k02-38 例え何があっても
「話しておきたい事はこんなところだ。まぁ色々と信じられない事もあるだろうが、取り敢えず今日は早めに寝て明日にしようぜ」
そう言うと、マスターは半ば強引に自室に戻ってしまった。
居間に取り残され茫然とする私達。
誰も口を開こうとしない……。
「……今日はお疲れでしょう。何かと思われる所はあるかもしれませんが、まずはゆっくりと休息を取られる事が第一です」
ヴィントさんに促され、私達も今日は早めに休む事にした。
アザレアと別れ、自分たちの客室に戻る。
アイネと2、3言交わし、とりあえず今日は休む事に。
お互い自分のベッドに入る。
それからどれ位経っただろうか……。
凄く疲れているはずだけど、中々寝付けない。
昼間ここを飛び出してからたった半日なのに、随分と経った気がする。
そりゃそうよね。
いきなりテロに巻き込まれて、その解決に奔走して、おまけに世界の真実とか魔兵器の正体とか……。
半日の出来事にしては内容が濃すぎるわよ。
そっとアイネの方を見る。
暗くてその表情までは見えない。
「……もう寝ちゃった?」
小声で話しかける。
「……ううん。色々考えてちゃって」
アイネも一緒だったみたいで少しほっとする。
「ねぇ……私達これからどうしたら良いんだろ?」
アイネの方から話しかけてくる。
「どうって……別にこれまでと変わらないんじゃない。ただ、魔兵器を使うのはちょっと……いや、だいぶ抵抗感じそうだけど」
「……サーバーの中の人。マモノの力を借りてる時の私と同じ髪の色してた」
「……うん」
「あの人、エバージェリー人だって言ってたよね」
「そうね」
アイネの言いたい事は何となく分かる。
「……ねぇ、私は産まれた時からキプロポリスで育ってきたんだよね?」
「当たり前じゃない。小さい頃ずっと一緒だったでしょ」
……アイネのご両親は、私達がまだ小さい頃に突然失踪して、行方不明になったまま。
だから、アイネの生まれた当時の事を知ってる人は殆ど居ない。
けれど、ヴァン家も歴史ある家系。
うちと同じくらい古くから代々ウィステリアに在るんだから、アイネもキプロポリス人なのは疑い様がない。
何の返事もしないアイネ。
……
………
暫く沈黙が続く。
「……ごめん、シェンナと話してたら安心したのか眠くなってきちゃった」
「……私も。寝よっか」
「うん」
そっと目をつむる。
「…………ねぇ、アイネ」
「ん?」
「あのさ、例えアイネに何があっても……私はアイネの味方だよ」
「……うん、ありがとう」
「うん!」
「……ねぇ、シェンナ」
「ん?」
「――大好きだよ」
「――! バ、バカ!! お休み!」
アイネからの突然の告白に思わず動揺して頭から布団を被る。
「ふふ、おやすみ」
意地悪く笑うアイネの声が聞こえる。
むぅ! アイネにしてやられるなんて!
口とは裏腹に、つい顔が緩んでしまってる自分に気付いてまた恥ずかしくなる。
布団の中でニヤニヤしているうちに、いつの間にかそのまま眠ってしまったらしい。
――――――――
――とある建物の一室。
うす暗い部屋で机を囲む4人の人影。
「しかし……スプルース。まさかお前が負けるとはな」
真っ黒なプレートアーマーに身を包んだ男が呟く。
「……見た事のない魔法だった。いや、魔法ですらないのか。魔物の力をその身に宿す少女……」
「魔物の力? 何だそれ、魔獣使いか?」
幼い少年がスプルースに問いかける。
「魔獣使いとも全く違う……。闘いの最中で、さらに新たな魔物の力を宿していた。今はまだ未熟なようだが……もしかするといずれ多くの魔物を従え、その王とも呼べる力を得るかもしれん」
「なにそれ!? 魔物の王――"魔王"ってわけ? おとぎ話じゃないんだから! あんた、自分が負けたからって負け惜しみ言ってるだけでしょ!」
派手な女性がスプルースの顔を覗き込み嘲笑う。
鎧の男がそれをたしなめる。
「よさないか。……しかし、今回の失態で我々"四聖”の名に傷が付いたのは事実。迅速な“事後処理”のお陰で、協会の関与が露呈するという最悪の事態は免れたが。……スプルース。次は無いと心得る事だ」
「……承知した。この失態、必ずや取り返してみせよう」
彼らが囲むテーブルの上では、アイネ、シェンナ、そしてジンの顔写真がろうそくの炎に妖しく照らし出されていた……