精神病院
ホラー作品を書いてみました。
よかったら感想、指摘などいただけましたら幸いです。
僕の家の近くには生まれたときから大きな精神病院がある。
病院の窓には鉄格子があり、中は薄暗く、たくさんの人が入院しているんだろう。
──中学2年の時くらいだっただろうか、この精神病院が話題になったことがある。
その年頃はみんな「話題になる場所」が好きみたいだ。
学校では怪談ものが流行り、それに合わせてこの病院も変な噂が出回っていた。
たとえば、『夜に叫び声が聞こえた』、『殺人犯が入院している』などとひどい時には、病院に幽霊が出るなんて内容のものもあった。
中学生にとっては放ってはおけない格好のネタだったのだ。
僕は、小さいころからこの病院の前を通るのは嫌だったのだが、高校へ通学の為、電車に乗るには病院の前を通らなくてはならなくなった。
高校に進学した僕は、そんな噂話があったな。ぐらいの気持ちで考えていた。
飲食店でバイトを始め、初めての出勤日、帰りの最寄駅に着いたのは22時30分を回っていた。
駅前を抜けると普段は通ることのない薄暗い夜の住宅街。
街灯が一定の間隔で照らしている。
歩道と1車線の道路があり、上に病院のある大きな坂道につながっている。
病院から二つ目の小さな信号を過ぎ、小道に入れば僕の家に着く。
しかし夜に病院の前を通るのはいやだな……。
と少しだけなんとも言えない気持ちで帰り道を歩いていた。
坂道を上ったあたりだろうか、病院の前に人影が見えた。
街灯の光が少しかかったくらいの場所にぽつんと人が立っている。
僕は驚き一瞬足を止めたが、そのまま人影の後ろを通り過ぎることにした。
すこしづつ人影に近づいていくと男の人が立っている。
歩道の道路よりの位置で手を胸の前で軽く握り、道路側に向かって何かぶつぶつとつぶやいているようだった。
この時間は道路ににはほとんど車ははしっていない。
この人は病院から抜け出しているのではないだろうか?と考えたが、なるべく人影から離れて歩くようにした。
この状況に緊張しているのか、肩に物凄く力が入るのがわかる。
男の後ろを通りかけたとき、つぶやいている内容が少しだけ聞こえた。
(君は丸なのかな……三角かな……)
意味が分からない。
やはり病院から抜け出しているのではないかと思ったが、そのまま通り過た。
少し歩いたくらいで、きになって一度だけ振り返ってみたが、その人はそのままつぶやき続けているようだった。
一体なんなのだろう……。
──次の日僕は学校で友達に、昨日起きた出来事の話をした。
リアルタイムではすごく怖いのだが、過ぎてしまえば"体験談"になり鉄板ネタとして使える。
この出来事は、僕の怖い話の引き出しになる予定だった。
だが、男が居たのは初日だけではなかったのである。
バイトで帰りが遅くなる度に、その精神病患者であろう男は、全く同じ場所で同じ事をつぶやいており、毎回後ろを通る度、緊張しながら帰ることになった。
──初めて男に遭遇してから1ヶ月くらい経っただろうか……。
いつものようにバイトから帰る坂道を上っているとチンピラのような、罵声が聞こえてきた。
僕は足取りを緩め、その罵声がする方向に注力した。
どうやらあの人物がいるところあたりから聞こえてきてるようだ。
おそるおそる、様子をみながら現場に近づいた。
ギリギリ人の輪郭がわかるくらいの距離に近づいた頃、いつもの男が、同じくらいの体格の20代前後くらいのチンピラに絡まれている様だ。
胸ぐらをつかまれ、街灯で少しだけ男の顔が見える。
男の方は30代半ばくらいだろうか……絡んでいる方は金髪のチンピラ風の男だった。
どうやら、男がぶつぶつとつぶやいていた事に腹を立てて絡んでいる様だ。
僕はいざこざに巻き込まれたくはなかったので、一旦来た道を引き返すことにした。
──それから20分ほどたっただろうか、駅前のコンビニで立ち読みを済ませると、また帰りの坂道を上った。
二人はそのままどこかに行ったのだろう、
そこにはもう居なくなっており、その日を境に帰り道の男は、見かけなくなった。
あの後チンピラと、男はどうなったんだろうか。
僕は、それから時々思い出し、気になっていた。
──それから半年ほどったった帰り道。
またあの場所で道路に向かって人影が立っていたのだ。
僕はまたあの男が、復活したのかと思い久々に緊張が走った。
それと同時にあの時彼は殴られたりして怪我でもしていたのかな?と思ったがどうでもよかった。
そのまま緊張しながら、後ろを通るとやはりつぶやいている。
(君は丸なのかな……三角かな……)
そのまま遠ざかろうとしていたとき、つぶやきの声が近づいてきて肩をつかまれた。
「君は丸なのかな?」
ふりかえるとあのチンピラが僕の顔を見てにやりと笑った。
最後まで読んでいただきありがとうございました。