k03-03 バンブー・カラム
ウィステリアを出発して5時間。
時刻は16時を大きく周った頃。
『ご乗車有難う御座います。当列車は定刻通り、後20分程でバンブー・カラムへと到着致します。皆様、お忘れ物等御座いませんよう、お荷物のご確認を宜しくお願い致します』
車内アナウンスが流れる。
「ぅ、寝てた。……お、見えてきてるじゃねぇか!」
「え? あ、何ですかあれ!? あの大っきいのがバンブー・カラムですか!?」
かれこれ数時間前からグースカ、スヤスヤ寝ていたマスターとアイネが目を覚ます。
窓の外を見て声を上げる2人。
あんなバカでかい物、かれこれ30分程前から見えてたわよ。
今更大げさにはしゃぐもんだから周りの乗客からの視線が痛い。
恥ずかしいからやめて。
窓の外に広がる荒野。
延々と続く赤土の大地には、疎らに生える枯れ木みたいな植物や無造作に転がる岩石意外何も無い。
そんな雄大な景色の中、夕日に照らされて聳え立つ一見して人工物だと分かる巨大な円柱。
大きさは……ハイドレンジアより二回り程小さい位かしら。
遠目からも美しいハイドレンジアとは似ても似つかない無機質な外観。
そこら中にハッチや足場、クレーンなどが取り付けられ、無数のサーチライトが暗くなり出したその外壁を照らす。
“研究都市バンブー・カラム”
「凄いわね……あの円柱の中に街1つ丸々入ってるの?」
「そうだな。しかも内部は地下2層、地上3層に分かれてて延べ床面積は相当なもんらしいぜ」
「へぇ……随分と変わった街ですね……。どうしてそんな作りになってるんですか?」
「えっと……公式資料によると『外稈と呼ばれる外壁は、外部からの攻撃やマモノの襲撃に対する防御壁の役割を果たす』らしいわよ」
携行端末にダウンロードしておいた公式パンフレットを読み上げる。
「え、それってジュエルシステムの結界と一緒じゃ?」
「バンブー・カラムはジュエルシステムが出来るよりも前からある施設だからな。結界が出来る前はどの街も外敵から身を守るために色々と工夫したんだ」
「へぇーー。じゃあ、結界が出来た今だとあの立派な外壁もあんまり活躍の機会無いんですねぇ」
「まぁなぁ。とはいえわざわざ壊す必要もないだろうし」
「それに……あれはあれで別の役割があるそうよ」
バンブー・カラムについて色々調べている中で見つけた、とある記事をアイネに見せる。
「なにこれ? オカルト雑誌……? シェンナがこういうの見るなんて意外……」
「たまたま見つけたの。この記事によると――その昔、バンブー・カラムではそれこそ世間に公には出来ないような非人道的な実験をいっぱいしてたんですって。その一部が今も引き継がれて極秘裏に進められてるって噂よ。結界で防げるのは外部からの攻撃やマモノの侵入がメイン。内部から外に逃げ出すのを防ごうと思ったら必要なのは……丈夫な鉄の壁」
そう言ってアイネの顔に端末の記事を近づける。
「え!? えぇ……」
だいぶ効いたのか、首をすくめて顔を引き攣らせるアイネ。
「おいおい、あんまり変な事吹き込むな。街側もそんな噂を気にしてか、クリーンさをPRするためにこうやって展示会を開いたり俺たちみたいな一般人を招いたりしてる訳だ。街の中で余計な事言うなよ」
まぁ、オカルトはオカルト。
あれだけ大きな世界的機関だもの、そんな事はあり得ないなんて少し考えればわかる。
昔はどうだったか知らないけど、このご時世そんな事があれば一発で国際問題よ。
常識的に考えれば分かるけど――端末の記事を青い顔でまじまじと見つめるアイネ。
ちょっと脅かし過ぎたかしらね……。
―――
定刻通り、列車は街に到着。
線路がそのまま街の中へと続いていて、外壁に空いた通路から列車がゆっくりと街の中へと入っていく。
遠くから見てもかなりの大きさだと思ったけれど、近づけば近づく程そのとんでもない迫力に圧倒される。
私もアイネもマスターも、窓にへばりついてその巨大な外壁を見上げる。
遠目では円柱の建物だと分かったけれど、目の前まで来るともはや鉄の壁ね。
所々にクレーンが設置されており、何やら作業が行われている。
あのクレーンの操縦席が人間程の大きさなんだから……見上げただけでそのスケールに目まいがしてくる。
周りの席でも窓にへばりついて見上げる乗客がチラホラと。
多分あの人達は私達と同じく招待された一般客ね。
事も無げに資料を読んだり荷物を纏めてる人達は、こんな景色とおに見慣れた研究者達……といった所かしら。
「はぁ。竹の成長は早いって言うけど……いつの間にこんなにニョキニョキ伸びたんだ?」
ため息をつくマスター。
「? 何の話ですか?」
「ん? あぁ、バンブーって植物の話だよ」
「あぁ、バンブー・カラムのバンブーって植物のバンブーの事だったんですね」
「そうだ。層になってるのを節に見立ててるのと、増設して上に上にどんどん伸びてってる事からそんな名前になったらしい。最初はただドデカイだけの平家の施設だったんだぜ」
「最初はって、資料によると平屋だったのは50年以上昔の話よ。何知ったかぶってんのよ」
「はは」
そう笑って誤魔化す。
―――
そうこうしてるうちに、列車は外壁の中……トンネルのような通路へと入って行く。
ライトで明るく照らされた通路の中をゆっくりと進む。
このトンネルの長さが、そのまま外壁の厚さって訳ね。
これだけの大きさを支える壁なんだから、それなりの厚さはあるとは思ったけれど……随分進むわね。
確かにこれなら結界の無かった時代をその身一つで乗り切れたのにも納得いくかも。
数分進んで、列車が静かに止まる。
開けた空間に出たようだ。
到着のアナウンスが流れ、乗客たちが一斉に列車から降りて行く。
特に急ぐわけでもない私達は、人が落ち着いてから座席を立つ。