「ラジオで出会った彼女と大切な君へ」
このお話を読んで少しでも心が暖まればと思います。
「ラジオで出会った彼女と大切な君へ」
あの日は、シンシンと降り積もる雪の中、深夜のラジオの中からひとりの女性の声が流れていた。
彼は飼い猫と一緒に、そのラジオを聴くのが毎日の楽しみだった。
彼 「ねぇ、テト。今日も彼女はいっぱい話してくれるかな?」何も言わず、ただ足元で丸くなっている飼い猫のテトに、彼はそう話しかけた。
彼は、ラジオから流れる彼女の声が愛おしく、かけがえのないものと思っていた。
彼にとって日課になっていたそのラジオは、2時間ほどだったがゆったりと流れる時間だった。
その日のラジオは、1時間ほど恋愛ばなしをし、彼女は静かに眠りに着いた。
彼「今日の彼女は疲れてたんだね。」ラジオからは、彼女の優しい吐息が聴こえ始める。
その吐息に誘われ、飼い猫のテトも気持ちよさそうに喉を鳴らし、再び深い眠りにつく。
「明日も一緒に聴こうねテト。」彼はそういい、ベッドの中で眠りに着いた。
静かな静寂の後、窓から光が差し込み冬鳥の鳴き声が聞こえる。テトは日課のように、彼の頬に頬ずりし起こし始める
「おはよう。朝だよ、起きて起きて」いつもは二、三回繰り替えすと、起きる彼は今日は起きない。
「どうしたのかな?」そんな風に、不思議に思いながらも、また頬ずりを繰り返す。5回ほど繰り返した時に、ラジオから彼女の声が聞こえた。
「おはよう。起きてる人いるかな?」「昨日は疲れていて、いつのまにか寝てしまいました。楽しみにしていた方、聞いていたかたごめんなさい。」彼女の声だ!そう気付いたテトはラジオの前で大きい声で鳴いた。
「彼を起こして。今日は何故か起きてくれない」テトは、必死にラジオに向かい声を上げた。ラジオの向こうに声が届かないことも知らずに・・・。
しばらくするとラジオは終わり、何も聞こえなくなった。テトは彼のそばに行きまた頬ずりを始める。
「きっと彼は疲れてるんだ。」不安を押し殺してテトは、彼の隣で丸くなり、温めるように眠り始める。
少しすると、彼の家族が訪れる。テトにとっては彼の次に大好きな存在で、いつも優しくしてくれる暖かいものだった。テトは、起き上がると彼を起こすように鳴き、家族に異変を知らせようとした。
家族はその様子を見てすぐに異変に気付いた。テトを優しく抱き上げ頭を撫でる。するとテトの頭に数滴の雨が落ちてくる。上を見上げると彼の家族の目から暖かい雨が流れ落ちテトの顔を覆った。
「なんだろう?この雨は・・・それになんでこんなに切ないの?」猫のテトにはわからないことだった。
家族の何人かが電話をしたり、色々動き回ったりしいろんな人が彼のところに来るようになった。みんなそれぞれが暖かい雨を降らしながら彼の頭を撫で、「頑張ったね。ゆっくり休んでね」と声をかける。そんな言葉を何度も聞いているうちにテトは少しずつ悟った。
「あー・・・彼はお母さんのように星になったんだ。きっとそうだ・・・」テトはそう思うことにした。そして自分はこれからどうすればいいんだろう。そんな風に思い始めた。優しい彼はいなくなり、家族のみんなはまだ泣いている。僕は・・・僕は・・・その時ふと彼が昔話していたことを思い出した。
「いいかい?もし僕がいなくなったらここの小さな穴を掘ってみて。ここには僕の大切なものが入ってるから。」それを思い出したテトはその小さな穴を掘り始めた。
そこには小さな木箱があり、中には封筒に入った手紙と物が入っていた。テトはそれを家族に知らせる。家族みんながテトの呼ぶ方に行き、その手紙を読み始める。
「〜家族へ〜今まで僕のわがままをありがとう。体が弱くてごめんなさい。テトを飼わせてくれてありがとう。僕はみんなの家族に生まれて幸せでした。本当にありがとう。最後にテトへ一緒に過ごしてくれてありがとう。君と過ごした時間はすごく楽しかったよ。最後まで僕のそばにいてくれて本当にありがとう。」
そのあと家族が物を機械に入れてボタンを押した。
「プツー・・ザ、ザザ・・あーあー撮れてるかな?」その機械から彼の声が聴こえテトはにゃーと鳴いた、すると機械からテトと同じ声が聞こえ始める。「ニャー・・・ニャニャ〜 テトもう少し待って。今録音してるから」「あー、うん、初めまして。僕の名前はテトといいます。初めてのラジオ配信でこれが最後になると思いますが、よかったら聞いてください。」
「僕はあるラジオでひとりの女性の声に癒されました。きっと彼女にとっては当たり前な日常を話しただけですが、僕はその日常話が好きでした。そしていっぱい元気をもらいました。」「元気をいっぱいくれた彼女に向けての僕からのメッセージを残します。」「たくさんの元気をくれてありがとう。いっぱいの笑いをくれてありがとう。僕はもうすぐいなくなりますが、最後に一つだけ・・・僕はあなたの声が好きでした。もしも叶うならあなたと会って話して、お礼を言いたかった。それくらいあなたの声に助けられました。ラジオを通してあなたに出会えて幸せでした」
「恥ずかしいな・・・こんな録音はダメだな・・・撮り直そうか。ニャー・・・ニャ・・あっ!テトダメだよ。そこを触ったらあー。プツー・・・ザーザザー」機械から流れる彼の声が終わる。
家族みんながこのテープを彼女に聞いて欲しいと思った。しかし、彼女のことがわからない以上どうしようもない現実に、彼の思いをせめて届けてあげたかった。と言いながら泣いていた。
テトは急にそのテープをくわえ外に出ようとする。家族みんながどうしたのテト?って聞く中でテトは大きい声でニャーと一鳴きする。すると彼の母親が行っておいでと玄関をあける。どこにいるかわからない彼女を見つけに行くんだね。無理したらダメだよ。すぐに戻ってくるんだよ。テトはテープを加えながら必死に走り回った。彼の思いをあの人に・・・そう思って無我夢中だった。
あたりが少しずつ暗くなり、周りには光り輝く建物が多くなる。お腹がすいたな・・・喉が渇いたな・・・朝だけしか食事をしてなかったテトは空腹と葛藤しながら走っていたのだ。彼のためだから・・・そう思うと不思議と空腹は我慢できた。それくらいテトは彼が大好きだったのだ。
しばらく走ると、どこからか声がする。彼がいつも聞いていた声だ・・・テトは声のする方へ急いだ。すると若い二人組が持っていたものから声がした。「それをもっと聞かせて」そういう様にテトは二人の前に立ち鳴き始める。ニャー・・ニャ・・空腹と、喉の渇きで思うように鳴けなくなっていたテトは少しずつ気が遠くなるのを感じた。
「ごめんね・・・渡せなかった・・・ごめん・・」そう思い目を閉じたテトは静かに横たわった。
どのくらいたったのだろう・・・テトが目を覚ますとダンボールの中にいた。箱の中には暖かい毛布とご飯と水があった。テトは空腹と喉の渇きを癒すように食した。食べ終えてから気付くテープがない・・・どこに行ったの??
テトは焦り始める。ダンボールに爪を立て掘っても出てこない。毛布の上にも箱の中にも見当たらない・・・テトは鳴いた。返事のないテープを呼ぶように鳴いた。するとむかいの光る建物からさっきの二人組が出てくる。
「ねこちゃん、生きてた。よかったね〜ご飯食べた?どこから来たの?」二人の女性が交互に話しかける。テトは鳴きながらテープを探す。何かを探しているのを察した二人はこれかな?っていい、テトにテープを見せる。テトはテープを大事そうにくわえる。そこで一人の女性が「いいものあるよ」といい機械を見せる。「そこで買ってきたんだー。」もしよかったら聞いていい?と聞くとテトはテープを床に下ろした。そのテープを機械にいれ再生を押すと彼の声がする。
テトは切ない気持ちと嬉しい気持ちとこみ上げて鳴き始める。ニャ・・ニャー。テープを聴き終えた二人はこれを誰に渡したいのか分からずにいたが、ちょうどそこでラジオが流れる。彼女の声だ。テトはその声に反応し二人の女性の足に擦り寄った。あなたもこのラジオ聞きたいの?もしかしてこの人に?と聞く。テトはニャーと何回も鳴き「そうだよ、この声だよ」と訴える。ちょっと待ってね。女性が違う機械を取り出し耳に当てる。そして何かを話し始めた。しばらく話したあと女性はテトを抱き抱え一緒に行こうかという。どこか懐かしい抱かれる感覚にテトは安心し少しウトウトし始めた。10分ほど歩くと彼女の声がした。「どうしたの??」「かわいいネコさんだね。」その声を聴きテトは目を覚ます。やっと会えた・・・テトは女性の腕から飛び降り彼女の足元に行きくわえていたテープを彼女に渡す。彼女の友達だと思われる二人組が機械を渡し再生を押すと彼のメッセージが流れる。聴き終わった彼女は少し涙ぐみながら、「猫ちゃんはこれを届けに来たの?ありがとう〜」よかったらその彼に会いに行こうかという。彼女とその友達ふたりは歩きながら少し泣いていた。テトは家に向かって勇み足にかけていく。日が昇り始めた頃にようやく彼のいる家が見え始める。家には黒い服を着た人が何人も来ており、家の前には花が飾られていた。「えっ!」三人の女性は驚いた顔をしていた。彼がもう亡くなっていたことに気付いた彼女達は自分の身なりを見る。とても行ける姿ではなかった。「猫ちゃんごめんね。今日はいけないよ・・・だってこんな服じゃ・・・」そう言った彼女をテトは鳴いてスリスリしスカートの端を噛んで引っ張る。彼女たちは顔を見合わせ・・・悩んでいた。するとテトが家の方にかける。誰かが「テト!?一日中どこに行ってたの?夜心配したんだよ」と言っていた。するとテトの鳴き声がし誰かが家からテトと一緒に出てくる。
「あの・・・息子の知り合いですか?」すごく優しそうな雰囲気の女性が涙をぬぐいながら三人の女性に聞く。
一人の女性が「この猫ちゃんがこのテープを持ってきて・・・」と彼のテープを見せる。「それは息子の残していたテープ・・・。そうか。テトは見つけてくれたんだね。ありがとう〜」そう言い女性はまた泣き始める。「よかったら会ってくれませんか?」と言われ三人の女性は「こんな服装ですがいいのですか?それに初対面になるのですが・・・」というと、「誰よりも息子のそばにいて誰よりも息子のことをわかってるテトがあなたを探しに行って見つけてきたのです。どうか息子にあってあげてください。」三人の女性は中には入り初めて彼をみる。
彼は細身ですごく優しい顔立ちだった。「生まれた時から体が弱くて、何度も何度も辛い思いをしてきました。そんな時にラジオから流れるあなたの声に励まされ、最後は幸せそうな笑顔で逝くことができました。本当にありがとうございます」彼の母親の女性が頭をさげお礼を言われている。テトは彼のそばに行き最後に頬ずりしニャーと鳴く。きっと最後の言葉をかけていたのだろう。テトは何度も何度も短く鳴いたり長く鳴いたりしていた。彼を棺桶に入れたあとテトは彼女のそばに行きスリスリと頬ずりする。そして彼女の脇に丸くなり喉を鳴らし始める。まるで彼がいた時のように・・・安心できる場所のように・・・
彼女が母親に「この猫ちゃんは彼の分身なんですね。彼の気持ちを伝えるために私を探しに来てくれました。きっと彼をすごく好きで、ずっと一緒に居たい家族だったのですね。」母親は泣きながら頷き、息子のそばにいてくれた息子にとってのかけがえのない大切なものです。私達よりも息子のことを理解し息子の気持ちを悟ってくれるとても大切な友達です。そう言うとテトはニャーと鳴き母親のそばに行き頬ずりする。そして彼女の元に戻りまた丸くなる。「きっとテトもあなたのことが好きなのね。大好きな息子と同じで・・・」彼女と一緒に来ていた女性がこのテープはお返しします。といいテープを渡すとテトが起き上がりテープをくわえる。そして機械のに近づきニャーと鳴く。「はいはい。また聞きたいのね。」母親が機械にテープを入れようとするとテトが手で弾く。「えっ!」と母親は困惑するとテープは反対の面になる。そのままの面を機械にいれ再生を押すとまた録音したメッセージが聞こえた。「ザーザザ・・・僕はねテト。いつか彼女に君のことを紹介したいんだ。僕の側にずっといてくれて、僕の話を聞いてくれる。きっと僕がいなくなっても僕の代わりに彼女のラジオをずっと聞いてくれる・・・そんな風に思うんだ。だから生きてるうちに「ラジオで出会った彼女と大切な君」を巡り合わせたい。僕のわがままだけどね・・・。ずっと彼女の声を聞いてくれるテトならたぶん僕にも届くはずだから。あぁー欠伸したなこいつ!人が真剣に話してるのに。まぁ・・猫だから何言っても仕方ないよね。これは僕のわがままだから。もし彼女に会えたらきっと居心地いいと思うよ。テトはそうなったらどうするんだろうね。僕の家族はテトを見てくれるだろうけど、彼女はテトを嫌いかも・・・あっごめんごめん。爪立てないで冗談だから。でも本当に僕の言ってることが伝わってるなら大切な君を僕の好きな彼女の近くで過ごさせてあげたいね。テト・・・大好きだよ。いつもありがとうね。ザーザザ・・。」静かにテープが止まると彼女達や家族は泣いていた。優しい声の彼と信頼で結ばれた猫との日常会話・・たったそれだけのテープなのに涙が溢れて止まらなかった。彼女が泣きながら言った。「おかあさん、テトちゃんを私の側に置かせてもらえませんか?彼との約束をテトちゃんはしてるみたいですし・・・図々しいお願いですが。」そんな事ないですよ。むしろ本当にテトをいいのですか?初めて合ったあなたに息子のお願いなんて聞いてもらって・・・。「大丈夫ですよ。」初めて合っただけでお話もしたことないですが、テトちゃんと彼の思いが私にはすごく伝わってきて、私も彼を好きになりました。今度はラジオじゃなくテトを通して直接彼に・・・ずっと、ずっと届けたいと思います。 ねぇーテト・・・
終わり
今回のこの作品のヒロイン役になった女性のイメージはとあるアプリの中で配信をされている女性のイーメージで作りました。配信者ネームは「あめ」さんという方です。本当に優しい声で書きながらも自分が癒されていく形でした。