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適当シリーズ

町田希には幽霊が見える

作者: ヘイ

 毎度、変わらない適当シリーズです。幽霊に関する要素はかなり薄いです。

 僕、町田まちだ(のぞみ)には幽霊が見える。

 彼らはこちらから関わらなければ、こちらに触れてくることもない。変わらずにそこでニコニコしているだけの存在だ。

 僕は彼らと関わらないし、彼らも僕には関わらない。見えていても、見えていなくてもそんなものなのだ。

「やあ、希くん」

 そう声をかけてきたのは自らを亜天あてんと名乗る胡散臭い中年男だ。ボサボサの金髪を生やして、その長い前髪に目が隠れている。

 僕が目を見せろと言ったが、彼は傷が酷くて、と言ってそれを断った。

 彼に会ったのはここ最近の話だ。口元がにやけていた彼を見た時、僕は最初、危ない人間だと思った。

 ただ、そんな僕の手を掴んで彼は僕のことを引き留めた。

 そして、そこから彼との関係が始まったのだ。

「おはよう、亜天さん」

 僕がそう挨拶を返すと、彼は笑う。

 どこか彼は僕を見ると、いつも嬉しそうな表情をする。

「亜天さんって、いつも僕見て嬉しそうにするけど、ストーカー?」

「あれ、俺そんなに気持ち悪い?」

 亜天さんが少し焦ったような様子を見せながら僕にそう尋ねてくる。目が見えないからよくわからないけど。

「気持ち悪くないって言ったら嘘になるかな」

 そう言うと、亜天さんは僕の近くに来て、ごめん、気をつけるから、と言ってきた。

「いや、冗談だよ亜天さん」

 僕は仕方ないと思って、そう答えた。

「そっか、よかった。いや、でも心臓に悪いよ、希、くん」

 亜天さんがそう言いながら誤魔化すように笑う。

「そうだ、希くん」

「?」

「学校、良いのかい?」

 僕はそう言われて思い出したかのようにその場を去ろうとする。

「ーー話ならまた後で!」

 そう言い残して、僕は走り出した。

 学校に着くと、七星さんが僕に話しかけてきた。七星さんは珍しい女の子で、地味な僕にも話しかけてくれる女の子だ。

 いや、寧ろ七星さんは僕にしか話しかけてこない。

「町田くん」

「あ、おはよう七星さん」

 僕が挨拶すると彼女はおはようと言いながら、頭を小さく下げた。

「一緒に教室、行こう」

 七星さんに誘われて僕は彼女と一緒に移動する。

 この学校で七星さんは有名人だ。僕とは違う。いつも、僕と一緒に行動する七星さんが僕はどう思われることになるのか不安で尋ねたことがある。

「大丈夫、何の問題もないから」

 彼女は朗らかに笑ってそう言ってくれたのだ。それでも、僕は恐れ多くて、中々、人目のあるところでは彼女に話しかけられなかった。

「ねえ、七星さんってなんで僕に優しくしてくれるの?」

 僕がそう聞けば、彼女は微笑みながらに答えた。

「優しくしてる?そんなつもりなかったんだけどな」

 彼女の言葉はきっとそのままの意味なのだろう。僕に話しかけるのは当たり前のことで、優しいと思えるようなことではなかったのだろう。

 僕は七星さんの近くで講義を受けて、終わった後に僕は七星さんに尋ねる。

「七星さん、この後講義ある?」

「ええと、まだあるんだ」

「そっか、じゃあね」

「今日はもう終わりなの?」

「うん」

「さよなら、町田くん」

 彼女と分かれて、僕は大学から帰る。

 そして、自宅近くの道で僕は亜天さんに出会った。

「あれ、もう帰ってきたのかい?」

「亜天さん、もう二時間経ちますよ?」

 僕が呆れたように言うと、亜天さんはヘラヘラと笑う。

「まあまあ」

「暇なんですか?」

「俺は芸術家だからね、こうして街を歩いているのさ」

 そう言って彼はカメラを使って写真を撮るフリをする。

「どんな絵を描いてるんですか?」

 そう尋ねると、亜天さんは最高傑作だよ、と言いながら、スマートフォンで撮影した絵を見せてくれる。

 それは僕の絵だった。

「…………」

 確かに上手いのだが、なんとも言えない感覚に襲われた。

「ちょっと恐いんですけど……」

「え、そんなに引かないでよ」

 そう言って彼は笑う。

 いつものように演技に塗れた、胡散臭い笑い方だ。

「まあ、これは俺の作品の一つに過ぎない」

 他にも見せて、と言うと、絶対に後悔すると思った僕は流石に求めることはなかった。

「……町田くん。七星ちゃんと同じ大学なんだよね?」

 何故そんなことを尋ねるのだろうか。僕は少し警戒する。

「いや、そんな警戒しないでよ。七星ちゃんとは上手くやれてるかい」

 彼は心配そうに質問をしてきた。僕はゆっくりと頷くと、顎を引いて彼は柔らかく笑った。

「……そっか、良かったよ」

「それに、彼女は大学じゃ有名人ですよ。美人だからかな」

「君は?」

「僕ですか?僕は地味な人間ですよ」

「……それもそうだな」

 どこか言葉に迷ったような様子も見えたが、僕は僕の言葉に肯定した亜天さんにそうですね、と言って笑った。

「ごめんね、引き留めて」

「いえ、気にしないでください。家に帰っても親が中々帰ってこなくて暇ですから」

 僕がそう言えば、彼の言葉はなくなった。家庭事情に足を踏み入れるべきではないと考えたのだろうか。

「……気にしないでくださいよ」

「あ、ああ、うん。ごめんね」

「謝らないで良いですから」

 僕がそう言うと、彼は頭をかきながら笑った。

「ではさようなら」

 僕は家に帰って、眠りについてしまう。どうしても、僕は眠たくて仕方がない。何かをする気力も湧かない。

「ただいま」

 と言っても家には誰もいない。

 僕は階段を上って行き、自室に入りベッドの上に倒れ込んだ。

 そして、目が覚めれば僕は家の外に出ていた。

 いつもこうだ。

 気がついたら朝になっていて、まるで僕は親に会えないように仕組まれているのではないのかと考えてしまう。

 ただ、そうなっているだけなのかもしれないけど。

 そして、今日も変わらずに亜天さんに出会う。

「やあ、希くん」

「おはようございます、亜天さん」

「ん、今日は土曜日だよ?」

「僕は家に居られないんですよ」

「そっか。じゃあ、誰かと遊ぶのかな?」

「遊び相手なんていませんよ」

「七星ちゃんは?」

「考えたこともありませんでした」

 僕はそう言ってスマートフォンを取り出して連絡を入れようとするが、そういえば僕は最近、全くスマートフォンを使っていないかったんだ。

 そんな僕がもちろん、七星さんの連絡先を知っているわけがない。

「僕は彼女の連絡先を知りません」

「じゃあ、他の友達は?」

 僕はスマートフォンを見ていくが、その中には知っているような、あまり覚えていないような名前があった。

 柏木かしわぎ広大(こうだい)

 その感覚はどこか遠い親戚のようにも感じるようなあやふやな感覚だ。

 亜天さんを見るが、彼は僕の交友関係を知っているわけではないのだろう。

「柏木、広大……」

 僕が小さくそう呟いて、スマートフォンの画面から目を離して亜天さんを見る。

「君は友達がいないのかな?」

「嫌味ですか?」

「あはは、俺は友達がいるからな」

 彼の口は大きく弧を描く。でも、僕にはその真実が読み取れない。

「じゃあ、俺と遊ぼうか」

「は?」

「え、嫌?」

「ーー何でそうなるんですか?」

 僕が友達がいないから、といって何故彼と遊ぶことになるのだろうか。

 と言うか。

「悲しくなりませんか?」

「別に」

「大学生の僕と遊ぶ三十代なんて、こっちが悲しくなりますよ」

「気にしない、気にしない」

 彼はそう言って僕の背中を押して、連れて行こうとする。

「分かりましたから、押さないでください」

 僕がそう言うと、亜天さんは、ハハ、と笑って背中を押していた手を離した。

「で、どこに行くんですか?」

 僕が気になって彼にそう尋ねると、彼はうーん、と悩んで見せた後に、ゲームセンターと言ってきた。

「何でですか?」

「別に……。ただ、昔を懐かしみたいだけだよ」

 彼はそう言って微笑んだ。

「あれ、あのゲーム、今はないのか?」

 亜天さんは何かぼやいていた。

「あのゲームってのは?」

 僕がそう尋ねると、彼はベラベラと喋り出した。

「えーと、コレのもっと古いやつかな。やたらコンボが難しかったんだよ。ま、昔に友達と良くやってたんだ」

「その友達ってのは?」

「ーーおいおい、俺のことが気になるのかい?」

「いえ、亜天さんではなく友達です」

「……ごめんね。答えられないよ」

 彼は口を平らにしてそう答えた。いつも、口角を上げてニヤニヤしているような人だと思っていた。

「何かあったんですか?」

「うーん、俺にはよくわからないんだ。ごめんね」

 彼はそう言ってまた、ニヤニヤと笑い出した。

「じゃ、昔懐かしのホッケーでもやる?」

「良いですね。僕、割とできますよ」

 僕たちがホッケーをすると、すぐに亜天さんは疲れ果ててしまい、勝負がついた。

「いやあ、強いね希くん」

「弱過ぎますよ、亜天さん」

 僕は亜天さんとホッケーをやっていると、何か思い出してしまうような感覚があった。それが大事な思い出のようで、離したくないもので、確かにあったものなのだろう。

 僕に友達がいた。

 その友達の名前は柏木広大だ。

 彼と僕は仲が良かった。その柏木は芸術大学に進学した。

 それきり、僕らは会うことがなかった。

 そんな記憶が蘇ってきた。

「ああ、ごめんね。希くん。俺は用事があるから、そろそろ帰るよ」

「それって、僕もついて行って良いですか?」

 あまりにもやることがないから、僕がそう聞くと、彼はいつにも増して真剣な表情をして、僕に忠告をしてきた。

「絶対についてきゃダメだ。希くん、君だけは絶対に……」

 その迫力に押されて僕は何も答えられなかった。

「じゃあ、どこに行くのかも」

「教えられない」

 彼はそう言ってゲームセンターを出て行ってしまった。

 僕はやることもなくて、公園にまで歩いて向かった。

「あー、暇だなあ」

 僕がそんなことを呟いていると、後ろから声がかけられた。

「あれ、町田くん?」

「七星さん?」

「どうしたのこんなところで」

「それは僕も聞きたいよ」

「私はちょっと」

 少し考えるようにしてから彼女は続きを答えた。

「散歩かな……。それで町田くんは」

「亜天さん、ああ知り合いのおじさんとゲームセンターで遊んでたんだけど用事があるみたいでさ」

「そう……」

 僕が可哀想に思えたのだろうか、その呟きは。

「僕は仕方なく遊んだだけだよ?」

「いや、別に何も言ってないよ?」

「あ、そうだね」

 僕が自動販売機のところまで歩いて行き、ジュースを買ってベンチまで戻ってくる。

「七星さん。行かないの?」

「行って欲しいの?」

「別に、そう言うわけじゃないんだけどさ」

「なら、良いよね?」

 そう言って彼女は僕の隣に座り込んだ。

「そういえば、亜天さん、私の知り合いなんだ」

「ああ、そう言えばそうだね。あの人も七星さんのこと知ってたみたいだしね」

 それでどう言う関係なの、と僕が尋ねれば、ただの知り合いとだけ答えた。

 プルルルル、と公園に響く。

「あ、ごめん。電話」

 かかっていたのは七星さんの電話だった。

「あ、はい。……そうですか。では」

 プツと、七星さんは電話を切って、謝り倒しながらこの公園を出て行った。

 それと入れ替わりに、とある男が入ってきた。

「やあ、希くん」

「あれ、亜天さん?」

「ん、偶々君を見かけてね」

 偶々、か。

「そうですか」

「そうだよ。ご飯でも食べに行くかい?」

「良いんですか?」

「それはひょっとして俺に奢ってもらおうとしてる?」

「良いんですか?」

「いや、自分の分は……」

「ケチな大人ですね」

「いや、俺、君とそんなに歳変わらないから!」

「?」

「んん!いや、今回は特別だよ?」

 僕と歳が変わらない。

 そんなわけがないだろう。別に僕が気にすることでもないのだから。

「あの、僕と歳が変わらないって言うのは?」

「まあ、三十代も後半になれば歳の差なんて大したことないんだよ」

「そうなんですね」

 それから、彼は笑ってやる。

 きっと大した意味もないはずだ。僕と彼では認識が違うのだろうから。

 彼は大人で、僕はまだ子供なのだ。

「あ、でも僕お腹減ってないです」

「……なら、別のところに行こうか」

「本当にすみません」

 僕がそう言うと、彼は別のところに行こうと提案してきた。

 その提案に僕が乗ると、彼は歩き始めた。

「うーん、どこが良いかな」

 彼は歩きながらに悩んでいる。そして、結局ゲームセンターに辿り着いた。

「あの……」

「ごめん。ここしか思いつかないんだ」

 少しだけ申し訳なさそうに言った彼に僕は問題ないことを伝える。

「いえ、僕も好きですよ、ゲーム」

「だよな」

「?」

「……いや、そう言ってくれると嬉しいよ」

 彼はそう言ってメダルゲームの方へと向かって行き、僕も一緒にメダルゲームを遊ぶ。

「見なよ、こんなにメダル手に入ったぞ!」

 彼は僕に自慢するように言って、子供のように笑う。

「わー、すごいですねー」

「わー、すっごい棒読み」

 亜天さんはそのメダルを使ってゲームを続けていく。

 そして、今日という日が過ぎて行き、また次の日が来る。

 次の日は、僕は亜天さんに出会って、くだらない話をして、その場で別れた。

 そして、またその次の日も、その次の日も、僕は毎日、亜天さんと七星さんに出会って平凡な日常を繰り返していく。

 そして、僕は亜天さんの毎日の用事というものが気になってしまい、跡をつけることにした。

 一日目は七星さんに見つかり、断念した。二日目も、三日目も、四日目も、五日目も。

 そんなこんなで一週間が経って、ようやく僕は七星さんを回避して、亜天さんを追い続けた。

 子供の頃にやったスニーキングゲームを思い出すようで僕の心は密かに盛り上がっていた。

 そして、一月ひとつき

 僕はそんな期間をかけて、徐々に亜天さんがいる場所を探し当てた。

 探し当ててしまった。

 そこは病院だった。外観は綺麗で白い、大きな病院だった。

 そして、彼の跡をつける。

 彼は一つの病室の中に入って行った。

 僕はその病室を覚えて、彼がその病室から出ていくのを待ってから、面会室をこっそりと除き見た。いや、その顔を見たのが僕の理解に及んでしまったということか。

「僕……?」

 確かにそれは僕だった。

 そっくりな双子なんかじゃない。

 まず間違いなく僕だ。

「何で?僕はここに居る、そうだろ?」

 僕がそう自問自答していると、亜天さんが走り寄ってきた。

 その瞬間に、その目が覗き見えた。

「広、大?」

 思い出した。

 思い出したくなかった。思い出さないほうがよかった。

 僕、事故った。

「あ、ああ、僕、事故に遭ったんだ」

「おい、待て!」

「なら、何で僕は動ける……」

「俺のせいだ!……っ、頼むから、苦しむな!思い出すな!」

 泣き言のように広大は僕に言うのだ。

「七星、何やってたんだよ!」

 彼が今はいない彼女に怒鳴りつけると、階段を駆け上がってきたであろう七星さんが駆け寄ってくる。

「おい、七星!」

「ごめんなさい、亜天さん」

 本当に申し訳なさそうに彼女は言った。

 僕の記憶の中で事故にあった事がフラッシュバックして、思い出していく。

「違う、僕は死んで……」

「死んでない!希、お前はまだ死んでない!」

「町田くん、亜天さんの言う通りなの」

「でも、僕は眠り続けてる。生きてるわけがない」

「おい!やめろよ!」

 そう言って広大と七星さんは叫ぶ。その騒ぎを聞きつけたのか、看護師さんが集まってくるけど、誰も僕を見えていない。

 広大と七星さんは僕が見えていた。

 ああ、もしかして僕が幽霊が見えるようになったのは、僕が幽霊になったからって事なのかな。僕は特別なんかじゃなくて、広大と七星さんが特別だった。

 だから、誰も僕を見ない。

 そう思うと、全てに納得がいった。

「広大、ごめん」

 僕は最後にそう伝えて、砕け散った。

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