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k01-08 大罪人、ヴァン家

 アイネvsスライム、今のところの勝敗は0勝8負。……まずまずの成績だ。

 スライム相手にボロボロになっていくアイネに、さすがのジンも少し気の毒になってきた。


 一端休憩を挟もうかと声をかけようとしたその時、付近から急に子供の声がした。


「ねえ、あそこに誰か居る!」

「ホントだ! ねーー! お姉ちゃん何やってるの!」


 見ると初等グレードと思しき男の子と女の子が駆け寄って来る。


「おい、危ねぇぞ」


 ジンがやんわりと制止するものの、元気な子供たちは聞く耳を持たない。


「あ、スライムだ! お姉ちゃんもしかしてマモノ退治してくれてたの?」


 アイネの近くまで駆け寄った女の子が目を輝かせる。


「あ、うん。退治っていうか、訓練って言うか……」


「ってことは、魔鉱戦術学科のお姉ちゃんなんだよね! すごーい! ね、ね、魔兵器見せて! 撃つとこ見たい!!」


 そう言ってアイネにまとわりつく。


「ち、ちょっと、危ないよ。スライムって意外と狂暴なんだからね。今頑張ってやっつけてるところだから少し離れててね」


 後から近寄っていった男の子が泥だらけのアイネの様子に気づく。


「……お姉ちゃん、もしかしてそれスライムにやられたの?」


「え、え?? そ、そんな事ないよ。これは相手の動きを良く見る訓練と言うか……」


 分かりやすく動揺して目が泳ぐアイネ。


「え、嘘だろ!? こんな雑魚に勝てないの? ちょっと見てなよ!」


 そう言って、腰に下げていた護身用のロッドを取り出す男の子。


「俺の必殺魔法を見せてやるぜ! "太陽よ! 雷よ! 祭り火よ! 3つの炎で悪しき魂を燃やしつくせー!! ファイアースラッシュ!!"」

 そう言って、ロッドを力いっぱいスライムに叩きつける。


「もー、やめなよそういうの。ほんと男子って子供なんだから」

 見ていた女の子が呆れた様子で口を曲げる。


 女の子の言う通り、魔法なんておとぎ話の中の代物だ。

 この攻撃に正式な名前を付けるとするなら、ただの“強打”。


 とは言え、つかっているロッドは暴動鎮圧などにも使用するテイルの正規支給品。

 脆弱なスライム相手には十分な脅威だ。

 慌てて逃げだすスライム。


「あ、待てー! 逃げるな!! サンダー突き!!」

 そう言ってロッドを構えて追いかけ回し、次々と追撃を放つ男の子。


「ち、ちょっと! ダメだよ、かわいそうだよ!」

 慌ててその後を追いかけるアイネ。



 そこへ丁度、引率と思われる教員が他の生徒を連れてやってきた。

 その傍らでは、最新のフロート式中継器がフワフワと漂っている。


「おやおや。これは……ヴァン家のお嬢さんに、新人マスター殿。この様な所でどうされました?」

 良く見ると、志願表明式の時に司会を務めていた教員だった。



「あ! 先生! 見て見て! 今スライムやっつける所だぜ!」

 得意げにアピールする男の子。


「こらこら、そんなマモノほおっておきなさい。……それより、ヴァン家。あなた、先ほど何と言いました?」

 そう言いながらアイネに詰め寄る教員。


「え……?」


「かわいそう……魔物が『かわいそう』と言いましたか!?」


「あ……」

 慌てて口を押さえるアイネ。


「皆さんも聞きましたよね! 流石は悪名高き"ヴァン家"です!」

 そう言って両手を広げ、大袈裟に子供たちに講釈する。


「はい、皆さん! 授業で習った事を覚えていますか? ここ居るアイネ・ヴァン・アルストロメリアのひいおじいさんは何をした人でしょう?

 言うまでも無いですね!? キプロポリスの研究者でありながらエバージェリーに寝返った裏切者!

 キプロポリスの優れた技術を持ち逃げしエバージェリーへ渡った彼は、あろう事かエバージェリーの軍勢と手を組み、世界を征服するためマモノの群れを従え攻め込んで来たのです!

 元々マモノなど存在しなかったキプロポリスが、マモノの蔓延る荒野だらけの世界になったのは彼女のひいおじいさんのせいなのです! 常識中の常識なので皆さんよく覚えておくように!!」


 先ほどまでアイネに懐いていた女の子がそっと離れる。


「お姉ちゃん……"ヴァン家"だったの?」


 そう言ってアイネの顔を見る。


「……そうだよ」

 何とも寂しそうな顔をするアイネ。


「……お母さんが、もしヴァン家の人と会っても口きいちゃいけないって」


「……うん。さ、2人共。皆待ってるから先生の所に戻って」


 そう言って子供達を促す。

 2人は無言で他の生徒達の元へ駆け寄っていく。


「先生ー、早く行こうよ」

 待っていた子供達から不満の声が上がる。


「すいません! 無駄な時間を使ってしまいました。学園へ戻りますよ」

 そう言ってアイネに一瞥をくれると、教員は踵を返し戻っていく。



 無言でその様子を見つめるアイネ。

 その後ろ姿が何とも寂しそうに見え、いたたまれない気持ちで声を掛けるジン。


「何ていうか……まぁ、あんま気にすんな」


「マスター……」


「……ん?」


「……小さな子とおしゃべり出来ました。今日は良い日です!」


 振り返ったアイネの顔は、ジンの想像とは違って優しい笑顔だった。


「街の中とか人目のある所だと話しかけられる事なんて滅多に無いんです。特に小さい子なんて。私子供好きなんですよ!」


 街の方へ歩いていく賑やかな子供達を見つめるアイネ。


「今日はいろんな体験が出来て良かったです。連れてきてくれてありがとうございました!」

 ジンに向ってお辞儀をする。


「……俺達も帰るか。今日は初授業記念だ。何か旨い物おごってやる」


「え!? 良いんですか!? やったー! 学食のスペシャルステーキ定食が良いです! 3,000コールするやつ!」


「容赦ネェな……」


 そう言って2人は中継器や魔兵器の後片づけを始める。

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