4 必要ない
今は亡き小国ムナント王国。大国に囲まれているが、特に隣国との仲は悪くなく、平地の多い国という、特に特徴がない国だった。
どこにでもあるような国。脅威にもならない小国。そんな国から始まった侵略は、周囲の大国にも及んだ。
侵略してきたのは、魔族と呼ばれる者たちだった。
魔族、それは今までにはいなかった、魔物の力を持った魔物を従える人型の生物。魔族は唐突に現れ、一夜にしてムナント王国を掌握し、ムナント王国には人間一人として残らなかった。
周囲の大国は、ムナントを滅ぼした魔族を抑え込もうとしたが叶わず、ムナントと同様の末路を迎えた。
人類は団結することを決めたが、国は次々と侵略されていき、遠く離れた国の話だと思っていたパグラント王国の隣国、タングット王国にも魔の手が伸びた。
そして、そうなって、やっとパグラントは決意したのだ。
「召喚のギフトを・・・プレイナの力を使うことを決めた。タングットは、もってあと1か月・・・いや、1週間持たないかもしれない。そういう状況になってやっと、国は君を召喚することにしたんだ。」
「・・・ずいぶん遅い決断だね。」
「誰が召喚されてくるかわからないからね、慎重になっていた。召喚する者を選ぶことができればと研究もされたけど・・・時間の無駄だったね。」
魔族が現れる前は、召喚のギフトは封じることが義務付けられていた。正確に言えば、中位存在を召喚することは禁止されていたのだ。
召喚できるのは、下位存在、中位存在、上位存在の3段階あり、それぞれランダムで召喚される。
下位召還では、下位の存在・・・一般的には虫などが召喚される。中位召喚では、下位存在か中位存在が。中位存在は、動物・・・ネズミから人間と幅広い分類だ。
そして、上位召喚。これは、いまだに召喚に成功した者はおらず、何が召喚されるかわかってはいない。だが、召喚のギフトには、上位召喚があるとされていた。
それぞれ召喚される生物が違うが、どの召喚も普通の同種よりも特殊な存在、生命力が強かったり、虫が魔法を使ったりなど、自然界では存在しないような能力を持っていたりする。
それが人間なら、ギフト持ちが召喚される。それが召喚のギフトだ。
召喚のギフトは、召喚者自身手に負えないようなものが召喚される危険がある。それが、まだ虫程度ならしようがあるが、動物になってくると難しい。
下位存在は、召喚者に従うが、中位存在、動物の場合は召喚者に従わないことがある。特に人間となると、時に召喚者を殺すこともあり大変危険だ。
そんな危険なギフトが封印されるのは当たり前で、封印されていたせいで召喚のギフトはあまり研究されておらず、その能力は不明な点が多い。
能力を使えないのならば、どのような現象が起きるのか、状況を把握することもできず、研究は憶測・・・妄想の域を出ない。
過去の歴史書とにらめっこをし、下位存在が召喚される様を観察し、書き留める。それから出た答えなど、ただの研究者の妄想でしかない。
そんなことをして、研究の結果が出るわけがない・・・期間も短すぎた。
「もっと早くに、選択肢として召喚を入れておけば、結果は違ったかもしれないけどね。たった1年未満でわかることなんて、ホント些細なことだよ。話はそれてしまったけど、君を国が召喚したのは、ギフト持ちで私達よりも強い力を持っている君に、この国を守って欲しいからだ。」
「・・・この国を守る?」
「そうだよ?その反応は、意外だと思ったの?」
「・・・魔族を滅ぼせ・・・と言われるかと思った。」
「それができれば確かにいいかもしれないけど、一番大切なのはこの国が存続することだからね。それに、この国が踏ん張れば・・・人類の危機的状況は緩和される。欲を言えば、タングットに踏ん張ってもらいたいけど。」
それは無理なのだろうということが、ケイレンスの表情を見ればわかってしまうカンリ。でも、カンリが行けば・・・などとカンリの頭によぎったが、冗談ではないと否定する。
カンリは、強い。強くなった。それは感覚でわかっていたので、ちょっとやそっとのことでは死なない自信はある。そして、屈服させることもできる力があることが分かっている。
おそらくそれは、ギフトによるもの。しかし、ギフトがあるからと言って、カンリは最強になったわけではない。力があったとしても、その力を生かせなければないのと同じだ。
「タングッドが踏ん張っている間に、カンリには戦い方を教える。」
「結構。」
「・・・それは、どういうことかな?」
戦い方。それは、今後魔族と戦うカンリにとって必要なことだと、カンリはわかっている。なら、なぜ断るのか?
別に、魔族と戦うことを放棄するわけではない。放棄するのではないかと、ケイレンスが不審そうな目を向けてきたので、そこははっきりと否定する。
「この国を守るため、私は魔族と・・・戦う。けど、訓練の必要はない。」
「・・・理由を聞いてもいいかな?まさか、君は剣の達人で、教わる必要はないとか言い出さないよね?昨日の蹴りを見たけど、どう見ても素人のものだったし。」
「そうだよ、私は素人。ケイレンスたちは、何かしらならっているんだよね?」
「あぁ。剣と魔法、両方ならうからね。」
「それなのに、素人な私に蹴り飛ばされた。それが答えだよ。」
つまり、カンリは自分の方が強いから必要ないと、過信しているのだ。
その様子にケイレンスは頭を抱えて、アスレーンはどうしようもない奴を見るような目でカンリを見つめ、同じく見つめるプレイナは心配げな表情をしていた。
「私、強いから。」
自信満々に言い放つカンリを見て、ケイレンスはろくでなしではないが、馬鹿が召喚されてしまったと肩を落とした。