⒋過去⑶ 彼との付き合い①
この話の1番楽しげな部分。
次の休日、予定通り落ち合いケータイショップへ。
またもやの「買ってあげる」発言にがんばって流されずに(明らかにおかしいのに流されそうになるんだよ!)自分で契約した。
昼食をお礼にご馳走させて下さいという言葉に「10歳も年下に奢られるのは…」というやりとりをしつつ、ちょっとお高いランチのお店に入った。
本当にお礼になるのか…と頭を掠めつつ、でも他にやっぱり思いつかないし…と食事をしつつ、スマホの設定をしてもらい、基本的操作を教えてもらった。
あれ?お礼?
「ナンパにあったら俺に電話しつつ逃げるように」と速攻で小野様の連絡先を登録された。
あれれ?
その後もあれこれと楽しくお話ししつつ、いざ会計という段になり、もうすでに支払われていることを知った。
あれれれ? じゃないわ!
「小野様!どういうことですか!?」
泣きそうを通り越して怒りを露わにしてしまった。
お客様に対してとっていい態度ではない。
「若い子とご飯を一緒に食べれて、それだけで本当にお礼だよ。
あ、もし気にするんだったらまた今度一緒に食事に行ってくれたら嬉しいな」
本当に無理だった。
「小野様、先日は助けていただいてありがとうございました。
本日も引き続きお手数をおかけしまして誠に申し訳ございませんでした。
本日はこれで失礼させていただきますが、このことについてはまた後日…」
まるで昔に戻ったみたい。
流され流され、悪いことではないけれど自分の意思でもないものをやんわりと与えられる。
恵まれているんだろう。
それに感謝しなければならない。
強要されたわけではない。けど私はそれに感謝しなければならないんだ!
接客で叩き込まれた丁寧なお辞儀をしてから踵を返すと「待って!」と声がして腕を取られた。
振り払いはしないものの私の頑なな態度に
「ごめん、調子にのった。
理々子ちゃんとごはんできてうれしくって調子にのっちゃったんだ。」
まだ言うかという私の視線に
「ホントかっこ悪いんだけど、最近俺、会う人会う人仕事関係ばっかで、一人でいるか、あわよくば何か掠めとろうとギラギラしてる人といるか…」
そういうの、疲れちゃってて。
「理々子ちゃんと会って、久しぶりに癒された。
足元をすくわれることを考えずに話せたり、必要以上に媚を売られたりすることもなくて…それに、理々子ちゃんは俺の情報誰かに売ったりしないだろ?っていう打算もあって。」
「もちろんです!」
「だから調子に乗って、次も次もって欲しくなっちゃって。
こんな10歳も年上のオッサンに、気持ち悪いよな。
ホントごめん」
キッチリ45度。深く頭を下げられた。
「そんな!頭を上げて下さい!
気持ち悪いなんて、そんなことはないです!
ただ…」
そう、ただ…
「私の気持ちの問題なんです。
あんまりにも何もできなくて、昔に戻ったみたいで…だから意固地になってしまっていたんです。
小野様には助けて頂いてご好意を受けた上に頭を下げさせるような真似をするなんて」
「そっか。
俺、強引にして理々子ちゃんを傷つけてしまってたんだ。
ごめんな。
これじゃこないだの奴らのこと言えないな。」
あ、強引なのは自覚あったんだ。…じゃなくて
「謝らないで下さい。
本当に助けていただいて、今日も…うれしかったんです。
それに小野様はオッサンなんかじゃない、カッコいいです。
優しいし、誘われて嫌なんて思いませんからあんなのと一緒なんかじゃないです。」
「本当に?じゃあまた誘ってもいい?」
しまった!どうしよう…この流れでそれとこれとは別の話でって言いづらい。
てゆーかやっぱ強引だな!押し強すぎる。
「あー…っと。
前回の状況があれだったし、それにこれを言うのは更にかっこ悪い…参ったな…でも…言わなきゃ返事してもらえないよな。
ロリコンって言わないでほしいんだけど、理々子ちゃんのこと、そういう意味でかわいいなって思ってる。
強引にしてごめん、最初は難しく考えなくていいから、とりあえずデートしてみよ?」
衝撃に固まった。 「もしかして彼は私のこと……きゃっ(ハート)」なんてことを少しは妄想してたけど、現実には絶対ないと思っていた。
とりあえずまた連絡をする、これで避けたりしないと約束させられて(だから強引!)その日は別れた。
小野様は送ると言ってくれたけど、車で送られるとすぐにわかってしまう。
お客様との恋愛を禁止されてはいないけど…、やはり職場には隠していた方がいいと思い、電車で帰った。
その後もデートを何度も重ね、お付き合いをすることになった。
2人の時間はとても楽しく、時折露わになる私の不安定さも彼は柔らかく受け止めてくれた。
すぐに私は彼のことを好きになってしまい、大人でありかっこよくてお金もある彼に釣り合うはずがないとの葛藤も、すぐに彼に丸めてポイ捨てされてしまった。
だって強引なんだもん!
そして私は「なぜ自分なんかが?」という思いは捨てきれずとも、幸せな時間を過ごしていた。