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神様との出会い

「うう、ん・・・どこかしらここは?」


女は目を開けると飛ばされて場所が変わったのに気付いた。視界はすべて真っ白な場所である。さっきまでいた自分の世界はどこにいってしまったのか探してみるが見当たらない。


「おや、お客さんなんて珍しい。」


これまた男・・・のような存在が何やら作業中の姿勢から振り向いて語りかけた。先ほどの神様より年長っぽい雰囲気で、彼?がどうやら神様の神様っぽい。


「ええと、マジョーリカと言います。神様に飛ばされてやって来ました・・・のはずです。」


女は名乗ってぺこりと頭を下げる。今更ながら、この女の名はマジョーリカと言う。シャレでもなんでもなく実名である。

神様の神様は何が起こったのか分からない様子で首を傾げた。


「『神様』? 誰だいそれは? ああ・・・なんか情報が来た。ふむふむ。君はあの彼から押し付けられてしまったようだね。」

「ええと、神様の手に余ってしまったようで、神様の神様・・・たぶんあなたに魂を消滅してもらうんだそうです。」

「『神様の神様』? ああ・・・その情報も来た。君は僕たちをそのように認識しているんだね。別にいいよ。『神様』でも『神様の神様』でも。」


何か状況が伝わる連絡手段があったようである。神様の神様はそれで納得した様子なのでマジョーリカは話を進めることにした。


「ではよろしくお願いします。」

「おや、消滅することでいいのかい?」

「へ?」


マジョーリカにとって予想外の反応が返ってきた。消滅して成仏か往生かするのではなかったのか。それでいいと覚悟を決めたのにまだ何か問うというのか。


「ああ・・・消滅させることができなくて押し付けられたわけか。ううん・・・どうしようかな・・・」


神様の神様は腕を組んで首を捻って考え込んでしまった。マジョーリカはもういい加減にしろといった目で睨みつける。魂が消滅して自分の認識では天国か地獄かに行くはずなので、そこがどのようなところなのか想像していた最中だったのだ。


「ええと、私はもう煮るなり焼くなり好きにしろといった覚悟でここに来てるんです! さっさと一思いにやってください! 生殺しなんて神様のすることじゃない!」


ポン、と手をたたく神様の神様を見てマジョーリカは文句をだらだらとつけるところを中断する。


「ああ、ごめん。君の魂はすごく大きくて重くてね。それで彼の手には負えなかったんだけど、消滅させるにはもったいないかなあ、と僕は考えていたんだよ。」

「はあ? 消滅しないで私の魂はどうなってしまうんですか? 地獄の入り口で延々と石を積み上げろなんて言わないわよね?」


マジョーリカは座り込んでしまった。勿体ないとはどういうことだ。納得して覚悟は決めてあったのだから、何するにしても納得させてもらいたいものである。


「地獄? 多分そんなところに行かせるつもりはないよ。ええとね、君の魂の存在は僕たちの存在に近づいて来ているんだ。どうだろう、君の言う『神様』になってみないかい?」

「はあああああああああ? 私が、神様?」


マジョーリカは開いた口が塞がらなくなっていた。ポカーンと間抜け面を晒してしまうのだった・・・









しばしの沈黙の後、マジョーリカが再起動したらしいのを見て神様の神様が切り出す。


「ええと、いきなり『神様』というわけではないよ。『神様』と言った方が君には分かりやすいみたいだから以後『神様』と言うね。

まず世界を観察することから始めて、世界をあるべき方向に導くために干渉するべきかどうか見極められるようになるんだ。」

「はあ・・・見習いみたいなものですか?」

「そのようなものだね。見習いというより最初は見学からかな?」

「あは、あは、あははははは・・・神様の見習いというか見学・・・そんなのあるんだ・・・神様になるのも大変なんですね。」


マジョーリカの思考は停止寸前となっている。なんか自分のような偉くもなんともない存在でも見学して研修を積めば神様になれてしまうのだったら世界は恐ろしいことになりそうだ。だが、神様の神様は説明をやめない。


「うん。いきなり世界に干渉したりしてしまっては、方向を誤ったり世界の人々がびっくりしてしまったりするからね。ちゃんと要領を覚えてちょっとずつ練習してからだね。」

「うわあああ・・・海が割れたり神風が吹いたりって、あれは神様の仕業だったんじゃ・・・」


マジョーリカは神様がやったと思われる話があることを思い出した。神話として伝わっているあれが本当に神様がやった世界への干渉だというなら驚きである。


「あはははは。『神風』って、君がいた世界で彼は自分の存在をばらしてしまったのかい?」

「ええと、ばれてはいないと思いますが、そのような存在がいるのかなあ? みたいには思われているかもです。どこかで姿を見られたりでもしたんじゃないですか?」

「ははは。彼は干渉のしかたが大胆だねえ。しっかり観察して勉強すればもっと上手に干渉できるようになるかもしれないよ?」


念のため、海が割れたり神風が吹いたりというのは人々の妄信・・・のはずである。それが本当に神の仕業というなら、神様の正体を知ってしまったがゆえにちょっと人類は救われないと思ってしまった。なぜなら神様は戦争上等の態度だったから。


「でも、もうあんな世界のことはどうでもいいです。私は関わりたくありません。」

「いやいや。彼の世界は彼のものだから。君が関わるのは僕の世界の方だよ。」

「え、あの世界とは別の世界があるんですか?」


マジョーリカにとって世界とは唯一地球世界のことだった。マジョーリカは一神教以外の宗教も知っているので、地球世界のある一部の理でも司る神様になるのかと思ってしまっていたのだ。

だがマジョーリカが神様になれと言われているのは地球世界でのことではないらしい。


「もちろんだよ。ちょっと見てみるかい?」

「ぜひぜひ。お願いします。」


神様の神様は窓のようなものを拡大してマジョーリカに見せた。マジョーリカも異世界に興味がわいてきたようだ。

ここまできたら何でもありである。驚いているのはもったいないと、すべてを受け入れる姿勢を示す。


「どうだい? 彼の世界とは違うだろう?」

「うわあ・・・本当だ・・・全然違う・・・大陸がひとつしか無いし、世界がなんというか、小さいですよね?」


見せてもらった世界は一見元いた地球世界と似ている惑星のようなものだが、規模が非常に小さなものであった。星全体を見たり建造物の様子を見たりと拡大縮小が自在にできる便利な窓であった。


「うん。なんというか、試験的に作ってみた世界なんだよね。大きな世界でやる前にちょっと様子を見てみようといったみたいな。」

「はあ・・・人は少ない方がいいです。増えすぎて混みあってくると必ず争いが起こるし。そういうの散々見てきましたから。」


マジョーリカは人類が戦争を起こすのを散々見てきた。勝っても負けても一般人には何もいいことはなかったのだ。戦争なんてやるだけ無駄な愚かな行為だと思っている。


「ははは。人の密度が高いとお互いの関係が複雑になって分かりづらくなるからね。一応そんなには増えないようにしているつもりだけど、ある程度群れて集まってしまうのは仕方がないかな。」

「そういうのは仕方がないですね。ふうん・・・ああ・・・これならいい感じの集まり具合かなあ。

文明は私のいた世界よりちょっと前といった感じね。まだ派手な機械や兵器とか存在しないでいい感じ・・・」

「どうだい? 気に入ってくれたかな? 僕は他にも管理している世界があるから手伝ってくれると嬉しいんだけどね。」


神様の神様はマジョーリカの方に向き直った。マジョーリカが見るに、自分が死んだ時代に対して1,2世紀くらい前のような感じだろうか。産業が一気に革新する前であることは間違いないようである。


「少なくともあの世界よりは全然いいです。でも、見学ってどうするんですか? その窓からじいーっと眺めているなんて私は耐えられませんよ?」

「ああ。見学というのはだね、実際にあの世界に行って生活を実際に体験してみるんだよ。一人の住人としてね。」

「ふわあっ、転生するような感じですか。でも私魔女ですよ? みなさんびっくりしませんかね?」


見学とは生で直視しろということらしい。そんなことも神の御業ならできるということか。それはいいとして、単身で乗り込むなら魔法に頼ってしまうと思うが大丈夫だろうか。


「ああ、大丈夫。この世界は魔法を使う人間は珍しくないよ。なんだったら、そのような人が多い場所から始めるといいんじゃないかな。」

「おおお・・・そのような世界なら私馴染めるかも・・・」


ちょっと乗り気になってきたマジョーリカである。元の世界では魔女は忌み嫌われて迫害の対象だった。自分の一族や仲間以外に魔法を使う者がいるというだけで期待に胸が躍るのであった。








マジョーリカがあれこれと想像しているのを神様の神様はのんびりと見守る。それにマジョーリカがやっと気づいたので話を再開した。


「ううーん。やる気になってきたかな? ではさっそく見学してみるかい?」

「ええと、ええと、ええとおおお、見学に行く前にあれこれ確認させてくださいっ。私は誰かの子供として生まれてくるんですか? それともこの身体でどこかにいきなり現れるんですか? それとも実在する誰かの魂を乗っ取るとか・・・」


マジョーリカは転生するときの作法を思い出す。どのような手順で転生するかによって、準備と心構えが変わってくるのだ。


「どれでも可能だよ。好きなのを選んでくれるといい。」

「おおおおお。さすが神様、至れり尽くせりいいい。

どうしよっかな。どうしよっかな。どうしよっかな・・・・赤ん坊や幼児は身体が育つまで不自由だし、誰かに乗り移るのはその後の人間関係が複雑だし、やっぱり独自の存在でこの身体で降臨するのがいいかなあ・・・」


降臨とかもう、かなりやる気満々である。既に神様かその御使いにでもなったつもりらしい。その降臨する作法をどうするか再確認して考えをまとめる。


「決まったかい?」

「ええっと、この身体でマジョーリカとして行くとしまして、年齢って変えられたりします? いい大人がこの世界の常識を知らないのはいろいろと不都合がありますし。」


転生でも転移でもなく降臨するのだが赤ん坊はちょっと困る。かといって今の年齢というのも不都合が大きそうだ。年齢を変えられないのなら考え直さないとならない。


「ああ、いいよ。何歳にする? 具体的に数字を言ってね。」

「おおお・・・どのくらいにしよっかな・・・ある程度成長した身体で常識をわきまえてなくても許される年齢・・・となると未成年よね。成人ちょっと手前がいいかな? すいません。この世界の成人年齢っていくつくらいでしょ?」


成人していたら働かないとならず、常識をわきまえていないと仲間外れにされかねない。だがそれさえできれば、生活手段を獲得する行動にすぐ移れる年齢が一番いいだろうと考えたのだ。


「成人年齢? ううん、人間が勝手に決めてる大人の基準なんて興味はないなあ・・・身体や知能の成長度合いなんて人それぞれじゃないかい?」

「ああ、すいません。そういう社会習慣なんて神様は興味ないんですね。ええとどうしよ?

あまり幼いと子供扱いされて面倒だし、うーん。12歳くらいかな? 12歳なら常識知らなくても許されるでしょう。うん、12歳に決定。12歳にしてください。」

「わかった。12歳にしてみたよ。身体の具合はどうだい?」


準備する間もなくすすすーっとマジョーリカの身体が縮んだ。自分の手足を眺めてみるマジョーリカ。衣服も適当に縮まったようである。服や下着がすとんと落ちるようなことはなかった。


「おおお・・・若返った・・・お肌もぴちぴち・・・素晴らしい。って、声も若返ったじゃない。かわいいかわいい。

えっと、服や持ち物とか、生前の物が欲しいんですが・・・」


マジョーリカは子供の身体を得たことに喜びを隠さない。人生このくらいの年齢が一番夢と希望に満ち溢れていたものだったのだ。だが火あぶりされたときの囚人服のままではちょっとその雰囲気にそぐわない。


「ここは実体世界ではないよ。精神世界だから、しっかり思い出してごらん? 僕が出してあげる。」

「ああ、想像してみるんですね。やってみます。」


マジョーリカは自分が過去に着ていたものと持っていたものをぐっと堪えるように想像してみた。

魔女のローブ、魔女のとんがり帽子が12歳のマジョーリカのサイズで着替えたように現れた。マジョーリカお気に入りの鮮やかな青色に染まっている。

とんがり帽子の中に隠されている魔女の装備品もしっかりと再現されているか、帽子を取って裏返してみて確認した。


「おおっし。私の想像完璧。」


どうやって確認したのか不明だが装備品は格納されているようだ。想像通りの物が手に入ったことに満足する。


「大丈夫かな? 忘れ物はないかい? 実体世界に行ってしまったら実際に自分で手に入れないといけなくなるよ?」

「おおっと、一文無しは困るー。この世界のお金ってどんなのですか?」

「えええ、何種類もあるよ。国や場所によって違うみたいだけど・・・それに厳密に正確に想像しないと偽物になりかねないよ?」


お金は欲しいが自分はもちろん神様も詳細を知らないようだ。適当に作ったお金が使えないことは想像に難くない。考えてみたら神様にお金など必要はなかった。成人年齢と同じくらい興味はないのだろう。


「ああ、そうですね・・・手っ取り早く換金出来るものの方がいいかなあ。金塊・・・じゃ大きすぎて子供がもってたら怪しいから、粒のような塊で持っておこうかな。」


マジョーリカが想像すると金の粒がジャラジャラっと入ったかわいい意匠の巾着袋が現れた。マジョーリカはそれを腰にくくりつける。前の世界の常識で金ならお金にできると出してみたが、今度の世界で通用するかは不明であることをマジョーリカは考慮していない。


「こんなものかな。後は魔法でどうとでもなるでしょう。」

「そうかい? じゃあ、降りる場所を決めようか。魔法を使える人が多いところというとこの辺りがいいかな。

更に、人の多い街中か、それとも人の少ない田舎の方とどちらがいい?」


2人は再び窓のようなものの前で世界を確認する。ぐぐっと拡大すると人々が生活している様子が見えてきた。


「うーんと、街中の方が情報は得やすいですよね。けど、常識も言葉も分からない子供が現れたら異端者扱いされてつまはじきかなあ。都会の人は冷たいもんね・・・田舎からぼつぼつと馴染んでいった方がいいかなあ。」

「ああ、言葉が通じないのは覚悟しているんだね。君はいくつも言葉を喋れるみたいだし、似通った言葉があるといいね。田舎というとこの辺りになるけど、具体的に指示してくれていいよ。」


どうやら言語はまっさらから習得していかないといけないらしい。だがそういう作法の経験はある。面倒ではあるが不安ではなかった。


「神様は私の言葉に合わせてくれていたんですね・・・しかも瞬時に。さすが神様。

そして、うんと、うんと、町の中にいきなりはまずいし、ああ・・・街道の馬車の休憩所があるー。

ここで商隊に出会って冒険の始まり・・・なんて物語を読んだことがあるなあ。うん、ここにしよう。そうしよう。」

「あはは、確かに冒険だね。では、ここでいいかい?」

「ええ、お願いします。」


マジョーリカの覚悟は決まって、装備も整えて降臨する場所も決めた。すると神様の神様は周囲から距離をとった位置にマジョーリカを立たせ、何やら呪文っぽいものを唱えた。


「じゃあ行くよ。そうれっ。」

「ひやあああああああああああああああ・・・」


またしてもマジョーリカは飛ばされて行った。今度は神様の神様が作った世界に放り込まれていった。

そして『神様』と『神様の神様』はマジョーリカの中ではどっちでもいい『神様』になっていた。神様がこの2人だけとは限らないと想像できたのだ。自分が簡単に仲間にされそうになっているのだから。

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