顔合わせ 後
それから私は娘を連れて2週間に1度裕也さんの実家に行っている。黒塗りのリムジンが家まで迎えに来て、数時間あちらで過ごしてまた送られて帰ってくる。
あちらに待っているのはたいていお母様で、腫れ物を触るような扱いなため嫁いびりなんて気配も感じない。
お義姉さんも時々現れて、小声で「大丈夫?」と聞いてくる。「大丈夫です。ありがとうございます。」と答えると心底ホッとした顔をされるので、元々いい人なのだろうなぁと思っている。
そして2回に1回はお父様も少し顔を出していく。お忙しいのに本当に責任を持ってくれているみたい。
今日もお父様が現れたので、相談を持ち掛けた。
「お父様、この娘に生前贈与でまとまった金額を頂いて、ありがとうございます。大変ありがたいのですが、そのお金を私が使えないようにするか、あるいは裕也さんが亡くなった場合にのみ私に引き出せるようにするかなど制限をかけて頂きたいのです。」
「……いいのかな?愚息の言うことではないが、非常時のお金としても有効だと思うが。」
お父様は自分で言っておいて、なんともいえない顔をして確認をしてくる。
「はい。実はお金を頂いてから裕也さんが不安定になってしまって…。」
「「…………。」」
2人ともまた次男の知られざる、かつ知りたくなかった一面を知ってしまって落ち込んでいる。
三十路を過ぎて製造者責任とは申しませんが、そちらから首を突っ込んできたのだから見届けるべきでしょう。
…なーんちゃって。
そこまで意地悪な事は思ってないけど、協力を仰ぐにあたって知らせないではいられないだけだ。
そう。不安に駆られた裕也さんは時間をランダムに家に帰って来たり、数時間のお出掛け用の大きめ荷物を見ては発狂しそうになったりと、かなり……めんどくさい。
え?普通はその前にやる事あるだろうって?
GPS?監視カメラ?ノンノン!そんなのずっと前から付けられてるよ!
「ですから弁護士さんにお願いして、さらにそれを書面にしていただけると少し落ち着いてもらえるのではないかと。」
「それはいいが、アイツはそれでも他に金をもらったんではないかと疑いそうだが。」
裕也さん仕事とかはできるみたいだからね。
ホント、私生活がこんなでもよく破綻しないで社会生活営めるなって感心しちゃう。
「そうですね。あとは、私妊娠したんです。」
「…そうか、それはめでたいな。」
お父様は話の脈絡が見えず戸惑っている。
「妊婦は中々身動きが取れないですから、強行軍の脱出は無理です。生まれてからも2人連れてだと機動性が段違いに落ちるでしょうから、逃亡は物理的に難しくなります。
それに加えて私からの提案で表面上の問題を綺麗にしておくと安心してもらえると思うんです。」
「「………………。」」
2人の戸惑い…というかもう未知との遭遇に対する恐怖に近いものを感じる。
「あ、ご心配頂かなくても、私も過去に学んでいるので逃亡してしばらく暮らせるくらいのヘソクリは複数ヶ所に振り分けて、ダミーのお小遣い口座とは別にしていますのでいざという時も大丈夫ですよ。」
お母様は勿論、お父様も本音のところでは実の息子の方が可愛いいに決まっている。裏切りを前提に…とまでは言わないが、全くの丸腰ではないことを伝えておくことで牽制くらいになればいい。
仕事の速いお父様にさっそく書面にしてもらい、妊娠報告と共に裕也さんに見せた。狂喜乱舞する裕也さんに自分から誠意を差し出した体で
「これで私のこと、少しは信じてくれる?」
ととどめ。
酷いことをされたりしなければ逃げたりなんて考えないよ。私は『家族』の次に、『居場所』に執着しているから。そこは信じていていいよ。
まぁ私は裕也さんのことを全面的には信じていないんだけれど。
これで今回の件は一旦終了。
思いつきなので会話文が多く、読みにくくてすみません。
それでも最後まで読んでくださった方に感謝を込めて。




