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k03-02 歴史の爪痕

 ウィステリア・セントラルステーション前。


 時刻は11:00。

 集合時間丁度。


 まったく。

 あのマスター、寝てんじゃないでしょうね?


 まぁ、けれども今回は全く問題無い。

 前回朝っぱらから駅構内を全力疾走する羽目になった反省を生かして、電車の時間から乗り場まで、今回は私が全て調べてある。


 あいつが時間通りに来ない事も織り込み済。

 その分も計算して余裕を持った集合時間にしてあるわ。完璧。レディー・パーフェクトよ。



 ふと隣を見ると、さっきまで居たはずのアイネが居ない。

 黒猫のキーホルダーがついたお気に入りのキャリーケースだけがポツリと取り残されている。


 慌てて辺りを見渡す。


 ……少し先で、お弁当屋さんのショーケースに貼りついている姿が見えた。

 ふぅ、良かった。

 無事電車に乗るまで一切油断出来ないわね……。



「よー。おつかれさん」


 不意に反対側から声をかけられる。

 振り向くとラフなジャケット姿のマスターが。


「あら、今回はまともな服装で安心したわ」


「当たり前だろ。俺だってTPOくらい弁えるわ」


「前回コテコテの観光客丸出しだった人が良く言うわ」


 私の小言も何なそのという様子で肩を窄めるマスター。



「あ、マスター! おはようございます!」


 こっちに気づいたアイネが駆け寄ってくる。



「よぉ、おはよさん。美味しそうな駅弁あったか?」


「はい! それはもう沢山! 前回のリベンジです。今回は確実にゲットしましょうね!」


「お、張り切ってんなぁ!」


 いつもの事ながらイマイチ緊張感の無い2人。


 いや、もしかしたら私が細かすぎるのかしら……。


 ふとそんな事を考えていると、私にはお構いなく弁当屋さんへ走って行く2人の後ろ姿が目に入った。


「ち、ちょっとアイネ! 荷物!!」


 両手で自分とアイネのキャリーケースを引いてお弁当屋さんへ向かう。


 それぞれ好みのお弁当を購入し、私の多大な功績により今回は無事に乗車。


 少し待った後、定刻通り列車が走り出す。



 ―――



 バンブー・カラムまでは、約6時間の旅。


 ハイドレンジア経由ではなく直行便なので、前回の列車旅とは違う路線になる。


 今回の移動は自費。

 当然普通席。

 無論文句は無いんだけれど、前回あれだけ贅沢を覚えちゃうとちょっとどうしても窮屈に感じるわね。


 行き先が研究都市という事もあり、一般客は少なめで列車は割と空いている。

 2列を向かい合わせにして、のんびりと列車旅を楽しむ事にした。



 ―――



 ウィステリアを離れて約2時間。


 窓の外に巨大な盆地が見えてきた。


 その盆地を囲むように、崩れかけた大小様々な廃墟が立ち並んでいる。



「凄い……あれが"エタラカ"の跡なんですね」


 窓の外を眺めていたアイネが真剣な顔で呟く。


「ウィステリアクレーターね」


「そうだ。昔はこの辺りもウィステリアの国土だった。それがたった1匹のマモノの力でこの有様だ」



 "調停者エタラカ"


 およそ80年前。


 緊迫する世界情勢の中、突如として現れたその巨大で禍々しいマモノによりキプロポリス文明の"半分"が壊されたと言われている。


 今では"街"と"国"はほぼ同じ意味になっているけれど、昔はウィステリアやハイドレンジアのような大きな"街"がいくつも集まって"国"を形成していたと歴史の授業で習った。


 エタラカの圧倒的な力の前に、街はことごとく破壊されれ分断し、国は国として機能を果たさなくなった。


 その後どうにか災害を逃れ生き残った各地の都市達が自立して国を名乗り、どうにかここまでの復興を果たした。


 都市同士が離れていて、こんな荒野を列車で長時間移動しないといけないのもそのためだ。



「これ程の力を持ったマモノをたった1人で撃破したのが、"英雄オリジン・ロウ"なんですよね?」


「まぁ……歴史ではそうなってるな」



 正直、私は昔からこの英雄伝説に懐疑的だ。

 だって地面にこんな馬鹿でかい穴を開けるようなマモノをたった1人でって……。

 人間技じゃないわよ。

 それこそどっちが化け物だか分かんないじゃない。


 それに、残存する情報が少なすぎる。

 いくらニ世界大戦を目前にした混沌の時代とは言え、100年にも満たない昔の話なのに具体的な物証が殆ど残ってないなんて。


 今ではこの伝説をただのおとぎ話と考える人も少なくない。



 ――けれど


 ……窓の外をじっと見つめるアイネの横顔を見る。


 この子は昔からオリジン・ロウの英雄譚が大好きだった。


 まるで“大罪人”と呼ばれる自分と対比するかのように、その輝かしい逸話を何度も何度も繰り返し読み漁っていたのを覚えてる。



 クレーターの底に出来た湖が、太陽の光をキラキラと反射する。


 その輝きに負けない程に瞳を輝かせる少女を乗せ、列車は一路バンブー・カラムを目指す。

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