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魔物を討伐して吊るし上げ

「さあ、今日が同伴指導の最終日ね。どちらが指導してもらっているのか微妙だけど。」

「えー。エレーナさんに着いてきてもらわないと、私どこにも行けませんよお。」

「うふふ。同伴は最低3回記録するというだけで何度やってもいいのよ。お休みが取れれば優先して付き合うし、この3日間私も勉強させてもらったわ。

実際6級に昇級してしまったものね。で、今日は何を採りたい?」


朝の組合事務所の待合スペースで打ち合わせをする二人。この時間帯の慌ただしさにも慣れてきてハンターらしくなってきたマジョーリカであった。


「ええとですね。今日は回復薬の薬草を採りに行きたいです。」

「回復薬って魔力の回復薬のことよね。その材料となるとプロテインということかしら?」


治癒薬、浄化薬に続き今回は回復薬である。この3つが魔法薬の3大商品と言っていい。魔法薬としない薬も出回っているが、薬効成分だけを抽出して凝縮して魔法処理した魔法薬は効果は絶大で即効性があり、同じ量の薬草から得られる用量も多くて稼げるのだ。

マジョーリカの元の世界では魔女の秘薬として非常に価値が高かったのである。これらの薬のせいで魔女が狙われるようになったとも言える。


「はい、プロテインの薬草です。」

「うーん、プロテインか・・・正直言うとあまりおすすめできないわ。」


珍しく? いつもはぽやぽやなエレーナが深刻な表情となった。


「どうしてでしょう? 理由が明らかなのであれば諦めますけど。」

「ええとね。プロテインは魔力の高い場所に生えると言われてるの。だから魔力の回復薬になるんでしょうけど。」


プロテインの薬効成分がなぜ魔力の回復を促進させるのかは全く分かっていない。プロテインが魔力を吸って凝縮させて蓄積している、というのが通例である。


「はい、その通りです。下級から上級まで回復薬を作るのにプロテインは欠かせません。」

「でね、そういう魔力の高い場所には魔物がよく出現するのよ。私も6級になったから少々の魔物は狩れて当たり前にならなくてはいけないんだけどね・・・6級ってそういう級だし。」


理由に納得したマジョーリカは一息ついた後切り出した。


「そういうことなんですね。分かりました。プロテインは諦めます。」

「わ、そこまで簡単に諦められるとお姉さん責任というか無力さを感じてしまうわ。ふう、5級のままだったら素直に謝ってしまうんだけど。」


エレーナが嫌がっていることを察したマジョーリカはあっさりと諦めた。魔物というのはそういうものらしい。


「いえ、エレーナさんが無理をすることはないです。そういう自分の掟のような直感って大事にするべきなんですよね?」

「そうなんだけどね。でもねマジョちゃん。今日の同伴指導期間を過ぎたら、マジョちゃん絶対にひとりでプロテイン採りに行くでしょ?」


マジョーリカの魂胆はあっさりと見透かされていた。


「うっ、見透かされてる・・・」

「あそこまであっさり引き下がられたら分かるわよ。それなりに自信はあるということね?」

「なくはないですが、いざというとき逃げ切る自信はあります。」


エレーナはため息をついた。マジョーリカに悪びるつもりは全くない。本当に駄目なら箒に乗って逃げればいいのだから。


「組合長を倒したときの例のやつね。うん、あれなら逃げ切れるわね。はあ・・・私も覚悟を決めるかあ。保護者だしね。被保護者を一人で危険に放り込んで問題を起こさせるわけにはいかないわ。」

「すいません・・・でも私、ちゃんと薬を作れるようにならないといけないんです。お世話になったザックさんや薬屋のおばさんに報いるためにも。」


マジョーリカは熱弁を振るう。うるうるしてるのは演技ではあるが。


「そんなに大げさにならないで。マジョちゃんがあの風の刃の魔法を躊躇なく放てれば魔物なんて多分問題ないわ。ただ、ちゃんと対処できるか保護者として指導員として確認しなくてはというだけなのよ。

むしろ問題は私の方にあってね。今の私ならちゃんと対処すれば魔物を単独で狩れると思うんだけど、魔物にはちょっとあってね・・・」

「んー、分かりました。魔物が出たら私が対処します。エレーナさんは後方に控えて必要とあれば援護して指導してください。」

「そうすれば間違いないんだけどね。マジョちゃんが魔物を狩ったとなると騒ぎになるんだろうなあ。遅かれ早かれそうなるんだろうけど、私が同伴しているうちに起こった方がましかあ。ふう・・・保護者になった宿命ね。」


マジョーリカは何かいろいろありそうなエレーナがしぶしぶ納得してくれたことを理解した。


「すいません・・・巻き込んでしまうみたいで・・・」

「いいわよ。覚悟はできたわ。その代わりマジョちゃんも覚悟なさい。」

「なんの覚悟かよく分かりませんが・・・分かりました。なんでもします。」


(よっしゃああああ、言質はとったああああ。これでもう、あんなことやこんなこと・・・うふ、うふ、うふふふふふふふ。)


エレーナは人生最大に気合が入った。これなら過去より魔物に対して引きずっているものなど何も怖くはない、乗り越えられると実感したのであった。非常に不純な動機であることはまったく問題にしてはいない。いざ出陣である。







プロテインの自生地は森の中でも深くまで立ち入ることとなる。濃い魔力を感じる森の中でもさらに濃い場所に向かうのだ。


「そろそろね。」

「そろそろなんですか?」


プロテインの自生地の手前までやってきた。もう後には引き返せないというわけではないが、これ以上進むためには魔物と遭遇する覚悟を決める必要があるようだ。


「プロテインは希少というわけではないけど大事な薬草だからね。魔物を狩れる人はついでに持って帰れるだけ刈っていくわ。そういう薬草ね。」

「そうやって流通してるんですね。刈れるようになりたいです。」


それなりの狩猟能力がないと採集してこれない薬草なのである。魔力回復薬を作ることができる人はいるが、材料が手に入らなければどうしようもない。


「そうね。見えたわよ。もっさり生えてるわね。」

「おお、これがプロテインの自生地・・・確かに希少なものではないですね。もっさりです。」


そこにバサバサバサとクロウが舞い降りてきた。まだ内臓はない。魔物を見つけたら教えてくれと頼んであったのでそれだろう。


(お嬢、いるぜ。とりあえず一体な。)

(ありがとう。追加で出てこないか継続して監視をお願い。)


「なあに、マジョちゃん。その鳥さんはこの間から付いてきている鳥さんよね?」


近寄ってきたエレーナに状況を説明する。


「ええ。彼には魔物が分かるみたいなんです。準備してください。」

「ええと、よく分からないけど分かったわ。自分で何言ってるんだか変だけど魔物がいるということね?」

「はい、あ、あれですね。」


黒ずんだ表面の獣っぽい生き物が見えた。近づいてきてこちらを窺っているようだ。


「うん、間違いないわ。大型のイノシーが魔物化したものね。魔物は人間を見たら襲ってくるわ。やるかやらないか決めるなら今よ。」

「やります。」

「分かったわ。こっちはいつでもいいわよ。」


エレーナは矢を引き絞り狙いを定めている。先日のような油断はなく、引いてる手にはさらに2本の矢を指に挟んでいる。まだ有効な射程に入っていないため待機の状態だが、既に剣鉈の鞘のホックも外した。

この場合の有効射程は矢の届く範囲ではなく、風の魔法で誘導できる範囲となっている。


「えっ、速いっ。」


マジョーリカは魔物の予想外の動きに面食らって、とっさに放った風の刃を外してしまった。慌てて視力を強化する。


「やあっ。」


風の刃の次弾を放とうとするマジョーリカの視界の中で魔物にエレーナの放った矢が命中した。矢は急所は外れ致命傷には至ってないが、魔物の動きを鈍らせるには十分だった。

エレーナと魔物を結ぶ射線にマジョーリカが重なっていたが、見事に無理矢理迂回させて当てたため、急所を貫けというのは無理な注文というものだろう。

そのおかげで落ち着いてとどめを刺すには十分な時間が得られた。マジョーリカは練っていた風の刃で魔物の首をすぽーんと飛ばして戦闘は終了した。


「ふうううう。緊張しましたー。」

「さすがのマジョちゃんも外してしまうことがあるのね。でも冷静だったわ。」


魔物の動きの速さは予想外であったが視力を強化して細部まで睨みつければ次の動きが予測できた。遠距離攻撃が主体のエレーナは睨みつけるのが常態化してるので、半分無意識に視力を強化しているのだろう。


「なんとかでしたね。エレーナさんの援護があってじっくりと落ち着けました。」

「それは良かったわ。お姉さんの面目躍如ね。あ、見て。あれが魔物の最期よ。」


魔物の身体が崩れるように粉となっていく。粉の山の中に輝く物体が見える。それが魔石だ。


「マジョちゃん。魔物初討伐おめでとう。魔石を回収なさい。お姉さんが周りをちゃんと見てるから。」

「おお、これが生の魔石。まだ暖かいし。」


魔石に生も何もないと思われるが、獲れたてはまだ体温が残っている。魔石が何でできているかは全くの謎である。


「ふふふ。ひとしきり余韻に浸ったら今のうちにプロテインを刈ってしまいましょう。彼も監視してくれているのでしょう?」

「さすが6級ハンターは冷静ですねー。ではお言葉に甘えてザクザクといきますー。」


初めて手に取った生の魔石はやはり水晶玉のような感じだった。元の世界では水晶玉をあれこれと加工して魔力を充填できるようにして使っていたのだが、それにそっくりである。







大漁旗を上げようかというくらいプロテインが刈れた頃、また一体魔物が自生地に現れた。今度は魔物の動きをしっかりと見据えて一発で仕留めることができて自信がついた。

念のため躱されて飛び込まれたときのために大鎌も振りかぶっていたのだが出番はなし。魔石を回収したらそそくさと森を脱出する。


「ふう、2体狩ってやっと手応えを感じてきました。」

「速さが違うものね。ちゃんと狙えるように目が追いつかないと手も足も出ないわね。」


やはりエレーナには魔物の動きがちゃんと見えているようである。視力を強化しているのだろう。


「エレーナさん1体目のときとんでもない矢の当て方をしましたよね・・・びっくりしました。」

「所詮はイノシーだからね。速さが違うだけで動きは同じだから先を読めたわよ。マジョちゃんに当てないようにちょっと工夫しただけ。でも急所を捉えきれなかったのは惜しかったなあ。」


どうやら本気になるとエレーナはかなりの腕なのでは? そう思ってきたマジョーリカ。


「エレーナさんは魔物を何度か狩ってるんですよね?」

「チームとして狩ったことはあるけど、とどめを差したことはないわ。以前は矢の威力が足らなかったもの。でも牽制や援護で当てるだけならそれなりにね。」

「エレーナさんってかなりの腕前のハンターだったのではないですか? どうして職員をしているんです? まだ若いのに。」


ちょっと考えてからエレーナは口を開く。


「まあお姉さんにもいろいろあるのよ。いずれお話しすることになるわ。それまでいじめないで。」

「いじめないですよお。」

「うふふ。マジョちゃんだあいすき。もう食べちゃいたいくらい。」

「ひやあ。」


マジョーリカはしっかりとエレーナに捕獲されてしまった。エレーナはいろいろな意味でハンターである。







反省会から女子トークまで進展したころ、二人は組合に着いた。魔石を買取に出すには討伐結果を報告しなくてはならない。マジョーリカはおずおずと買取カウンターに魔石を2つ並べる。


「買取をお願いします。」

「おう、誰が獲って来たんだ? 拾ってきたわけでもあるまい。」


脅すわけではないが疑いの目を向けるカウンターの職員。


「私です。」


なぜこんな目に遭わなくてはならないのか理不尽さを感じているものの、その理由は聞かされているので後には引けないマジョーリカ。エレーナもちゃんと後ろに控えている。


「嘘を言っちゃいけねえ。何かの冗談か? エレーナ。」

「嘘でも冗談でもないのよねえ。その魔石の主を狩ったのは間違いなくこのマジョーリカちゃんよ。私がこの目で見たもの。」


買取職員は明らかに納得できてない表情でマジョーリカに向き合い直す。


「何級だい? えっと、マジョーリカちゃんだったっけ。」

「3級です・・・」


3級と聞いて職員がさらに驚くがどやしつけることはしない。いわゆる大人が子供に言い聞かせる態度ということだ。


「3級が魔物を狩ってくるということはだ、まあいろいろ聞かなくてはならないことがあるな。どうせ組合長にも報告することになるんだろう。エレーナがいるんなら直接行ってこいや。ああ、魔石は鑑定しておく。」

「手間取らせて悪かったわね。マジョちゃん、行きましょう。」

「はあい。」


3級ハンターが魔物を討伐するということはそういうことらしい。余計な手間をかけず、とっとと組合長に報告しろということになった。








気分は首根っこを捕まれた子猫のように組合長の席の前に連れてこられたマジョーリカである。ここはエレーナが報告する。


「組合長。報告したいことがあります。」

「ん、何だ。今日が同伴指導の最終日だったんじゃなかったのか? 深刻な話か?」

「当事者にとっては深刻というほどではないんですけど、驚いて大声を出されては周りに迷惑が及ぶかもしれません。」

「分かった。この子のことだからな。会議室に行こう。」


公衆の面前で声を張り上げるわけにはいかないと、会議室の扉を閉めて長椅子にどっかりと落ち着いて、ふんぞり返って腕を組み、さあどんとこいと言わんばかりの姿勢をとる組合長だった。


「で、何だ。派手なヘマでもかましたか?」

「ええと、魔物を狩ってきました。この子が」

「ほお、そこまでか。」


意外と冷静だった組合長。心の準備はできていたのかもしれない。


「あら、驚かないんですか?」

「儂は秒殺されたものの直接対峙したんだぞ。ただ呆けていたわけではない。実力の片鱗くらいは見定めたわ。儂をなめるな。」

「すいません。あの時のことは私にはほとんど何も見えなかったので。さすが10級ですね。」


感心されたとはまったく思っていない組合長は咳払いした後口を開く。あの時もエレーナにはけたけたと笑われていたのだ。


「問題はだ。魔物が出ると分かっている場所にお前らが行ったということだ。」

「うっ、そこを追求しますか・・・私も迷ったのですよ。でも遅かれ早かれ彼女は薬草を採りに行ってしまいますから、指導員の私が随伴している時にしたんです。

ですのでこうして報告できるんです。彼女ひとりから説明を受けても信じられないでしょう?」

「ものは言いようだな。で、どうだったんだ。苦戦はしたのか? とりあえず被害はないようだが、被害が出たならお前の処遇も考えなくてはならん。」


討伐の顛末を一から説明したエレーナ。これ以上追求されても面倒なので飾りもせずに淡々と。


「一撃で首を飛ばしただと?」

「ええ、一体目は多少面食らったところはありましたけど、苦戦という状況には陥りませんでした。私も援護しましたし。」


一撃というのはさすがに驚いたらしい。動きの速い魔物を相手に大打撃を入れるのはなかなか難しいものなのである。


「そうか。やろうと思えば儂も同じような目に遭わされたということか。」

「そんなこと考えたくもありませんけど。」


組合長は視線をマジョーリカの方に移して語りかける。マジョーリカの実力を認めざるを得なくなった。


「分かった。マジョーリカ、お前は4級だ。実力はもっと上なんだろうが、現場の経験ってのを侮ってはいかん。それは分かるな?」

「ええと、いいんですか? 何かこうポンポンと・・・」


マジョーリカに昇級を喜ぶ雰囲気はない。昇級させる理由をきちんと説明する必要があることを組合長は察した。


「本来は昇級するのには実力や実績があっても1年は経験を積ませるんだが、10級組合長というのはそれが許されるんだ。

そうするのはこれ以上買取の担当に手間をかけさせるわけにもいかん、ということだ。4級でも魔石を持って来られたらびっくりするだろうが、それは儂から話しておく。」

「なんかお手間取らせましてすみません。」


理由というのは魔物の討伐の度に毎回毎回こんな騒ぎになっては面倒だということだ。ならば昇級させてしまえということである。


「その代わり無茶はしてくれるなよ。お前の目的が薬草だと言うから、ということでの処置だ。組合と町に貢献しろ。」

「はい。私の薬草を守るために討伐します。」


分かってもらえたの微妙だが、これで納得しておくしかないと組合長は諦めた。


「ええと、まあ、それでいい。エレーナ、手続きしておけ。」

「ええ、それでは。マジョちゃん、本当に未成年で6級になってしまいそうね。」


6級になれば口座を開くことができて嬉しいが、それは成人することでも叶うことである。時期的にそんなに違いがあるとも思えないがどうだろうか。


「6級、6級っていろんなところに出てきますよね。何か特別な意味でもあるんですか?」

「上下で分けたら上になるからね。一人前と認められる指標になるのよ。私もやっと一人前というわけ。」


そこに組合長が補足する。


「そういうことだ。エレーナが5級のままだったらさっきの話もそのまま受け取るわけにはいかないぞ。一人前の6級ハンターの言うことだから無謀なことではないのだと、話をちゃんと聞いていたんだからな。」

「おおおー。姐さん、今後ともよろしくお願いします。」


朝の打ち合わせでもエレーナは言っていた。6級に昇級していなかったら魔物が出るのを覚悟しなくてはならない場所への狩猟採集に行くつもりはなかったと。


「うふふー、お願いされちゃうわよー。さっそく明日は引っ越していらっしゃーい。」

「はあい。」


とりあえず急場をしのいで、これで堂々と薬草を採ってこれるようになったマジョーリカであった。エレーナの余計なスイッチの釦をを押してしまったような気がするが・・・

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