表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

113/179

k02.5-09 【第2.5章最終話】祭りの夜は更けて

 曲が終わると、会場から盛大な拍手が送られる。


 顔を見合わせるアイネとグリム君。

 ニッコリ笑うアイネに、照れて顔を晒す姿が初々しくて微笑ましい。



 拍手が鳴り止まないうちに、そのまま次の演奏が始まる。

 今度はアップテンポな曲。

 パーティーは一層の盛り上がりを見せる。




「お前は踊らなくていいのか? 相手居ないなら一緒に踊ってやろうか?」


 シャンパングラスを片手に私をからかってくるマスター。


「なに? 私と踊りたいなら特別に付き合ってあげても良いけど?」


「素直じゃねぇなぁ。誰からも誘って貰えなかった哀れな教え子を心配してやってんじゃねぇか」


「お生憎様。これでも一応"ミス・ウィステリアテイル"なんで。心配無用よ」


「そうだったな。"シェンニャたん"」


「ち、ちょっと! その話どこで聞いたのよ!?」


「お、おわ!」


 掴みかかる私を避けようとして、体制を崩すマスター。

 手に持ったグラスを落としそうになる!


「やべ!」



 その時――

 隣に居た女性が軽やかにグラスを受け止める。



「ジン・ファミリアではパーティーで飲み物をぶちまけるのが習わしなのかしら?」


 そう言って微笑む、青いマーメードドレスの美しい女性。



「マ、マスター・カルーナ!」


「久しぶりね、シェンナ。ふふ、楽しそうで何よりだわ」


 手に持ったグラスをマスターに返す。



「よぉ、元気か?」


「えぇ。お陰様で。……2人共、少し良いかしら?」


 そう言って人の少ないテーブルへと歩いて行く。

 私達もその後に続く。



 ―――



 テーブルに着くなり、マスターはお酒を取りに行ってしまい、マスター・カルーナと2人取り残される。


「シェンナ。あなたが誰とも踊ってないなんて意外ね。今年はあなたの争奪戦かと思ったけれど」


「……何だかそんな気分になれなくて」


「そう……」


 ホールで踊るアイネの方をチラリと見るマスター・カルーナ。


「ハイドレンジアの件、2人共大活躍だったみたいじゃない」


「い、いえ。たまたまですよ」


 突然話って何なんだろう。

 あれ以来表立って嫌がらせしてくるような事は無いけれど……念のため警戒しておくに越した事はない。


 けれど、彼女から出た言葉は意外な物だった。



「あなた達には何てお礼を言って良いか。寄付金の件、本当に感謝してるわ」


 そう言って頭を下げるマスター・カルーナ。



「……え? 何の事ですか?」


 あのプライドの塊みたいな人が、一生徒相手に頭を下げるなんて……

 目の前の信じられない光景に、あっけに取られてそれ以上言葉が出てこない。



「あーー! いいから! そいつらには言わなくていい!」


 その時、丁度マスターが戻ってきた。


「言わなくて良いって……え、まさか、貴方シェンナ達には言ってなかったの!?」


「……ファミリアに入った金だ。どう使おうがマスターである俺の自由だ」


「ち、ちょっと待ってください! 何の話ですか?」


 マスターに詰め寄ると、不機嫌そうな顔をして目を逸らす。


「別に隠す事無いじゃない。……あなた達のファミリアに送られた、ハイドレンジアとC.S.C社からの寄付金。全額うちのファミリアの活動資金に回してくれたのよ」


「え?」



 バツが悪そうにそっぽを向くマスター。

 ……お金無いって言ってたの、それだったんだ。


「そ、それならそうと言ってくれればいいのに!」


「別にわざわざ言う必要も無ぇだろ! ……まぁ、不可抗力とは言えお前に時代錯誤の輝石魔法なんざ教えてちまったせいでおかしな事になったわけだしな」


「べ、別にあんたに教わった訳じゃないから! 自分で本読んで覚えたの!」


「あー、分かった分かった。そうだったな」


 そう言って面倒くさそうに耳を塞ぐ。



「どちらにせよ、お陰でうちの子達も少し安心させてあげられそう。ありがとう」


 改めて頭を下げるマスター・カルーナ。


「……いいって。柄でもねぇ」


 シャンパンを一気に煽るマスター。

 ここにも素直じゃない男子が居たわ。



「せめてものお礼って訳でもないけれど、共益協会に居る知人から気になる噂を聞いてね」


 そう言って一呼吸置く


「……最近、協会の上層部が騒がしいそうよ。"ウィステリアにセントレイアの()()と、その()()が現れた"って」



 セントレイア……ハイドレンジアでマスターの話にも出て来た。


 ――かつてキプロポリスとエバージェリーのニ世界を作り上げた、伝説上の創造神。



「セントレイアったら、協会が崇拝する唯一神だろ? そんなら崇められはせよ、危害を加えられる事は無いだろ」


「それなら良いんだけど……。一応警戒しておいた方が良いんじゃないかと思ってね。協会の動きがここ数年おかしいのは貴方も知ってるでしょ?」


「まぁな。とは言え、おかしいのはここ数年どころじゃねぇだろ。もう何年も前から、何考えてるか分かんねぇ怪しい組織だ。世界最大規模のな」


「そうね。ねぇ、"大空"を独占して異世界間交流を手中に収めた彼らが、次にやろうとしてる事の噂、知ってる?」


「……いや。貿易で一儲けしようとか?」




「――"神殺し"よ」



 そう言ってマスターの目をじっと見る。


 マスターは表情も変えず手に持ったシャンパンを一気にあおる。




「シェンナ! 料理取りにっとる間にどこ行ったかと思ったら、うちのマスターと内緒話かいな!」


 エーリエが大量の料理を両手いっぱいに持って現れた。


「よぉ! 何だ、つまみ持ってきてくれたのか? サンキュー」


 エーリエの皿からオリーブを拝借しようと手を伸ばすマスター。


「え、違うわ! いくらシェンナんとこのマスターとは言え、自分の食べ物くらい自分で運んでぇな!」


「お、お前、この量1人で食うつもりか……」


 絶句するマスター。

 それを見て可笑しそうに笑うマスター・カルーナ。


 前にあれだけの事があったのに、まるで旧知の仲のような振る舞いね……。


 そう考えてみると……


 そういえば、これまでの事もマスター・カルーナが一方的にけしかけただけで、うちのマスターが感情的になってた場面なんて一度も見なかったかもしれない。


 アイネも同じ事言ってたけれど……うちのマスター、大抵の事はホント気にしないというか。

 ……この人にとっては、大抵の事は「そんな細かい事」なのよね。




 時々思う。


 この飄々とした掴みどころのない人物は、果たして本当はどれだけ遠くを見据えてるのか。


 それとも、本当に何も考えてないだけなのか。



 ―――



 その後、お酒が進むにつれて酔っぱらうマスター2人。


「だ〜からぁ! 結界学の権威たる私が言うんだから間違いないでしょ! 移動式の障壁の防御力はぁ~!」


「違げぇ〜〜って! いや、根本は違わないけど、なんでそんなに事象ばっかに捕らわれんだよぉ! もっと本質を見ろ本質を!」


「本質ってなにぃよぉー!! テキトーな事言ってんじゃないわよぉ!! シェンナ、元教え子のあなたなら分かるわよね!」


「いいや、現役でうちのファミリアに居るんだからそれくらい分かるよな!? 言ってやれ!」


 逃げ出すタイミングを失って、酔っ払い2人の板挟みに合う。



 そこに踊り終わったアイネが合流する。


「ち、ちょっと! 何で2人共泥酔してるんですか! そういうパーティーじゃないでしょ!?」



「ふー、食べた食べたぁ」


 山盛りになっていた皿を平らげてフォークとナイフを置くエーリエ。


「エ、エーリエ!? ドレス、パンパンだけど、大丈夫!?」


 そう言えば、マスター達が飲んでる間ずっと食べ続けてたわね。

 あまりにもペースが落ちないから気づかなかったわ……。



「あら? アイネ、ダーリンは?」


「ダ、ダーリン!? あ、グリム君? 初等グレードは22時以降退館しなきゃだから、ご両親が迎えにきてたよ」


「ほうほう、もうご両親への挨拶まで済ませるとは……。さすがね」


「ち、ちょっと待って!? 何の話!?」




 そこへ、複数の男子生徒がやってきて私達のテーブルを取り囲む。


「アイネさん! よかったら次の曲、僕と踊って貰えませんか」


「シェンナさん! 是非僕と!」



「あの! エーリエさん、お食事が終わったようでしたら是非僕と踊りませんか!」


「は? うち!? ええけど、吐いたらかんにんやで!?」


 実は隠れファンが結構いるエーリエ。

 男友達も相当多いので、その攻略難易度はアイネ以上だとかなんだとか、男子達がヒソヒソと話してるのを聞いた。



「おー! いいじゃない若いのぉ!」

「いけいけ~!」


 仲良く煽って来る酔っぱらい2人。



 まったく、仕方ないわね。

 せっかくのお祭りだし。


 それぞれに最初に声をかけてくれた男子とペアを組みフロアへ。



 自分で言うのもどうかと思うけど、ジン・ファミリアの噂の2人、揃っての登場に会場が沸き立つ。


 曲はパーティーにピッタリのアップテンポなjazz。



 ――こうして学園祭の夜は更けていった。




 高等グレードになって初めての学園祭。


 それは、私とアイネにとって大きな変化のきっかけでもあった。




 ちなみに……翌年から"コスプレ"を売りにする店が激増しウィステリアテイルの学園祭名物になるとは、この時の私は知る由もなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=onランキング投稿にご協力ください(*'ω'*)
もし続きが気になる、応援してるぞ、と思って頂けましたらランキング投稿をお願いします。
下の"投稿"を1クリックして頂くだけで投稿完了です。何卒よろしくお願い致します('ω')
html>投稿
html>
(なろう勝手にランキング)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ