表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

114/179

k03-01 研究都市からの招待状

 良く晴れた昼下がり。

 もう秋だというのに、季節外れの高気圧の影響で日向では汗ばむ程の陽気。


 草原では小鳥達が地面に落ちた木の実を啄み、小動物は低木の間を忙しく走り回っている。

 やがて来る厳しい冬に向けての準備に忙しいのだろう。



 そんなあくびが出るほど長閑な光景の中……



 ――突如、けたたましい銃声が鳴り響く!




 驚いた小鳥達は我先にと空へ逃げ出し、小動物も急いで林の中へと逃げ込む。



 ――その間に、続いてもう一発!




 動物達が姿を消し静まり返る草原。


 程なくして、付近の草むらがガサガサと揺れ銃声の主が姿を現す。

 足元に大型の狙撃銃を設置したまま立ち上がる2人の人影……



 シェンナとアイネだった。



「……よし。ばっちりね!」


 手に持った双眼鏡を覗き込み、着弾点を確認しながらシェンナが呟く。


 彼女が立っている位置から数百メートル先。

 よく開けた位置に、地面に建てられた木製の的が。

 人型をした的は、頭部のど真ん中を見事に撃ち抜かれている。



「……うん。まぁまぁかな」


 同じくアイネも双眼鏡を覗き込む。

 こちらの的は、中心をやや外れ脇腹辺りに風穴が開いている。



 満足そうに双眼鏡を降ろすアイネ。

 と、同時に――



「『まぁまぁかな』じゃないわよ!」


 シェンナに激しく頭を叩かれる!



「イタッ! え!? なになに? ちゃんと的に当たってるって!」


「あんたが狙ってたの、2個隣の的でしょ!!」


「……え? えっ!?」


 もう一度双眼鏡を覗き込むアイネ。

 倍率を下げて確認すると、シェンナが撃ち抜いた的……から3個離れた位置にある的に命中している。

 狙っていたのはシェンナの隣の的だ……。




 ――ここはウィステリアテイルの野外射撃訓練場。

 主に、野外戦や長距離射撃の演習に使用する施設だ。




「うーん……風で横に逸れたのかな」


「んな訳あるかーい! 免風コーテングされたアンチクロスウィンド弾よ!」


 腕を組んで考え込むアイネの頭頂に、シェンナの手刀が刺さる。


「ア、アンチウィンド??」


「魔鉱石の力で、風の影響を無視して直進するライフル弾よ!」


 ポーチから取り出した弾丸をアイネに見せる。

 弾頭に緑色の魔鉱石が埋め込まれ、細かな溝が掘ってある特殊な形状のライフル弾だ。




「――そう言う事だ。てか、普通の弾を台風の中で撃ってもあんだけ流されることはまず無いわ」


 折り畳み式に椅子に腰かけて、背後から2人の様子を見ていたジンが呆れた様子で声を掛ける。



「あんたどんな撃ち方してんのよ!? 撃つ瞬間銃口振り回してんの!?」


 シェンナがアイネの銃を取り上げて不思議そうにいじくりまわす。


「ま、まぁ、実戦では遠距離射撃だったらシェンナの輝石魔法があるし。近接戦闘はファンちゃんとミラージュも居るから銃が無くても何とか……」


 2人から責め立てられ分が悪いアイネが、どうにかその場を収めようと作り笑いを浮かべる。


「あのなぁ……。お前、この先ずっと、いついかなる時もシェンナと一緒に戦うもりか?」


「う……それは……」


 バツが悪そうにシェンナの事を見る。



「……アイネ、頼ってくれるのは嬉しいけど……基本的な魔兵器の扱いくらい最低限出来るようにしとかないと。私の輝石魔法だってアイネのサポートが無いと安心して詠唱も出来ないし。お互いに依存した戦闘スタイルは問題よ」


「そう言う事だ。確かに輝石魔法もマモノの力も戦闘においては驚異的なアドバンテージだが、撃てる数や使用時間に限りがある以上あくまでも切り札だ。どうしても魔兵器の扱いは避けて通れないぞ」


「そう言われても……ハイドレンジアで"アレ"見てからどうしても苦手意識が……」


「気持ちはわかるけど。……かアイネ、ハイドレンジア行く前から、元々魔兵器系の授業成績最低だったでしょ!?」


「……あ。あははっ」


 笑って誤魔化すアイネ。



 そう言う理由もあり、ここ2,3日はテイルの生徒らしく、初心に帰り魔兵器の訓練に明け暮れているジン・ファミリアだった。



「とは言え、実のところ魔兵器に関しては俺もあんまり詳しくなくてな。特に最近はどんな銃が流行ってんのとかは全然知らん!」


「なに自信満々に言い切ってんのよ! そんなんでよく魔鉱戦術学科の教員が務まるわね!?」


「まぁ、そう言うなって。で、お前らと一緒に勉強してやろうってことで……ほれ、今度これに行くぞ」



 そう言って、さっきから弄りまわしていた携行端末を2人に渡す。


 差し出された端末を受け取るアイネ。



「えっと……『バンブー・カラム主催【テクノロジメッセ】』……何ですかこれ?」


「"研究都市バンブー・カラム"。有名企業や各国の研究所、実験場なんかが集まる巨大都市だ。そこある色んな機関が、最新技術を持ち寄ってスポンサーや顧客向けに公開する見本市みたいな催しだな。毎年この時期にやってるらしい」


「え、何だか楽しそうですね!」


 アイネから端末を受け取るシェンナ。


「兵器の見本市ねぇ。何だかゾッとしないけど」


「まぁ、兵器はあくまで一分野で、それ以外にも医療や交通、家電なんかの分野からも多数の企業が出展するらしいからな。先端技術に触れる良い機会だ」


「でも、あれって一般人は参加できないでしょ? スポンサーとかお得意様向けの催しだったはず」


 そう言って参加要項のページを表示する。



「安心しろ。インビテイション受けてるから」


「え!? どう言う事?」


「有名人枠ってのがあるらしくてな。自社の製品をPRしてもらうために企業が有名人を招待するんだよ」


「……私たち別に有名人じゃないけど?」


「それがそうでもないらしいぞ。こないだのハイドレンジアの件、グラートさんにお願いして関係者に箝口令は引いてもらったが……まぁ人の噂は止められねぇってやつだ。ちょっと前の記事だが……」


 そう言ってシェンナから端末を取り返すと、成人男性向け週刊誌の記事を表示して2人に渡す。



『ハイドレンジアで発生した前代未聞のクーデター! 早期解決の裏で密かに活躍したと噂される美少女2人組の謎に迫る!!』



「えーー! これって私達の事ですか!? 凄いです!」


 端末を取り上げて小躍りで喜ぶアイネ。


 対象的に難しい顔のシェンナ。


「……これ、いいの?」


「まぁ……テイルの外に出ればいずれ人目に付く事は覚悟してたが……。出来ればもう少し、せめてお前らが卒業するくらいまではあんまり騒ぎにはしたくないところだな」


「……今後外での行動には気を付けないとね」


 小躍りしていたアイネも、2人の浮かない様子を察して大人しくジンに端末を返す。



「まぁ、安心しろ。今のところ輝石魔法やアイネの力までは噂になってない。なんかどこかのテイルに凄腕の生徒がいるっぞってくらいの認識みたいだな」


「まぁ、そう言う事ならまだ大丈夫かしらね」


「今のところはな」



パン、とひつ手を叩きジンが話をまとめる。


「出発は来週だ。数日滞在する事になるからしっかり準備しとけよ」


「はーい! 久々の遠征、楽しみだね!」


 そう言って嬉しそうに笑うアイネだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=onランキング投稿にご協力ください(*'ω'*)
もし続きが気になる、応援してるぞ、と思って頂けましたらランキング投稿をお願いします。
下の"投稿"を1クリックして頂くだけで投稿完了です。何卒よろしくお願い致します('ω')
html>投稿
html>
(なろう勝手にランキング)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ