
白衣の下に着たシャツの一部が真っ赤に染まっている。
血の量から見て結構な出血をしているが分かる。
これでよく走れたわね!?
「大変! すぐに病院へ!!」
「――待って! 病院はダメ。……どうしても直ぐに片づけないといけない仕事があって」
「仕事って……! これ結構傷深いですよ!?」
「大丈夫……。助けておいて貰って悪いけれど、私達の事はもういいから」
そう言ってそっと私の手をのける。
「そ、そんな……下手に動くともっと傷が開きますよ!」
私の話を聞こうともせず立ち上がろうとする女性。
「……うっ――!」
体に力を込めた瞬間、傷口が痛むのか辛そうに顔を歪める。
「無理ですって!」
彼女に駆け寄って抱きかかえる。
「……そうだ、これ!」
ポケットに入れてあった、記念品の救急処置セットを取り出して見せる。
「私、応急手当くらいなら出来るので、せめてそれだけさせてください! こんな怪我人このまま行かせられません! 死にますよ!」
私の剣幕に押されて、一瞬戸惑いつつも少女の方を見る女性。
「……ママ、このお姉ちゃんたち悪い人じゃないよ」
少女が小さな声で呟く。
ママ……?
少女の年齢から考えると、随分と若いママね。
この子は多分4,5才くらい。女性の方はセロシアさんと同じくらいで、20代中頃に見えるけど……。
少女の顔を見て考え込む彼女。
暫くしてその頭をそっと撫でると、ため息を1つ。
「……分かってるわよ。そうね……ごめんなさい、お願いしても良いかしら?」
「――はい! 任せてください!」
―――
救急セットを開けて中の説明書にさっと目を通す。
家庭用って言ってたけど……結構本格的なやつじゃない。
授業で習った実戦向けの救急キットと殆ど一緒。
これくらいの傷なら問題なく問題なく治療できそうだけど……こんなの一般人は使えないと思うわよ。
「シェンナ、これでいい?」
私が説明書を読んでるる間に、アイネが女性の白衣を脱がせシャツの裾をまくってくれる。
「……オッケー! そこのガーゼで患部の血を拭いて、その後その薬剤で消毒を」
「うん。……あの、染みると思いますけど我慢してくださいね」
「大丈夫よ……うっっ!」
心配そうに女性の顔を見つめる少女の頭をそっと撫でる。
消毒した患部に、即効性のある麻酔をしみ込ませたガーゼを押し当てる。
麻酔が効くまで少し待つ。
「アイネ、後は私がやるから周囲の警戒をお願いできる?」
「分かった。入り口の方に居るね」
そう言って入り口の方へ向かうと、私達から死角になる位置に陣取る。
ファントムの力を使う気ね。
麻酔が効くまでの間、疑問に思っていた事を聞いてみる。
「……あの、もしかしてセロシアさんという方をご存知じゃないですか?」
「――え!? あなた達、セロシアの知り合い!?」
驚いた顔で私を見る女性。
「あ、いえ。昨日お会いしたばかりなんですけど……私達QoK社の招待で今回のメッセに来てて、滞在中色々とお世話になってて」
「そう……そう言えばあの子、Qokの広報担当って言ってたわね」
そう言って少し遠くを見る女性。
「セロシアは妹なの」
成程、姉妹なんだ。
……どうりでそっくりな訳ね。
「あの子……元気だった?」
「え? はい! 昨日も大勢のお客さんを前に立派なプレゼンされてましたよ。凄く仕事の出来る女性~って感じでした」
「あの子が? ふふ、それは一回見学に行かないとね」
そう言って嬉しそうに笑った。