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⒑過去⑼ 修羅場

因みにフェイクでもなんでもなく、クズ男なんです。

無理そうなら中止を。

 恋の賞味期限はいかほどのものなのだろう?


 3日?3ヶ月?3年?

 私は恋人というのは別れることもあるのだということを、徐々に忘れてしまっていった。

 見目の良い、財力もある結婚適齢期の男。

 その効果の程もわかっていなかった。



 お互いの身体を知って、その甘さに溺れた。


 外で会うばかりだったデートは裕也さんの家に行くばかりになった。

 別にそれが悪い事だったとは今でも思わない。

 元々忙しい人が、こちらの休みにムリをして合わせてくれていたのだ。


 家で待っていてもいいと言ってくれたから、彼が休めなくても私の休日に彼の家にいれば帰宅した彼と過ごすことができる。

 その間にヒマだから忙しい彼のために掃除をして、洗濯をして、食事を用意して待つ。

 誰かの生活に関わる事は初めてで、最初は失敗もしたけれど、それでも彼は喜んでくれていた。



 しかし次第に彼の忙しさは増し、帰宅も深夜になることが増えた。

 最初は帰宅時間を連絡してくれていたが、なんの連絡もないことが増えた。

 会えた時はお礼を言われる。


「いつもありがとう」


 でも、彼の部屋で朝まで待っても会えないことが増えていった。

 私はそれでもずっと休みごとに彼の部屋に通っていた。

 疑念なんてこれっぽっちも浮かばなかった。



 ある日、彼の部屋に忘れ物をした。

 細々した物が入ったポーチは、なければ不便だが数日後にはまた行くのだし、なければないでもよかった。

 でも私はどうしても気になってしまって、ちょうど翌日の終業時間が夕方だったからその後彼の部屋に取りに行くことにした。

 もしかしたら彼に一目会えるかも、電車の中で浮かんできたその考えは私を幸福にし、足を軽やかに走らせた。


 鍵を開けると彼の靴が見えた。


 いた!


 私ははやる鼓動をなんとか落ち着かせようとしながら、彼の名を大声で呼びたくなるのをこらえながら、中に入っていった。


 彼はリビングで電話をしているようだった。

 うっかり声をかけて邪魔をしなくてよかった。安堵しながら物音を立てないように注意して近づいて行った。


 彼もたった今帰って来たところのようだった。ネクタイを緩めたり、ポケットの中身を出したりしながら会話をしている。

 こちらに背を向けて電話している彼は私に気付かない。楽しそうに話していたから余計にそうだったのかもしれない。


「あぁ、昨日は楽しかった。次はいつ会える?」


 思考が止まった。

 口調から、仕事ではないことはわかりすぎた。


「うん、そう。今帰ってきて…あ。

 いや、なんでもない。うん、いや、あー…あいつの忘れ物があって。」


 そう、例の。

 ここしばらく顔も合わせてないし連絡も取ってないのに、また飯作り置きされてる。


「んー、重い子なんだよね。

 親も死んじゃって、友達もいなくて。

 そういう職業の子なんだ。

 家政婦?ははっ!実際な仕事場は違うけど、もう存在がそんな感じだよ。

 いい加減察してくれたらいいのになぁ。」


 軽い口調で見知らぬ誰かに、初めて人に話した私の過去が垂れ流されていく。

 呆然と会話の内容を咀嚼しようとしているうちに、彼の電話は終わった。


 ようやく無言で背後に立つ私に気がつくと、驚いた後、不快そうに眉間に皺を寄せた。


「何?」


「家政婦、なの?私」


「聞いてたんならさぁ…あーお金、欲しいの?それとも」


 報酬に、抱いて欲しい?


「そっか。

 ……心得違いをしてしまい、誠に申し訳ありませんでした。」


 深々と下げた頭を上げると驚愕している彼がいた。


 ポーチを取り、バッグに仕舞う。

 その流れでバッグからは合鍵を取り出した。

 テーブルの上に静かにそれを置き


「失礼致しました」


 そう言ってリビングのドアを閉めた。



 私物は彼の部屋には置いていなかった。

 お泊まりセットも毎回持参していた。

 今思うとだからかもしれない。

 自分の部屋以外に自分の物を置いておくことが私はまだどうにもできなくて、たかがポーチを取りに来たのかもしれない。



 やっぱりここも仮初めの場所でしかなかったんだ。

修羅場…ってほどでもなかったか

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