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初めての異世界

この小説を見て下さり、ありがとうございます!

初めての投稿ですので、もしおかしい箇所があっても温かく見守って下さい!

 コツコツコツと靴が石畳を踏みしめる音が辺りに響く。

 白いシャツに黒いジャケット、黒いスラックスと革靴という、所謂スーツスタイルというその男の出で立ちは、この町の住人達には余り馴染みがないようで、彼の横を通りがかった者は不思議な物を見る様な表情を浮かべていた。少し経つとその靴音は次第に小さくなり、あるところで止まった。

 

「ここが冒険者ギルドかぁ」


 その男はある建物の前で立ち止まり、感慨深そうにそう呟いた。その建物は少し年季が入っているが、その中は多くの冒険者で活気に満ちあふれている。そして男は冒険者ギルドの木製のドアを開こうと手をかける。


(よし……勇気を出して)


 ギィー。ガヤガヤガヤ。

「この依頼もらったぁ!」

「あぁん!これは俺が取ろうとしていた依頼だ!」

「誰かヒーラーを探してませんかー!ここにとっても腕の良いヒーラーいますよー!今ならお得ですよー!」

「今日この依頼を成功させたら、俺は幼なじみのアイツにプロポーズするつもりなんだ。絶対に生きて帰って来るぜ!」


 冒険者ギルド内では様々な声が嫌でも聞こえる。少しでも良い依頼を巡り喧嘩をする者、参加するパーティーを探す為に自分の出来る事を大声でアピールする者、そして、あまりにもベタ過ぎる死亡フラグを自分のパーティーに話す者。本当に様々だ。

 彼はその喧騒と熱量に圧倒されながらも、どこかワクワクした様子でその光景を見ていた。


(ここが冒険者ギルドかぁ。うわぁ、すごいなぁ。あの人は大きな剣を背中に背負っているし、向こうの方に並んでいる人は何か綺麗な宝石?っぽい物をカウンターに差し出してお金をもらってる。……あっ、美人な人を口説いてる男の人が、その女の人に思いっきり殴られて吹っ飛んだ。大丈夫かな、辛うじて生きてそうだけど。……そういえば、がっつりと死亡フラグをたててる人もいるけど大丈夫かなぁ。あぁ、本当に面白いなぁ。)


 彼はまるで憧れのスポーツ選手に会った子どもの様に、期待と羨望の色を彼のその綺麗な黒目に浮かべていた。


(ん、そんな場合じゃなかった。僕には目的があったんだ。うーん……誰に聞こう。)


 そう彼が思案しながら辺りを見渡していると、彼の立っていた場所の近くにいた、如何にも柄の悪そうな強面の男が彼に近付いていきなり話しかけてきた。


「おい、そこのにーちゃん」

「はい、いったいなんでしょう」


 彼はいきなり話しかけられたことに少し驚きつつも、しっかりと返答する。


(一体どうしたんだろう。もしかして、冒険者じゃないと本当は入っちゃいけなかったのか。)

「何か困ってんのか?きっとアンタ、冒険者ギルドは初めてだろ。こっちにこいよ。色々教えてやるからよ。そこで突っ立ってると邪魔だぞ。」

(ん、違うのか。それにしても何かこの人、見た目と口調に反して優しいな。)

「あぁ、ありがとうございます」


 スタスタスタ。

 彼はいきなりの事で少々困惑しているも、その男の所に歩みよる。そしてその男は話を切り出す。


「アンタ、何か依頼でも頼みに来たのか?それだったら内容によるが、俺達のパーティーがその依頼受けるぜ。まぁ、明日以降になるけどよ」

「依頼……ですか?」

「あぁ違うのか?だが、アンタは見たところ冒険者じゃねーだろ。ここに来るのは、依頼を出すヤツかその依頼を受けるヤツしかいねーだろ」

「いえ、依頼を出す為にここに来たのではありませんよ」

「じゃあ、いったい何でだ?」


 彼は全く理解出来ない様子でその話を聞き、その答えを本人求める。そして彼はこう答える。


「情報収集です」

「情報収集?他のギルドの回しもんか?」

「いやいやいやいや、そんな大した事じゃないです!」


 その言葉を聞き、他のギルドのスパイと疑われた男は驚きながら大げさに手を振って否定した。

 そして、少し恥ずかしそうにしながら、彼はこう答える。


「実は僕、美味しい料理を食べるのが大好きで……ただ美味しいご飯の情報が欲しくてここを訪ねたんです。冒険者さんだったら何か知っているかなぁ、と思ったんです」


 その言葉を聞いて、彼はいきなり笑い出す。


「アッハッハッハ!」

「あのぅ。何か僕、おかしな事言いましたかね?」

「可笑しいに決まってるぜ!初めて聞いた、そんな変な理由でこの冒険者ギルドに乗り込んできたのはよぉ!アッハッハッハ!」


 彼の言葉が笑いのツボに入ったのか、その大柄な男はしばらく笑いが止まらなかった。

 しばらくして笑いがようやく止まると、彼はこう切り出した。


「よし、気に入った!メシおごってやるよ!」

「いいんですか!……でも、今日初めて会ったってのに」

「細けぇ事はいいんだよ!俺が気に入ったんだから!」

「あはは!じゃあ、お言葉に甘えて。……そういえば自己紹介してないですね」

「おぉ、確かにそうだな。俺の名前はローガン!よろしくな!それでアンタは?」

「ローガンさんですね。僕の名前はジローと言います。こちらこそ、よろしくお願いしますね」

「よし、ジローって言うんだな。いくぞジロー!近くに安くて上手い店が有るんだ!」

「いきなりですか!ちなみに、今日の依頼とか用事とかは大丈夫なんですか?」

「あぁ、それは大丈夫だ。今日は休みだからな。いつも大変な依頼をこなしているんだ、たまには休みも必要だろ?まぁ、とりあえず行くぞ」


 そう言ってローガンは心底面白がりながら、その大きな足で床をドタドタと踏み鳴らし外に出ていった。そしてローガンの依頼の心配をしながらも、彼よりも歩幅の小さいジローは、遅れないようにその大きな背中を目印に駆け足で着いて行った。


(顔は怖かったけど、とりあえず親切な人に会えて良かった……)


 ジローは彼の後ろを追っている最中、そう安堵した。


(死んだじいちゃんの部屋を調べている最中、異世界に飛ばされるなんて思っても見なかった。いきなりこの世界に飛ばされたのはめちゃくちゃびっくりしたけど、果たしてこの世界はどんな所なんだろう。やっぱり剣と魔法の世界で魔物とかいっぱいいるのかな。少し楽しみだ。)


 彼は少しワクワクしながら、そう考える。やはりどんなことでも、初めての体験や未知の体験という物は誰しも興奮するものだ。しかし、彼にとっては、もっと気になる事が存在するようだ。


(もちろん、魔法とか魔物とかも凄く気になるけど……それよりももっと気になるのはやっぱり料理かな。どんな物があるんだろう。面白い物を食べてみたいな。やっぱりドラゴンとか美味しいのかなぁ。)


 そうやって彼がまだ見ぬ未知の料理に向かって思いを馳せていると、彼の遥か前方からローガンの大きな声がする。


「おーい、こっちだぞー!」

「あっ、ちょっと待って下さーい!」


 彼は考えている内に、いつの間にか道の真ん中で止まっていたようだ。彼は小さくなったローガンの背中を急いで追いかける。こうしているうちに、ローガンはある建物の前で止まった。


「ここだ。ここが俺のオススメの酒場『鋼鉄』だぜ!」

「はぇー。凄い所ですね。良い雰囲気です。それにとても良い匂いがしますね!」

「だろぉ!」


 その目の前の少し古びた酒場はそこまで大きな店ではなかった。けれど、その店は『鋼鉄』の名に相応しくどっしりと立っていた。しかしその佇まいは、その名が示す通りの鋼鉄の様な冷たさは存在せず、何処か温かさを感じさせる佇まいであった。

 また、この酒場『鋼鉄』は昼間だというのに、まるで夜の酒場の様に賑わい、笑顔と活気に満ちている。それが温かさを感じさせる理由のひとつだろう。そしてローガンは酒場『鋼鉄』に入る為に、その何処か(おもむき)のあるドアに手をかけた。


「よし、じゃあ店ん中に入るぜ」

「はい!」


 そしてほんの十数分前に意気投合し、性格はもちろん、生まれ落ちた世界すら違う、この奇妙な友人2人組は仲良く『鋼鉄』の中へ入っていった。


 片や、少し前に出来た友人を喜ばせるために。片や、未知なる味を味わうために。


(人との関係とも同じように、この世の中では食べ物は『一期一会』。どんなに美味しい物でも……どんなに不味い物でも……例えお袋の味だろうと……その『味』を味わえるのは、その一瞬(とき)だけ。いったい、今日はどんな味に出逢えるのかな。)


 そして、初めて異世界に降り立ったこの運命の日から、ジローの1週間に1日だけの異世界グルメを堪能する日々はひっそりと始まったのだった。



いよいよ次の話は、異世界で初めての料理です。

お待ちかねのスライムはまだ出ません。

頑張って書こうと思います!

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