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ハンター組合長を秒殺

「その子供か。ちゃんと手加減できる者でないと危ないだろう。儂がやってやる。」

「あ、組合長。試験をお願いしてよろしいですか?」

「ああ大丈夫だ任せておけ。嬢ちゃん、名はなんという?」


ハンター組合長は威圧するようにマジョーリカを見下ろす。本人に威圧する気はないはずだが外見で十分威圧されている。マジョーリカも嬢ちゃんという言葉からその気はないのだろうと信じることにした。


「マジョーリカと言います。よろしくお願いします。」

「うむ。こちらに来い。すぐに相手してやる。」

「はあい。」


組合長に付いていって、訓練場のようなところに案内された。先ほどのお姉さんも未届け人なのか付いてきている。何をどこまで見届けるつもりなのか分からないところに若干の不安がある。


「いいか、儂が獣を模してお前を攻撃する。5分間無事に受けるか逃げ続けるか、それとも儂に有効な攻撃を加えることができたら合格だ。分かったか?」


わざわざ模す必要があるのだろうかと思ったがそこは追及しないでおく。危険を避けることができればいいという趣旨は分かった。

だがどんな攻撃を仕掛けて来るか分からない相手なら、隙を見せたら攻撃して、仕留められないまでも継戦能力を絶つか奪っておくのは逃げるためにも有効である。


「すいません。ひとつ質問させてください。攻撃するのは魔法でもいいんでしょうか?」

「ああ、構わんぞ。武器は訓練用のやつをそこから好きなものを選んで取ってくるといい。」


武器が並んでいる棚を物色するが、マジョーリカの身長に見合ったサイズの武器はなかなかない。木でできたナイフがあったのでとりあえずそれにした。


「準備ができたら始めるぞ。覚悟が決まったら言え。」


(ええと、有効な攻撃って何なのさ? 獣を倒せるだけの攻撃ってこと? 攻撃魔法を下手にぶっ放したら怪我では済まないわよね・・・

死ななければ急いで魔法なり薬で治癒すればいいと思うけど、驚かせて大事件になってしまうわよね・・・んーどうしよ?

あ、そうだ。この手でいこう!)


訓練場で模擬戦闘を行うような区画でマジョーリカは組合長と対峙することとなった。試験とは1対1での格闘戦ということだということが分かった。

マジョーリカの準備と覚悟が決まるまで、ハンター組合長は余裕で待ってくれるらしい。









マジョーリカは試験の模擬戦闘をどのようにこなすか作戦を考えて、構想がまとまった。この世界に来て人間との初めての戦闘である。クロウに石をぶつけるのとはわけが違う。

自分や相手が大怪我しないためにも真剣にやらざるを得ない。


「準備できました。お願いします。」

「よし。じゃあエレーナ、時間を計る準備をしたら合図してくれ。」


先ほどのお姉さんはエレーナと言うらしい。エレーナは砂時計を準備したらこちらを向いた。


「ではいきますよお。マジョーリカちゃん、頑張ってね。用意、始め!」


エレーナの合図とともにマジョーリカは持ってるナイフを放り出した。そして自身に身体強化の魔法をかける。聴力を強化したのも身体強化魔法の一種だが、今回は筋力の強化である。


「武器を捨てて何をやってるんだ? やる気あるのか?」


組合長の言葉を他所に次の瞬間マジョーリカは縮地の要領で前方に駆け出し、瞬時に間合いを詰めて組合長の懐に飛び込んだ。


「ぐっ」


何が起こったのか? 唸り声を最後に組合長がマジョーリカにもたれかかるように膝から崩れ落ちてしまった。

マジョーリカは筋力の強化を止めてしまったので組合長を支えきれず、よいしょと寝転がせてエレーナの方を見る。


「ええと、マジョーリカちゃん。何が起こったの? 組合長は大丈夫?」

「大丈夫ですよお。ちょっと魔法で眠っているだけです。起こしますか?」


マジョーリカが何をしたかと言うと、『抱っこしてー』と言わんばかりに懐に飛び込んで組合長にぺたっと手を触れて、そこから睡眠の魔法を放ったのである。組合長はただすやすやと眠っているだけなのである。

武器も持たないマジョーリカの視線は最後までずっと組合長の目を睨みつけていたままだったので、組合長はマジョーリカの狙いが何だったのか、何をされたのかまったく分からず、反応すらできなかったのである。

睡眠の魔法であれば魔力を絞り損ねても事故にはならないだろうという、マジョーリカの賢くも優しい選択であった。


「じゃあマジョーリカちゃん、組合長を起こしてあげてくれる?」

「ええと、その前に試験の結果はどうなのでしょう?」


睡眠の魔法が攻撃として認められるのだろうか? 狩猟や危険の排除が目的と言うのなら、無抵抗で生け捕り可能な状態を作り出したので有効と認められるはずだとマジョーリカは思っている。


「マジョーリカちゃんが組合長を魔法で眠らせてしまったのよね。では問題なく合格よ。」

「わあい。」


マジョーリカはぐっと拳を握り込んでガッツポーズしたその手で浄化の魔法を放ち、組合長を眠りに誘っている効果を浄化してやった。後は普通に目が覚めるはずである。








組合長が目を覚ます気配はない。いびきをかき始めたところを見るに、日頃のお仕事でお疲れなのだろうか? 肩を軽く叩く程度では目を覚まさず、ゆさゆさしてやったら組合長はやっと目を覚ました。


「うん・・・いったい何が起こったんだ? お前が懐に飛び込んできたまでは覚えているんだが・・・儂は倒されたのか?」

「はい、組合長はマジョーリカちゃんに一撃で瞬殺されましたー。マジョーリカちゃんの勝ちー。」


エレーナはけたけたと笑って結果を宣言する。組合長をかばってやる優しさはまったくない。だが審判役をしていたのであれば、結果を公正に伝える必要はあるだろう。


「なんだと・・・戦闘で不覚をとったなんて何年ぶりだ? それがこんな子供にか・・・そろそろ引退を考えるべきだろうか・・・」

「ふふふ、組合長は私が武器も持たない子供だと思って油断したでしょう? 懐に飛び込まれたところで危険はないだろうって。

私は組合長が手加減してくれると知ってしまったので、思いっきり捨て身で懐に飛び込めたんですよお。敵意をもった相手だったらそんなことする度胸はありません。睡眠の魔法で済ますことはしないで、確実に攻撃能力を奪う手段に出ます。」


敗因を指摘してフォローしてやるマジョーリカであった。手加減してやったのはマジョーリカの方だということを組合長は悟ってしまった。


「ああ、まったくだ。くーっ、油断した。自惚れていたな。負けるべくして負けたわけだ。こりゃあ鍛え直さないといかん。

それにしても対人模擬戦闘で睡眠の魔法か・・・で、合格でいいんだな? エレーナ。」

「合格以外ないでしょう。別に獣を眠らせて捕獲してもいいんですから。戦闘記録にはどう付くのか分かりませんですけど。」


眠らせて捕獲することは立派に狩猟行為として認められるようだ。生かして捕獲するのは利点もあるが持って帰るのは面倒くさい。


「罠を仕掛けて狩ったのと同じになるんじゃないか? それなら問題はなさそうだな。うん合格だ、マジョーリカ。あの魔法が睡眠でなくて攻撃魔法や隠しナイフの一撃だったら儂は命すら危うかったわけだからな。十分危険回避能力と狩猟能力があることを認めよう。

獣を森で一頭でも攻撃魔法か武器で狩ってきたら3級でもいいだろう。そこまでやればそれなりの数値が記録されるだろうからな。あの速さならそうそう遅れはとらん。」

「やったー。」


ここは子供らしく喜んでおくマジョーリカだった。これ以上余計なことは言うこともすることも必要ない。


「じゃあマジョーリカちゃん、こちらで手続きを続けましょう。」

「はあい。」


マジョーリカはエレーナの後にとてとてと付いて行く。これで晴れてハンター組合員になれるようである。








そして再び場所は組合の事務所のエレーナの席である。エレーナは個人情報を登録するための書類を用意している。


「それでマジョーリカちゃんは12歳よね? ハンター組合は12歳から登録できるんだけど、15歳未満の未成年は保護者の連名が必要なの。今日責任をもてる保護者は来てる?」

「え?」


(保護者ですとお? 私が何か問題を起こしたら責任を取ってくれる人ということ? そんなのザックさんにも薬屋のおばさんにも頼めないよー。

ううう。薬草を買えないのでは薬を作って生きていけないし、ここは誤魔化してしまうしかないか・・・)


「マジョーリカちゃん大丈夫? 今日来てないのなら後日でもいいのよ?」

「ええとすいません。事情がありまして、魔法で子供の姿に偽ってました。私は本当は子供ではないんです。」


マジョーリカは年齢を誤魔化すことにした。今の姿は偽りの姿ということにする。


「え?そうなの? じゃあ本当の姿を見せてくれる?」

「魔法を解きますので驚かないでくださいね。」


(実はこれから魔法をかけるんだけどね。禁忌級魔法、『変身』っ!)


ぐぐぐとマジョーリカの身長が伸びた。身長だけでなく身体のあちこちも大人の女性らしい線になった。変身とは言うものの、これは一時的に身体を大きくしたり伸ばしたりする身体強化魔法の上位版である。ちなみに小さく縮めることはできない。

当然身体の各細胞組織の密度は薄くなるため、この状態で身体にあまり無理をさせることはできない。

そしてマジョーリカの魔女のローブはむちむちの膝上丈のワンピースドレスとなってしまった。


「あら美人さん。本当は何歳なの?」

「16歳です。この姿だと視線があれなので・・・また子供に戻っていいですか?」


エレーナは周囲を確認する。『組合長が秒殺だと?』『あの10級の組合長が?』『相手は子供だとよ。』とか何とか言ってマジョーリカを覗いていたハンターや職員たちの視線が固まっていた。主にむちむちになっている部分に向けてだ。


「なるほど・・・正当な防衛理由よね。戻っていいわ。それにしても凄い魔法ね・・・それはいいとして、今までなんで偽ってきたの?」


変身の魔法を解いてすすすーっとマジョーリカは元の12歳の子供の姿に戻る。


「私には親がいないんです。正確には行方不明ですが死んでしまった可能性が高いです。ですのでずっと1人で生きてきたんです。女ひとりではその・・・いろいろとありますので、子供の姿になって目を逸らしてもらっていたんです。ごめんなさい。」

「そうなのおー。大丈夫、私にはその気持ち分かるわよ。私は18だけどね。」

「分かりますか? うわああああん。」


エレーナに抱きつくマジョーリカ。無論演技である。同情を買えばなんとかなるのをザックで味をしめてしまったかもしれない。


「いい子いい子、辛い思いをしてきたのね。本当に男ってやつは・・・私はマジョーリカちゃんの味方だからね。もう、かわいいからマジョちゃんって呼んでいい?」

「エレーナさああああんっ。」


エレーナは膝の上にマジョーリカを乗せて抱っこしながら物書きを進め始めた。


「これで登録しておくから大丈夫よ。全部私が書いてしまったから。ここに署名して。」

「すみません。私、そんなこんなで読み書きできません。マジョーリカってどう書くんですか?」


エレーナに全て書いてもらったものの、さすがに署名だけは自分で書かねばならないことはこの世界でも同じだった。味方と言ってくれたエレーナになら読み書きができないことを暴露してもいいとマジョーリカは決心した。


「こう書くのよ。これを真似して書いてみて。うん、それでいいわ。組合員証には活字が刻印されるから大丈夫よ。出来るのは今からだとどうしても明日になるかなあ。明日来れるならそのときいろいろ説明するけどどうする?」

「明日も来ます。」


署名が終わったら何かを聞いたり書いたりする理由はなくなりマジョーリカは抱っこから解放された。薬作りは瓶が焼き上がってからとなるので、用事は今のうちに済ませてしまった方がいい。


「じゃあ朝の組合のごたごたが終わってからがいいかな。ついでに一緒にお昼食べに行かない? お昼にしましょう、そうしましょう。」

「では昼前でいいですね。その頃にまた来ます。」


なんか熱心にお昼に誘われてしまった。女子同士の話がしたいということだろうか。大人の女性の話もできなくはないが、加減が必要だろう。ともあれ食事の出来るお店の開拓に断る理由はない。


「うん、今日はマジョちゃんのあの姿を見た変なのがまだいるから早く帰った方がいいわよ。ちゃんと逃げてね。」

「分かりました。どうもありがとうございます。それではまた明日ー。」

「はあい。マジョちゃん、気を付けてねー。」


組合事務所の中にオババの姿は見当たらなかったので、すたこらさっさと薬屋に戻っていったマジョーリカ。何も知らない薬屋のオババはなんで遅かったんだとか、とっとと薬瓶を焼き物屋に注文しに行けとか理不尽にもマジョーリカを叱るのだった。

確かに1級の組合員登録だけであればあっという間に終わったのかもしれない。







そして残されたエレーナは・・・


「そういえば宝珠には12歳って出てたわよね。ということは組合員証には12歳で登録されるのよね。本当の年齢はどっちかと言うと・・・やっぱり12歳?

ああ・・・ここは私が泥を被るしかないのかしら。親はいないって言うし、保護者のあてはきっとないのよね。」


エレーナは事実を悟り、こっそりと申請書の保護者欄に自分の名前を書き、組合員証の作成依頼に回した。


「でもマジョちゃんの抱き心地は良かったなあ。あれは私のものよ。うふ、うふ、うふふふふふ・・・」


男どもの怪しい視線は回避したが、危険な女にロックオンされてしまったマジョーリカであった。

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