k03-10 荒ぶる機械兵
「――お待たせ致しました! 準備が整いましたのでいよいよ実演に移らせて頂きます! こちらに居る3体のオートマタにはあらかじめあちらの的を標的をとして認識させています。ですが、ご覧の通り標的との間には障害物がありこのままでは射撃できません。障害物を自動で回避し、適切な位置から標的を射撃する様子をご覧ください」
説明を終えると、セロシアさんが通信機のようなものを取り出し命令を伝える。
「WA-1800 α、前進! 目標を破壊せよ!」
命令を受け、1体のオートマタが動き出す。
真っすぐ前進し、障害物の前で一時停止。
即座に向きを変えて障害物を迂回しながら進む。
会場からは驚きの声。
あれを遠隔操作じゃなくて自立してやってるっていうんだから凄いわ。
その後も壁の間をスムーズに抜けながら自走し、障害物エリアを抜けると静止し姿勢を落とす。
腕を上げ、銃を構えて……発砲!
見事に一発で標的を破壊した。
『おぉー』
会場から歓声が上がる。
「今回の実演は狭い会場の中ですが、例え作戦エリアが広くなっても基本的には同じことの繰り返しです。――では、残りの2体は同時に行ってみましょう。……WA-1800 β、ω、前進! 目標を破壊せよ!」
待機していた2体のオートマタが同時に動き出す。
先行する1体が物陰から前方を確認し、もう1体は後方のカバーに当たる。
お互いにぶつかる事もなく息の合った動きで障害物の間を抜けていく。
「わぁ……プロの傭兵さんみたい」
驚いてアイネが呟く。
「そうね。人間だったら双方に相当な訓練を積まないと無言であんな動きは出来ないわね。その点オートマタならチームを組んだその日から完璧な動きが可能……って訳ね」
正直、案内係のオートマタを見た時は冗談だと思ったけれど、適切な分野に特化した場合なら人間を遥かに超えるっていうのも納得せざるを得ないかもしれないわね。
障害物を抜けたオートマタが標的に向け射撃を行う。
粉々に砕け散る標的。
こちらも見事に一発で仕留めた。
……が、兵器の威力が強すぎたのか、飛び散った大きな破片が付近で待機していた最初のオートマタの頭部に直撃!
その衝撃で床に倒れ込むオートマタ。
ボンッ! と小さな爆発音が聞こえ頭部から煙が上がる。
ん? 故障?
まさかね。こんな簡単に……
暫くして、倒れたオートマタがおもむろに立ち上がる。
すると――攻撃を受けたと勘違いでもしたのか、他のオートマタに向けて突進していった!
「え、え!? あれ何か様子おかしくない!?」
「だ、大丈夫でしょ。あの程度で故障してたら実戦なんて……」
壇上では、突撃したオートマタが他の2体に向かって……全体重を乗せたまま思いっきりラリアット!
直撃を受け1体が倒れ込む。
その上に馬乗りになり、これでもかと手に持った銃を撃ち込む!
抑え込まれた方は身動きも取れず、ただただ頭部に銃弾を受ける。
ボコボコになりだんだんだんと変形していく頭部ユニット。
こちらも反撃とばかり腕だけを動かして銃を乱射し応戦を始める!
けれど、既に可動部が破壊されているのか、その照準は定まらず会場の天井を次々と撃ち抜いていく!
『うわぁぁーー!!』
『危なぃ! 逃げろ!!』
会場から悲鳴が上がる!
さすがにこれはまずいと思ったのか、出口へとなだれ込む観客達。
ただでも人でごった返していた会場が一気にパニックになる!
「み、皆さま、落ち着いてください! 係の者の誘導に従って頂いて……」
壇上のセロシアさんが慌ててマイクを取るが、誰も聞いていない。
その後ろではオートマタ同士で撃ち合い殴り合いの地獄絵図。
「お、落ち着いてください! 皆さまに危害が及ぶような事は決してありませんので!」
混乱を収めようと必死に声を上げるセロシアさん。
けれども我先にと押し合う人々で出口はギュウギュウだ。
「出口はこちらです。押さずに一列での移動を――」
係の人が出口付近で誘導しているけれど、狭い出口は大混乱。
その間にも壇上のオートマタは定まらない照準で銃を乱射する。
さっきまで天井を打っていたけれど、次第に観客の近くにも着弾するように!
『うわぁーー!!』
悲鳴が上がり、いよいよ前の人を押しのける人達が現れ暴動寸前に。
その様子を見て、意を決したようにオートマタに向かって走り出すセロシアさん。
そして――事もあろうか、観客に向け連射される銃を素手で押さえに入った!
ウソでしょ!? 相手は機械よ!?
モーターに挟まれでもしたら生身の人間なんて一瞬でグチャグチャになるし、いくら非殺傷兵器ってもあんなの至近距離で受けたら骨折じゃ済まないわよ!
「シェンナ!」
事態に気づいて私を見るアイネ。
「……うん、お願い!!」
「任せて!」
……大丈夫、観客は皆必死に出口を目指してるから今ならそれほど気づかれないはず。
人の波から抜け出すと、ファントムの力を開放するアイネ。
瞬時に髪が白銀に輝き、黒い耳と尻尾が生える。
肢体は黒い影を纏い、禍々しい漆黒の爪が現れた。
壇上に向かい、10メートル以上はある距離を一気にジャンプ!
次の瞬間、壇上で暴れまわるオートマタは胴体を真っ二つに切り裂かれ、バチバチと火花を散し床に崩れ落ちていた。
その傍らでは、セロシアさんが必死に押さえつけていたオートマタの頭部に深々と爪を突き刺すアイネの姿が。
一撃で頭部を破壊され、2,3回ビクンと動いた後、動かなくなるオートマタ。
「セロシアさん、大丈夫ですか!?」
「え、え? ――えぇ!? な、何!?」
事態を把握できずに混乱するセロシアさんに、変身を解いてみせるアイネ。
「ア、アイネさん!?」
少し戸惑いつつも頷くアイネ。
―――
その後、落ち着きを取り戻した会場で、係りの人達が観客を場外へ誘導する。
口々に文句を言いながら会場を後にする観客達。
驚いたのは、これだけの騒ぎでも、最新技術を追求し続けるバンブー・カラムでは『割とよくある事』という扱いらしい。
怪我人が出なければそれでOKらしい。
会場の補修のためブースは閉鎖されたけれど、それ以外には特に大きなニュースにもならなかった。
会場の後片付けがあるという事で一端セロシアさんとは分かれ、私達も会場を後にした。
―――――
――夕方。
ホテルに戻ってマスターと合流。
「よう、午後はどうだった? 何か面白いものあったか?」
「そ、そうね! 結構楽しかったわね。ね、アイネ?」
「そ、そうだね。オートマタとか私初めて見たなぁ〜」
私もアイネもしどろもどろで答える。
いくら人助けのためとはいえ、展示品のオートマタをスクラップにしたなんて……言えない。
しかも人前で、ファントムの力を使って。
「ん? お前らQoKのオートマタ見てきたのか? 何か会場で事故があったって噂になってたけど大丈夫だったか?」
「え、え? そうなんだ。私達が居た時は何ともなかったけど――」
何とか誤魔化そうとするけれど、丁度そこへ……
「皆さん! 初日お疲れ様でした!」
ホテルの入り口から、笑顔で駆け寄ってくるセロシアさんの姿が!
あ、マズい。
一目散にアイネの傍へ駆け寄り、がっちりとその手を握る。
「アイネさん、今日は危ない所をありがとう! ――ところで、あのとき使った兵器は何なの!?」
興奮したままマスターに向き直る。
「アイリニウム合金製のボディを真っ二つに切り裂くなんて! 断面が鏡面みたいに鮮やかで、存知の技術じゃ到底不可能だってスタッフが驚愕してましたよ! ウィステリア・テイルが開発したんですか!? 是非我が社で専属契約を結びたいって大盛り上がりで……あれ?」
引きつった顔のマスターと、苦笑いで顔を逸らすアイネ。
その場は何とかマスターが誤魔化してくれ、諦めて帰っていくセロシアさん。
明日からはもっと慎重に行動しないとね……。
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