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顔合わせ 前

思いつきで書きました。

相変わらず微妙な温度の話です。

 


 結婚して、子供も産まれて1年。

 今日は初めて裕也さんのご家族と対面する。

 これまでは裕也さんだけが実家に帰省したり、のらりくらり私の紹介を拒んでいたが、どうやら限界に達したらしい。

 義父、義母、義兄夫婦がいる。

 義兄の子供達は置いてこられたあたりからも大人の話し合いをする気満々なことが伝わってくる。

 場所は以前の職場。



 最初のうちは普通に挨拶をしていた。

 さすがお上品だ。

 だが次第に切り込まれていく。

 とっくに知っていただろうに、両親の死や親戚と疎遠になっていることなんかを聞かれる。

 そしてついにお母様が有無を言わさない感じで聞いてきた。


「それで、裕也とは縁を切ってくれる?」


「母さん!俺は別れないから!」


 裕也さんは苛立ちを露わにしているが、席を立とうとしないあたり、何かこの席に着かないと不具合があるのだろう。


「はい。ですがこの子の養育費はください。一括で。」


 やはり金か、という空気が流れる。

 そこで思わぬ声が割って入った。


「おめでとう理々子!やっとだね!」


 今まで気配を消していた女将さんである。


「今なら小野様のご両親やお兄様もいらっしゃるんだ。今後のことをしっかりと相談させて頂きなさい」


 女将さんはプロだ。

 だからこそ人払いが必須なこんな内輪の話の席に入ることを許されている。

 そんな女将さんがお客様の話に嘴を突っ込むなんてあり得ない。

 だが、敢えての横槍。

 女将さんへの信用が勝ち、お父様は話を聞く事にしたようだ。


「女将、どういうことかな?」


「失礼を承知で申し上げます。この子は元々ウチの従業員で、とても気働きのいい子でした。その子に声をかけたのは10も年上の裕也様からです。それからは裕也様の家の家事をしては、朝始発で職場に来て働いてといった生活になり…他の女性に心を移され酷い言葉で別れを告げられても仕事に私情は持ち込まない健気な子です。

 それなのに、またちょっかいを出してこの子が気に病んで職場に居づらくなるように仕向け、辞めた後経済的に困ったところをなし崩しに結婚して子供まで……

 小野様お願いします。この子たちが最低限困らない生活を整えるのと、裕也様を二度と近づかないようにするとお約束を。」


 女将さんの一気に流されたぶっ込みにお父様はすぐには言葉が出てこないようだ。


「それは…本当かね?」


 確かに嘘は言っていないけど、その言い方はちょっと裕也さんのクズ度数がアップしてます。

 困っていると、


「俺は絶対別れないから!」


 皆の裕也さんを見る目が変わってきました。


「お金だけではなく近づかないお約束を。

 理々子は次の職場でも朝夕構わず裕也様に復縁を迫られ、ストレスで体調を崩して入院したんです。そこでさらに裕也様は病院側に婚約者だと嘘をついて、退院時、体調が整わない内に同居に持ち込んだのです。

 この子は一度弁護士さんに離婚の相談もしたそうですが、その時にはもうお腹に子供が…」


 苛立ちを先程から変わらず垂れ流しつつ、否定しない裕也さん。皆が裕也さんをまるでモンスターを見るような目で見ていた。


 しばらくの沈黙の後、皆の心に浸透する真実味に、耐えきれず口を開いたのはお母様だった。


「裕也…あなたなんてことを…!」


 お母様は泣きそうになっている。


「理々子さん、女将の言った事は本当かね?」


「……はい。」


 嘘は言ってません。

 でも事実よりはちょっと…言葉のチョイスや時系列なんかに、女将さんの裕也さんへ対する悪意のセンスを感じるだけで。


 さっきとは違った意味で場の空気が荒んでいく。



「理々子さん、すまない。

 愚息のした事は勿論だが、私らは会ったこともないあなたを色眼鏡で見て酷いことを言った。あなたを傷つけたことはなかった事にならないが、出来る限りのことをさせてもらいたい。裕也を訴えると言うならば私らは全面的にあなたの味方になろう。」


 私はちょっと考えてから口を開いた。


「いいえ、皆様のように思われることはもっともだと思います。今まで裕也さんに言われたとはいえ、ご挨拶もせずにいた私が非常識でしたから。」



 言ってから気付いた。

 これは裕也さんに軟禁されていたという告白にも聞こえてしまう。

 更なる絶望感が場を覆い、慌てて付け足す。



「確かに裕也さんを恨んだ事もありましたが、訴えるつもりはありません。身寄りのない私に家族を与えてくれたことには感謝もしています。

 婚姻関係の継続に関しては、今裕也さんはとても良い父親となってくれていますし、娘から幸せな家庭を奪うことは避けたいです。

 ですが、人にうとまれてまで母子家庭を厭うわけではありませんので…」


「嫌だ!絶対別れない!」


 このタイミングでの追撃…

 わざとなの?どんびかれてるよ。


「わ、私達は勘違いしてたの、ごめんなさい!

 あなたに別れて欲しいなんてことはもう思っていないわ!

 だからあなたさえ良ければこれからも…」


 お母様が半泣きになりながら言ってきます。


「よさないか!

 すまない理々子さん。こちらは気にせず、本当の気持ちを言ってくれ。」


 にがり切った表情をしつつ場を治めようというお父様。


「いえ、本当に今は私もご家族の反対がないのであれば家庭を壊そうとは思っておりません。」


「そうか……もし気が変わったらすぐに連絡をしなさい。連絡手段を潰されたり監禁されないよう、そうだな、2週に一度迎えをやるからウチに顔を見せに来てくれないか?

 金は、いざという時裕也がごねるだろうから、普段から孫にと私から生前贈与という形で…」


「親父!理々子に逃亡資金を渡そうって腹か!?」


「馬鹿野郎!」


 ああ、裕也さんに経済的DV疑惑まで上乗せされた感が…

 お義姉さん顔色が悪いわ。お義兄さん、手が震えてお酒が溢れそう。

 数え役満ってこんな感じ?


 わざとなの?

 わざと私が悪くないってするために…違うか。

 私と別れさせられそうになるリスクを1ミリだってこの人はおかせない。



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